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Bestseller's Interview さいとう・たかをさん

『俺の後ろに立つな―さいとう・たかを劇画一代』
著者:さいとう・たかを
出版社:新潮社
定価(税込み):1365円
ISBN-10:4103257318
ISBN-13:978-4103257318

book summary

“劇画の父”さいとう・たかをが自身の生い立ちから創作論、人生論までを書き尽す。
『ゴルゴ13』連載開始から40年超を休載なしで走り続けている巨匠の言葉の数々はファンだけでなく、プロの中のプロの至言としてビジネスパーソンにとっても得難い教訓に満ちている。

author profile

■さいとう・たかをさん
1936年、和歌山生まれ、大阪で育つ。幼少時から絵が好きで、学校の試験は一度もまともに受けなかった。漫画嫌いの母親の目を避け、理髪師をしながら17歳で描いた『空気男爵』でデビュー。
その後、上京し、仲間と「劇画工房」を結成。大人の鑑賞に堪えうる「劇画」を定着させ、分業制を取り入れた「さいとう・プロダクション」を設立。出版業にも進出した(のちの「リイド社」)。
1968年連載開始の『ゴルゴ13』は、現在まで1回も休載することなく続いている。
その他の主な代表作に『台風五郎』『無用ノ介』『デビルキング』『バロム・1』『影狩り』『雲盗り暫平』『サバイバル』『劇画・小説吉田学校』『仕掛人 藤枝梅安』『鬼平犯科帳』『剣客商売』など多数。
1976年に小学館漫画賞受賞。2003年に紫綬褒章、2010年に旭日小綬章受章。

interview index

1、『ゴルゴ13』休載のピンチは何度もあった?
2、「分業制を始めた当初は誰も相手にしてくれなかった」
3、「同世代の漫画家はみんな逝ってしまった。だからこそどこまでやれるかやってみたい」
4、取材後記

『ゴルゴ13』休載のピンチは何度もあった?

さいとう・たかをさん写真

55年間、一度も休載をしたことがないというさいとうさん。その秘訣とは…?

―まず、本作『俺の後ろに立つな』に関してですけども、劇画とは違った生の意見を知ることができる本を出すというのは、さいとう先生としても珍しいことかと思いますが、実際に書いてみてどう思われましたか?

なんだか恥ずかしいですね。私が死んでからならみんな好きに書いてくれたらいいと思いますけど、自分で自分の意見を世間に示すというのはちょっと抵抗がありますね。『さいとう・たかをのコーヒーブレイク』という本を昔出したんですけど、こういう自伝的な本はその時が初めてでした。あれがなかったら今回の本も思案してしまったかもしれませんね。

―本作を執筆する際、これまでの劇画人生ですとか、人生そのものを振り返ったかと思いますが、その時にどのような感想をお持ちになりましたか?

なんだかもうすぐ死ぬみたなことを言いますね(笑)一番に思うのは本当によかったな、ということです。子供の頃、親も兄弟もよってたかって私のことをバカだの何だのと言ったものです。そんな風に言われるものだから、俺のバカさ加減はどの程度のものなのかと真剣に悩みましてね。社会人になってちゃんと生きていけるのかと不安でしたが何とかやってこれました。やってこれたどころかこんなに恵まれた仕事に就いて、恵まれた状態になって、本当に出来過ぎの人生だなとつくづく思いますね。

―これだけ劇画のお仕事を長く続けていらっしゃると、どうにもやる気が起こらないということがあったりはしませんか?

そんな図々しいこと考えたこともありません。お百姓さんは天候に苛められても一生懸命作物を作っているでしょう。あの感覚ですよ、私は。

―さいとう先生は劇画のお仕事を始めて55年間、一度も穴を空けたことがない(休載なし)ということですけども、ここまで休まずに続けてこられた要因はどんなところにあると思われますか?

実にくだらない理由なんですけど、私がこの仕事を始めて間もない頃は、仕事を遅らせたり、穴をあけたり、逃げたりするのが売れっ子作家のステータスみたいな時代だったんですよ。当時の私はそれをとんでもない勘違いだと思っていました。他の仕事だったら約束を破れば違約金を取られるじゃないですか。それをまるで自慢のごとく言うのはとんでもないことだというのを若い時に編集者に向かってほざいたことがありまして、そんなことを言ったおかげで私は休めなくなってしまいました(笑)

―なるほど、とはいえこれまでには休載のピンチもあったのではないですか?

そりゃあもう何べんもありましたよ。スタッフがどっと辞めたり、病気で入院して、今度はダメかなと思ったこともありましたし。最近も私の右腕左腕のスタッフが倒れましてもう大変でした。私はここ(さいとうプロ)で寝袋で寝ながら仕事をしたんですよ。今回こそダメかなと思いましたが何とかなりました。
後日担当編集者に“怒らんから正直に言え、今度は落ちたと思ったろう?”と聞いたら、“先生はやるって言ってましたからやると思ってました”ってシレッと言われてね(笑)

―今、気になる漫画家の方はいらっしゃいますか?

