俺の取引先である河口商事の応澤常務が、コピー機メンテナンスの見積書を見つめながら、突然こんな言い始めた。
「そういえば、先日営業に来た人が言ってたんだがね、お宅のコピー機がひどい、と」
「え? そうなんですか? どこの地域ですか?」
「千葉は佐倉の方の会社だったな」
佐倉といえば、営業二課の担当地域だ。
「カナイのコピー機は使うべきではないと言うんだけど、うちはこれまで問題は一回も起きてないんだよ。カナイのコピー機の性能が良いせいか、君のおかげか」
「ありがとうございます…」
「でな、今度うち、貿易部門を独立させて子会社を設立することになったんだ。もちろん社屋も新たなに建てるんだが、そこで、おたくのコピー機を使おうと思うんだ」
「え!? 本当ですか!?」
「君が感情をむき出しにするなんて珍しいな。いいか、君が今までやってきたことは正しいんだ。上司に何を言われてもな。大切な誰かのために、一生懸命尽くすこと。それが仕事なんだよ」
まさか、だった。ノルマ達成よりも、応澤常務の言葉が嬉しかった。ちなみにこの話は正式にまとまるまで中山には内緒にしておこう。
【仕事のルール 10】 決めるのは上司じゃない、君だ
【仕事のルール 20】君の大切な誰かのために
先日の一件で川島さんの信頼も取り戻せた。
『33歳からの仕事のルール』にはまず上司から信頼される部下になることが必要だと書かれている。確かにそうだ。上司にいらついてもしょうがない。これからはより信頼される部下として川島さんを手本に頑張っていこう。
さて、そんなある金曜日、一通のメールが届いた。関野さんからだ。
相談したいことがあるとのことなので、土曜日に会うことにした。
場所は関野さんの自宅から程近い超高級ホテル、リッツ・ヒールトン。そう、彼女はお嬢様なのだ。
リッツ・ヒールトンの喫茶店の雰囲気を俺の服の色がぶち壊す。俺はなぜかもみじ色のベストを着ていた。しまった、服の選択を誤ったか。しかし、そわそわする俺はまるで田舎者丸出しだ。東広島で生まれ育った俺にとって、リッツ・ヒールトンは敷居が高すぎる。
胸の鼓動が高鳴るなかで、関野さんは静かにしゃべり始めた。
相談というのは、営業二課にいる上原のことについてだった。
なんでも2人付き合っているのだが(俺も中山も全く知らなかった)、関野さんが妊娠してしまったそうなのだ。一瞬あごが外れそうになった。
「仕事は辞めたくないんです…。だから、どうすればいいのか分からなくて」
上原といえば大型受注案件をどんどん取るエースだが、アフターフォローはあまり得意ではない。言うなれば浮気性というやつか。ちょっと心配だな。 俺はどう声をかけたらいいんだろう。
Q5 : さあ、松井はどちらの行動をとるべきか?
1、「俺はこう思う」と、自分を主語にして話をする
2、「君はこうなんだろうけど」と、相手を主語にして話をする
- 書籍名:33歳からの仕事のルール
- 著者:小倉 広
- 出版社:明日香出版社
- 定価:¥ 1,470 (本体価格+税)
- ISBN-10:4756913407
- ISBN-13:978-4756913401