『天国旅行』
著者:三浦しをん
出版社:新潮社
定価(税込み):1470円
ISBN-10:4104541060
ISBN-13:978-4104541065
死と心中、そして生と愛を巡る7つの物語。
富士の樹海に現れた男の導き、死んだ彼女と暮らす若者の迷い、命懸けで結ばれた相手への遺言、前世を信じる女の黒い夢、一家心中で生き残った男の記憶…光と望みを探る傑作短編集。
■三浦しをんさん
1976年生まれ、東京都出身。2000年、書き下ろし長篇小説『格闘する者に○』でデビュー。2006年、『まほろ駅前多田便利軒』で第135回直木賞を受賞。小説作品に『風が強く吹いている』『きみはポラリス』『仏果を得ず』『光』『神去なあなあ日常』『星間商事株式会社社史編纂室』『まほろ駅前番外地』『天国旅行』など多数。エッセイも人気があり、『悶絶スパイラル』『ビロウな話で恐縮です日記』などがある。
■最新情報ならびにブログは、http://www.boiledeggs.com/にて。
1、短編はお題があった方が書きやすい
2、「小説家」という職業
3、「親近感を持って読んでもらえるのではないかと思います」
4、取材後記
短編はお題があった方が書きやすい
―本書『天国旅行』を読ませていただきましたが、短編集ということで、各作品の質はもちろん、作品の並び順がすごくいいなと思いました。この流れは、小説新潮で連載する前から決めていたのでしょうか。
そうですね。全体の流れというか、どこにどんな話を持ってくるかということは、最初から決めていました。
―CDアルバムみたいですよね。各作品を別個に捉えるのではなく、7作品を通して読むことでより魅力的に感じられるという。
ありがとうございます。そう言ってもらえるとすごくかっこいいもののように思えますね(笑)短編を書く時は、それが一冊にまとまった時にどんな本にしたいかということを考えてから書く方が書きやすいんです。今回は編集の方に、全体のテーマを“心中”にしたらどうかと言っていただいたので、最初の作品(『森の奥』)は“心中”がテーマになっていると気付かれないくらい遠いところから入っていって、話を追うにつれて核心部分というか、心中という行為に接近していき、最後(『SINK』)はずばり心中に直接的に関係する人の話にしようと思いました。
―本書の巻頭にTHE YELLOW MONKEYの『天国旅行』の歌詞が引用されていますが、他にも好きなミュージシャンがいらっしゃれば教えてください。
BUCK-TICKです…って何で声が小さくなっちゃうんだろう(照)。
―本の内容と実によくマッチする曲ですが、曲から着想を得たというところもあったのでしょうか。
いえ、そうではないです。この本のタイトルを決める時に、収録された短編の一つから取ってしまうと、その作品だけがクローズアップされてしまうと思ったので、それぞれの作品名とは関係のない総タイトルをつけようと思ったんです。でも、なかなかピンと来るものがなくて……。そんな時に、そういえばTHE YELLOW MONKEYに心中っぽい曲があったな、と思い出して、好きなバンドだし、もしかしたら内容とピッタリかもしれない、と思ってタイトルにさせていただきました。
―今回の“心中”のように、編集さんからお題が出ることはよくあるんですか?
私は短編だとあまり率先してネタが湧いてくる方じゃないんですよ。ご依頼を受けてはじめて、じゃあどういうのを書こうかな、と考えるタイプなんです。だから今回は担当の編集さんが気を効かせてくれたんだと思います。
ただ、心中っていうのは死に直結している題材だし、死に直結しているということは生にも関係します。好き合った男女が一緒に死ぬというイメージが強いですから、愛情とは何だろうという方向にも広がっていけるので、結果的にはいいテーマだったなとは思いますね。
この本の中で書いていることはおそらく普段から書きたいと思っていたことなんですけど、“心中”というテーマを外からもらったことによって、具体的にシチュエーションを想像するきっかけになったという気はしています。
―では、三浦さんとしてはお題をもらった方が書きやすい、と。
短編に関しては、お題が外から設定されることってよくあるんですよ。雑誌に掲載されるとしたらその号の特集のテーマとか。そういう方がやりやすいことはやりやすいですし、短い枚数の場合は、外からの設定がなくても自分の中でテーマを決めて、それに沿って書く方が書きやすいです。
―なるほど。反対に、テーマを決めずに書き始めてそのまま書き切る、ということもあるのでしょうか。
あると思いますね。私は、特に長編の場合はテーマがない方が多いです。“テーマをひとことで説明できないからこれだけの分量を書いたんだよ”みたいな(笑)
―本作では『初盆の客』のように、一つの死の周りに生まれた人間関係を描いていたり、死から派生するものについても触れていますけども、全体のテーマとして、“死”“心中”があります。こういったテーマについて書くことで、精神的なストレスを感じたりはしましたか?
ストレスというのはないですね。ただ現実に心中事件は起きているわけで、その死を称賛することはしたくないとは思っていましたし、逆に、心中や心中をした人たちをやみくもに批難することもしたくないと思っていました。そういったところで気をつかうことはありましたね。
―この短編集を書く前後で、三浦さんの死生観に変化はありましたか?