私は人のことがあまり気にならないんですよね。よくライバルをモチベーションにしてがんばっている人がいますけども、私はそういう意識がないんです。
でも浦沢直樹さんが編集者の長崎君(尚志・漫画編集者)と組んでやってるんですよ。私は自分の担当編集者に“編集者はマネージャーでなくプロデューサーでなければならない”ということをいつも言ってきましたが、長崎君だけが私の言ったことを実行に移してくれた。だからあのコンビは気になりますね。

―さいとう先生の代表作ともいえる『ゴルゴ13』についてお聞きしたいのですが、本書の中でゴルゴは悪のヒーローではないと書いていらっしゃいましたが、その意図を教えていただけますか?

悪のヒーローかどうかというところでは絶対悪ですよ。ただ、善とか悪は本来ないものだと思っています。都合がよかったら善といい、悪かったら悪と呼んで社会体制が生まれてきたわけです。六法全書を見ても「人を殺してはいけない」とは書いてありません。「人を殺したらこんな目に遭わせますよ」と書いているのであって、つまり善とか悪は約束事なんですね。その約束についていけず、はみ出してしまった人間がどうするかといったら、自分の中に善と悪の基準を持たなくてはいけない。ゴルゴ13の場合も、善と悪の基準は自分の中にあり、他者の善悪の観念とは関係がないんです。

―なるほど。ゴルゴが現実世界にいたらどうなると思われますか?

一週間と生きていられないでしょうね。すぐに抹殺されてしまうと思います。そういう意味で“はみ出してしまった”人間が生きていくにはどうすればいいか、というのも『ゴルゴ13』のテーマなんです。どうすればいいのかというと、考えられないほどの我慢と考えられないほどの用心深さが要求されますね。

「分業制を始めた当初は誰も相手にしてくれなかった」

―さいとう先生は漫画に本格的に分業制を導入したことで有名ですけども、始めた当時は分業という体制を批判する人が多かったわけですよね?

批判どころじゃなかったですよ。異端児もいいとこでいくら説得してもダメでしたね。私らはドラマを作っているわけでしょう。ドラマを作る才能と絵を書く才能は全く別物なのに、漫画家はそれらを兼ね備えていなければならなかった。でもより多くの才能を集めれば、より完成度の高い作品ができるはずです。それを一生懸命説いたんですけど、当時は相手にしてもらえなかったですね。

―さいとうプロダクションの現体制は脚本部・構成部・演出部ですか?

脚本部はなくなりました。なぜかというと、私はこの組織に核分裂を起こしていきたかったんですよ。核になる人間をまず何人か養成してその周りにスタッフを置く。ところが核になれる人間はみんな辞めて独立してしまうんですね。
私はこの業界に入ってくる人間は、みんな私のように悩んでいると思っていたんですよ。ところが実際はみんな“我こそ天才”と思っている。それが私の一番の勘違いだったんですね。だからこの計画はそもそも無理があったということで、結局は“さいとう・たかをのさいとうプロ”でしかなくなってしまった。
そういった状態で脚本部を抱えると脚本を書いている人が、私の描きやすいもの、好みそうなものを書こうとするんですね。そうなってくると私が挑戦するものがなくなるでしょう。私としては自分が苦手なものを持ってきてくれたほうが挑戦する感覚になるんですね。例えば『ゴルゴ13』の世界は私が一番苦手な世界でした。それが40何年も続いてしまったのは不思議ですが。

―『ゴルゴ13』に欠かせない国際情勢にあまり詳しくないということでしょうか。

いや、国際情勢というよりは機械ですね。国際情勢は面白くて好きですよ。余談ですが、私は新聞では一面が一番好きなんです。一面は“誰それが何をした、どこに行った”ということだけが書いてあるでしょう。それを読むといろんなことが想像できて面白いんですけど、三面は細かく書かれてすぎているから面白くないんですよね。
そんなわけで国際情勢は好きなんですが、機械が出てくるとね…コンピュータなんて何が何やらさっぱりですよ。電気のソケットも直せない人間ですからね 。

―さいとうプロの分業制について改めてお尋ねしますが、例えば『ゴルゴ13』を一話仕上げるのに何人くらいのスタッフが関わっているのでしょうか。

今は8人ですね。脚本は外注で脚本家とは極力会わないようにしています。あまり脚本家と会っているとなあなあになってくるんですよね。会っていないと私の好みや得意不得意がわからないからいろんな作品が出てくるんです。もっとひどいのは締切りギリギリ出しよるんですよ、そうすれば描き直させられなくて済むと思って(笑)

―(笑)なるほど

それがまずくなってきたんで脚本部を閉じて外注にしたんですね。

―先ほどおっしゃっていたように、それぞれの異なった才能を束ねて完成度の高い作品を作れるというのが分業制のメリットかと思いますが、分業制のデメリットがあるとしたらどんな点だとお考えですか?

