第56回目の今回は、「穴」で第150回芥川賞を受賞した小山田浩子さんです。
「穴」には、田舎に移り住んできた主婦「あさひ」の前に時折現れる、日常の中の「異界」が描かれています。善良な人々と、普通の風景、だけど何かがおかしい!?
この違和感の虜になったら、もう引き返すことはできません。
各方面から絶賛を集めるこの作品の原点はどんなところにあるのか。授賞式翌日の小山田さんにお話を伺いました。
- 1. いまだに毎日驚いている芥川賞受賞
- 2. “穴”と“獣”でバラバラの断片がまとまった
- 3. いつかは妊娠・出産も小説に
- 4. 取材後記
■ いまだに毎日驚いている芥川賞受賞
― まずは、芥川賞受賞おめでとうございます。昨日は授賞式でしたが、受賞挨拶はいかがでしたか?
― スピーチは新潮新人賞を受賞した時以来ですか?
― 芥川賞といえば、世間の注目度がとても高い賞です。作家をされていると、やはり多少なりとも意識してしまうものなのでしょうか。
― 「穴」はコミカルさと不気味さが同居した不思議な作品です。この作品を構想した時に原点となったアイデアはありますか?
― 「嫁」というのは確かに変な言葉ですよね。誰を指すものでもないですし。
― この小説の舞台になっている「山間部の近く」ではないのですが、私も田舎育ちなので、作中で描かれているような、「平日の日中の田舎」の雰囲気にはとても共感しました。人が少なすぎて現実感がないといいますか……
■ “穴”と“獣”でバラバラの断片がまとまった
― 執筆中に行き詰まるというか、困ってしまったところはありましたか?
― それはかなり独特な書き方ですね。
― 小説を書き始めた時から自然にやっていた書き方なんですか?
― すごく即興性が高い方法ですよね。
― 「穴」は、序盤からかすかな違和感を持ったり、気味の悪さを感じるところがあり、読み進めるうちにそれがどんどん大きくなって、目が離せなくなってしまいました。
― 主人公のお義兄さんもそうですね。
― 小山田さんの作品は、「日常のすぐ近くにある“異界”が描かれている」ということがよく言われます。しかし、物語の中の“異界”的な描写だけでなく、そうでない日常生活の描写もすばらしかったです。一人称の小説ということで、主人公の主婦「あさひ」の視点で物語が進みますが、この視点は小山田さんのものとも重なるのでしょうか。
― こういう不思議な短編を書かれる作家さんが、長編を書くとどんな作品になるのかというのは注目されるところです。今後どんな作品を書いていきたいとお考えですか?
■ いつかは妊娠・出産も小説に
― 小山田さんが小説を書こうと思ったきっかけがありましたら教えていただければと思います。
― 小山田さんの方から書きたいといったわけではなく。
― そして、最初に書いた作品で新人賞を受賞とはすごいですね。
― 別の作品とはいえ、同じ人が書いたのに賞を取ったり一次審査で落ちたりといったことがあるんですね。
― 作風に影響を受けた作家さんはいらっしゃいますか?
― 『緑の家』も、もともとは2つのお話だったものを1つに繋ぎあわせてできたそうですから、確かに小山田さんの手法と共通点がありますね。
― 小さい頃からかなり本を読まれてきたかと思いますが、好みに変化はありましたか?
― では『ズッコケ三人組』シリーズなども。
― 一人で本を読んで過ごすことの多い子ども時代だったのでしょうか。
― それだけあって「穴」でも、草むらなど自然の描写が生き生きしていましたね。
― 人生で影響を受けた本がありましたら、3冊ほどご紹介いただければと思います。
― 最後に、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
■ 取材後記
作品の執筆エピソードや、ご自身のユニークな小説の書き方、好きな本など、たくさんのことを語っていただきました。
小山田さんの新刊『穴』には、表題作で芥川賞受賞作の「穴」のほかに「いたちなく」、「ゆきの宿」の短編2作も収録。こちらもすばらしいので、「穴」だけで終わりにせず、ぜひ最後まで読んでみてください。
(インタビュー・記事/山田洋介)
■小山田浩子さん
1983年広島県生まれ。2010年「工場」で新潮新人賞受賞。2013年、初の著書『工場』が第26回三島由紀夫賞候補となる。同書で第30回織田作之助賞受賞。「穴」で第150回芥川龍之介賞受賞。
あらすじ
仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ夏。見たことのない黒い獣の後を追ううちに、私は得体の知れない穴に落ちる。夫の家族や隣人たちも、何かがおかしい。平凡な日常の中にときおり顔を覗かせる異界。『工場』で新潮新人賞・織田作之助賞をダブル受賞した著者による待望の第二作品集。芥川賞を受賞した表題作ほか二篇を収録。■インタビューアーカイブ■
第81回 住野よるさん
第80回 高野秀行さん
第79回 三崎亜記さん
第78回 青木淳悟さん
第77回 絲山秋子さん
第76回 月村了衛さん
第75回 川村元気さん
第74回 斎藤惇夫さん
第73回 姜尚中さん
第72回 葉室麟さん
第71回 上野誠さん
第70回 馳星周さん
第69回 小野正嗣さん
第68回 堤未果さん
第67回 田中慎弥さん
第66回 山田真哉さん
第65回 唯川恵さん
第64回 上田岳弘さん
第63回 平野啓一郎さん
第62回 坂口恭平さん
第61回 山田宗樹さん
第60回 中村航さん
第59回 和田竜さん
第58回 田中兆子さん
第57回 湊かなえさん
第56回 小山田浩子さん
第55回 藤岡陽子さん
第54回 沢村凛さん
第53回 京極夏彦さん
第52回 ヒクソン グレイシーさん
第51回 近藤史恵さん
第50回 三田紀房さん
第49回 窪美澄さん
第48回 宮内悠介さん
第47回 種村有菜さん
第46回 福岡伸一さん
第45回 池井戸潤さん
第44回 あざの耕平さん
第43回 綿矢りささん
第42回 穂村弘さん,山田航さん
第41回 夢枕 獏さん
第40回 古川 日出男さん
第39回 クリス 岡崎さん
第38回 西崎 憲さん
第37回 諏訪 哲史さん
第36回 三上 延さん
第35回 吉田 修一さん
第34回 仁木 英之さん
第33回 樋口 有介さん
第32回 乾 ルカさん
第31回 高野 和明さん
第30回 北村 薫さん
第29回 平山 夢明さん
第28回 美月 あきこさん
第27回 桜庭 一樹さん
第26回 宮下 奈都さん
第25回 藤田 宜永さん
第24回 佐々木 常夫さん
第23回 宮部 みゆきさん
第22回 道尾 秀介さん
第21回 渡辺 淳一さん
第20回 原田 マハさん
第19回 星野 智幸さん
第18回 中島京子さん
第17回 さいとう・たかをさん
第16回 武田双雲さん
第15回 斉藤英治さん
第14回 林望さん
第13回 三浦しをんさん
第12回 山本敏行さん
第11回 神永正博さん
第10回 岩崎夏海さん
第9回 明橋大二さん
第8回 白川博司さん
第7回 長谷川和廣さん
第6回 原紗央莉さん
第5回 本田直之さん
第4回 はまち。さん
第3回 川上徹也さん
第2回 石田衣良さん
第1回 池田千恵さん