それはないです。この短編集は心中や死をテーマにしてはいますけど、できるだけ生の方向を目指す話にしたいなと思っていました。書き終えてからもその気持ちに変化はないですね。
「小説家」という職業
―本作の執筆中に行き詰ったりすることはありましたか?
うーん…それはわりといつも…(笑) 。
―そういう状態はどう抜け出すのでしょうか。
寝る!
―あと、ストレス解消法なども教えていただきたいです。
寝る!あとは漫画読むとか…。すぐ逃避行動に走るので原稿が締め切りに間に合わず、なんてこともあったり…。
―短編集を出す時というのは「この作品は特によかった」などと思うことはあるんですか?
ないことはないですよ。確かにあります。“これは我ながらうまくいったぜ!”って。でもそういうのは大概勘違いなんですけど(笑)この作品では『君は夜』が気に入っています。いっちゃってる女の人をうまく書けたぞって。
―あれはおどろおどろしいお話ですね
そうですね、うわぁ、ヤな話って(笑)そういうのが書けるとちょっとうれしいですね。
―かれこれ10年間小説家として作品を発表している三浦さんですが、デビュー当時と今とで小説に変化はありましたか?
あるといいんですけどねぇ…。全く変わっていないとは思わないですけど…。うーん…わからない(笑)。
―作家というお仕事はオンとオフの切り替えを自分だけでやらないといけません。三浦さんはどのように仕事と休みの切り替えをしていますか?
―世の中めまぐるしく変わっていますが、そんな時代における作家の役割はどんなことだと思っていますか。
すごく売れれば別でしょうけれど、基本的に小説って経済を上向きにするわけでもないですし、実利面ではあまり役に立たないものだと思っています。ただ、みんなそれぞれ持っている日常の憂さから、小説を読んでいる間はちょっと離れることができて、自分以外の人生を体験できる、というところでしょうか。そういうお話を作っていくのが役割と言えば役割だと思います。
また、読んだ人自身の現実や世界の捉え方にも、希望や問題意識が芽生えたらいいなと思いますね。これはなかなか難しいことですけど。
「親近感を持って読んでもらえるのではないかと思います」
―三浦さんが読書に目覚めたのはいつごろですか?
幼稚園か小学校の低学年だったと思います。ケストナーとかリンドグレーンなど、児童文学といわれるものを読んだ時はむちゃくちゃ入り込んでいましたね。“こういう面白い友達と遊んだりできたらいいな”とか。常に夢見がちだったので(笑)そういう風に得た読書の喜びは今でも続いているような気がします。
―三浦さんといえば、漫画に造詣が深いことでも知られていますけども、最近お気に入りの漫画はありますか?
昨年末に出たので最近とは言えないかもしれませんが市川春子さんの『虫と歌』というのが面白かったです。昨日読んだ鳥野しのさんの『オハナホロホロ』もよかったですね。
―現在しきりに取り沙汰されている「非実在青少年」に関する論議について、ご意見があれば聞かせていただけませんか。
生身の少年少女、生身のちびっ子が登場するような作品には規制が必要だと思っていますが、アニメや漫画に関しては、条例などで規制するべきではないと思っています。自由な発想や表現を規制するような可能性のある法律・条例には断固として反対です。
―人生において影響を受けた本がありましたら3冊ほど教えていただきたいです。
丸山健二さんの『水の家族』、中井英夫さんの『虚無への供物』、大西巨人さんの『神聖喜劇』。3冊とも小説ですね。いずれも衝撃を受けて、居ても立ってもいられなくなる感じでした。
―そういう衝撃は“私も書きたい”という方向に向かうんですか?
いえ、むしろ“書くとか無理!”って思いますよ(笑)でも“こんなすごいものを読めるなんて生きててよかった!”と興奮しました。
―三浦さんが自分でも書いてみようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
私は元々編集者になりたくて、就職活動で出版社を回っていたんですけど、採用試験の時に書いた作文を、面白いと言っていただきまして。その出版社の採用担当係だった編集者の方が、後に著作権エージェントを立ち上げる時、何か書いてみたらと言ってくださいまして書いたのが最初です。当時定職がなかったので“時間ならたくさんあるしな……”って思って書きましたね(笑)。
―その作文はどんなテーマのものだったんですか?
『10年後の自分』というテーマでした。その出版社に入って売れっ子の作家から原稿を取りまくる名編集者の自分、みたいなことを書いたはずです。
―最後に本作『天国旅行』の読みどころを教えてください。
“心中”という共通のテーマはあるんですけど、それをどこまで意識するかはもちろん読者の方々の自由です。結構バリエーションに富んでいると思うので、そのあたりを“次はこんな話がきたか!”という風に楽しんでいただきたいですね。
登場人物たちの中には情けない感じの人もいれば、一途な人もいるので、親近感を持って読んでいただけるのではないかと思います。
“心中”や“死”をテーマにしているということで、暗いお話ばかりの本だと思うかもしれないが、全くそんなことはない。全体を読んでのイメージは生命力の方が強かった。三浦さんが語ってくれたように、実に多彩な登場人物が描かれているので、想像力を湧きあがらせながら読んでみてほしい。
ちなみに、新刊JP編集部のメンバーは三浦さんの作品の中では、映画化もされた『風が強く吹いている』を強く推していたが、個人的には今作の方が好きだ。
(取材・記事/山田洋介)
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ISBN(上):406273995X
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