それぞれの才能をまとめる難しさですね。役者(キャラクター)はみんな言うことを聞いてくれますから映画をつくるほど難しくはないですが。『ゴルゴ13』のことでよく、連載開始から40年も経つと、ゴルゴは私の分身みたいな存在になったのではないかと聞かれますけど、そうじゃなくて役者と監督の関係ですね。映画だとそうはいかないでしょう、大変だと思いますよ。

「同世代の漫画家はみんな逝ってしまった。だからこそどこまでやれるかやってみたい」

さいとう・たかをさん写真

『ゴルゴ13』のデューク東郷と一緒に

―今映画のお話が出ましたが、さいとう先生は大変な映画マニアとして知られています。最近公開された映画で良かったものはありますか?

最近観た作品だと『十三人の刺客』のリメイク。久しぶりに邦画で骨のある作品を見せてもらいましたね。

―洋画がお好きなのだと思っていましたが、邦画もご観になるんですね。

洋画も邦画も両方好きですよ。でも邦画は締め出されたんですね。

―といいますと?

観たいと思うものがなくなってしまったということです。『十三人の刺客』はリメイクものなんですが、リメイク前のものを観た時に、これは東映は面白いものを作ったなと思ってその後に期待していたんですよ。そうしたらその後はヤクザものに走ってしまった。それで映画館に行かなくなってしまったんです。
当時、私はホラー映画を作れとやいのやいの言っていましてね。なぜかというと、ホラー映画ほど安く作れて面白いものはない。だから『エクソシスト』が出た時は悔しかったですね。こんなもの外国に作られてどうすんだ、って。ホラーのネタなんて外国より日本の方が絶対多いじゃないですか。それに狼男より猫女の方が恐いですよ。それを無視してヤクザものに走ってしまい、私のような映画マニアは映画館から締め出されてしまった、と。

―さいとう先生の作品も過去に3作ほど映画化されていますね。それに関しては否定的な意見をお持ちみたいですが…。

否定的というよりは、私らの描いているものを映画にすべきじゃないと思っています。私らの作品の面白さは映画の面白さとは別ですから。
私が映画を撮るなら絶対私が描いているような作品は映画にしません。自分の作品を映画化したことを後悔はしていませんが、“どうせロクなものができないだろう”と思っていましたね。

―さいとう先生の劇画に描かれているキャラクターの性格についてなのですが、英雄と悪役でどちらが描きやすいというのはあるのでしょうか。

キャラクターの性格というか、主人公は描きにくいというのがありますね。主人公は極力多くの人に好かれるような顔を書かなきゃいけないわけで、これは至難の業ですよ。試行錯誤を重ねて描いていくわけですけど、楽しくないですね。

―男性と女性では書きやすさに違いはありますか?

それは強烈にありますね。本質的には男に女は描けないと思っています。男より女の方が生物として上の位置にいると私は思っています。女でいる限りは男と同じ位置かもしれませんけど、子供を産んで母親になった時から、男よりも上の位置に行ってしまうんですね。

―さいとう先生の人生に影響を与えた本がありましたら紹介していただけませんか。

一番大きかったのは手塚治虫さんの『新宝島』でした。これは絶対面白い世界になるなと思いました。あとは小学生の時に読んだ川端康成の『雪国』も感動しましたね。

―最後になりますが、さいとう先生の今後の目標・野望等がありましたら教えてください。

この歳で野望なんてないでしょう(笑)でも敢えて言うなら、どこまでやれるかやってやろう、ということですね。漫画・劇画界で私と同世代の人間はみんな逝ってしまいました。もうほとんどいないですよ。だからどこまでやれるかやってやれという、意地のような気持ちはあります。

 作品の画のイメージから強面の人物を想像していたが、実際はすごく気さくでユーモアのある方で、そのお話に聞き入ってしまったときもあった。実は私自身が10年来の『ゴルゴ13』ファンであったので、取材中は『ゴルゴ13』の話ばかりをしてしまったのは反省点だった。
 快くサインにも応じて頂いた。嬉しかった。家宝にします。
(取材・記事/山田洋介)


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第17回 さいとう・たかをさん『俺の後ろに立つな』

『ゴルゴ13 (1) 』
さいとう・たかを/著
リイド社
定価:510円
ISBN:4845800012
ISBN-13: 978-4845800018
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『鬼平犯科帳 1』
さいとう・たかを/著、池波正太郎/著
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定価:500円
ISBN:4845834006
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『サバイバル (1)』
さいとう・たかを/著
リイド社
定価:600円
ISBN:4845821362
ISBN-13:978-4845821365
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