革命対談
インタビュー

上田 「日本にいた二十年間はその価値の葛藤がつきまとっていた、と」

姜 「そうですね。でもそれがあったからこそ“発見”があったのだと思います」

上田 「そのように、価値観の違いを意識しながら生きてこられたわけですが、それが祖国に行ったことでどのように切り替わったのでしょうか」
「あの時代のことは若い人にはなかなか理解できないことがあるでしょうけど、当時は、日本で生まれた韓国人にとって祖国は遠い存在だったんです。しかし父や母は祖国で生まれたため、祖国の“甲羅”を持っているわけです。これはわかりやすい言葉でいうとある種のアイデンティティクライシスでした。

でも“クライシス”は危機であると同時に、そこを越える、ブレイクスルーするきっかけでもあるわけです。だから今日は『革命対談』ということだけども、革命というのもある意味では危機の中からブレイクスルーするきっかけになるわけですね。
当時は、自分の親から離反していかざるを得ない自分がいて、しかし離反していくことに矛盾も感じていました。そういう時に初めて韓国に行ってみたらカルチャーショックをうけたわけですね。

それは“ここでも人が生きている、どんな場所でも人が生きている”というすごく当たり前のことでしたが、そういうものから“人はどんな時代、どんな社会に生きても家族を持ち、泣き笑い、食べ、楽しむ”ということに目覚めると、自分の価値の葛藤がすごくバカバカしくなりましたよね。それが大きかった」
上田 「日本にいた二十年間はその価値の葛藤がつきまとっていた、と」
「そうですね。でもそれがあったからこそ“発見”があったのだと思います。ずっと葛藤や矛盾を抱えていたら、人はそれをなんとかしようとするでしょう。そうすると普通の人が目を向けないところに目が向くわけです。それは葛藤している状況からブレイクスルーしようとするきっかけになる場合があります。

世界は同じ人が同じように見ているわけじゃない。葛藤や矛盾があって悩むことで、そこから世界の見方が変わってくるんですよね。 例えばソウルに行くと、東京と同じように夕方サラリーマンが会社から吐き出されて三々五々色々なところに散っていきます。当たり前のことですが、それがすごく意味のあることに見えてくるんです 」
上田 「なるほど」
「どんなところにも人がいる、と。革命とかものの見方・考え方のコペルニクス的な転換というのは一朝一夕に起こるのではなく、葛藤や矛盾を抱えて試行錯誤をしている時に初めてきっかけをつかむものです。その時に世界が変わって見えるんだと思います。
革命って英語で“revolution”でしょう?」
上田 「そうですね、はい」
「“revolution”で“re”がついていて“もう一回帰ってくる”ニュアンスがあるわけですね。帰ってくるということは回転している、しかしもう一回帰ってくる。

回転するために自分が変わらなければならない。しかし、変わったままで落ち着く場所がなければ“revolution”には決してならないんです。じゃあ着地点はどこにするか、ということになる。

当時の僕にはその着地点は見えませんでしたけど、自分が変わったということはわかりました。その時、今の“姜尚中”という人間が生まれたんだと思います 」
全編はオーディオでお楽しみいただけます
この対談の全編はFeBeでダウンロードできます FeBeで対談全編を聴く