『心との戦い方』
著者:ヒクソン グレイシー (著), Rickson Gracie (原著)
出版社:新潮社
定価(税込):1680円
ISBN-10:4105065319
ISBN-13: 978-4105065317
第52回目となる今回は、“400戦無敗の男”の異名を持つ伝説の柔術家ヒクソン・グレイシー氏が登場。
日本では3年ぶりとなる新刊『心との戦い方』(新潮社刊)は、自身の半生をたどりながら、アクシデントでも冷静でいられる心を強く持つ方法、ベストを尽くすことの大切さなどを説いた一冊で、ヒクソンがこれまで戦ってきた相手についても語られているのがポイントです。
実は新刊JP編集部、前作『無敗の法則』刊行の際にもインタビューを行っており、3年ぶりのインタビューだったんです。そんな今回はヒクソンの心の強さの秘訣について探ってきました。
■ 「グレイシー一族の名のために戦ってきた」
―この『心との戦い方』はとても勇気がわく一冊でした。一人の読者として、お礼を言わせて下さい。この本を書いてくれてありがとうございます。
ヒクソン 「こちらこそ、ありがとう」
―3年ぶりの著作となりますが、この本を書いた目的について教えていただけますか?
ヒクソン 「今回は、前回の書籍と比べて少し重きをおくところを変えています。心との戦い方、幸せの追求といった部分を伝えたいと思ったのです」
―本書を読んでいるときも、ファイトの映像を見ているときも、そして、こうしてお話をうかがっているときも、常にヒクソンが冷静であることに驚きます。その冷静さを保つ秘訣を教えていただけますか?
ヒクソン 「冷静でいられるかどうかは、精神の持ち方次第です。例えば、自分が解決できることは、精一杯真剣に解決するべきです。また、解決できないことに対峙することもあります。そのようなときは、ゆだねる心を持つことが大事です。自分の力で解決できるかどうか、その判断力を持つためには、心の強さが必要です」
―その心の強さをどう身につけたのですか?
ヒクソン 「常に私は一番を目指していますし、ベストを尽くしています。ただ、ベストを尽くそうとすると、苦労もありますし、自分の弱さと向き合わないといけません。そうしたことに立ち向かうことで、自然に心の強さが身についたのだと思います」
―本書ではヒクソンが戦った日本の格闘家について触れていらっしゃいます。山本宜久選手や高田延彦選手に対しては厳しい評価をする一方で、船木誠勝選手や中井祐樹選手を勇敢なファイターであると賞賛しています。勇敢なファイターの条件についてお聞かせくださいますか?
ヒクソン
「私は常に対戦相手をリスペクトしています。それは、彼らをリスペクトすることが、同時に自分へのリスペクトにつながることを知っているからです。ただ、リスペクトをするのは、常にベストを尽くそうとしている人です。もし、リスペクトをしていても、ベストを尽くそうとしていないのではないかという姿が見えたら、その尊敬の念は消えてしまいます。
私はたくさんの試合をしてしまいましたが、嬉しいと思う試合は、相手の選手を尊敬しながらリングから下がることができた試合です。だから、勇敢なファイターとは、常にベストを尽くして戦おうとする姿勢を持っている選手のことですね
」
―しかし、常にベストを尽くすことは大変難しいことだと思います。気分の上がり下がりなどに負けてしまうことはないでしょうか。
ヒクソン 「私がベストを尽くし続けることができた要因の一つは、戦うことを目的とせず、自分の家族を守る、グレイシーという一族の名前を守るという目的があったからです。だからこそ、浮き沈みが少なかったのではないかと思います」
■ ヒクソン・グレイシーに影響を与えた3冊の本とは?
―この本の最後には、長男のホクソンの死について、ヒクソンの想いが書かれています。私も読んでいて悲しみに包まれました。しかし、ホクソンはあなたを生まれ変わらせてくれた部分があるのではないかと感じます。本当に人生に必要としていたものを気づかせてくれたのではないでしょうか。
ヒクソン 「どちらかというと、私は生まれ変わらなければいけなかったのだと思います。あの傷ついたままの状態では、私は生き残ることはできなかったでしょう。そこで気づかされたのです。今の人生を幸せに生きよう、と。より幸せになろう、と。だから、あなたの言うことは間違いではありません」
―本書には、家族に囲まれて育ち、そして家族とともに人生を歩むヒクソンの姿がありました。ヒクソンにとって、家族とはどのような存在ですか?
ヒクソン 「家族は人間としての基礎をつくるために、とても大事な存在だと思います。やがては成長し、その家から巣立って、自分の家族をつくることになるでしょう。でも、その礎は、やはり家族に囲まれて育つことでつくられるものだと思います。それだけ家族は大事な存在です」
―現役を終えた今、グレイシー柔術の後継者たちに期待することはありますか?
ヒクソン
「もちろんこの一族の使命を次のジェネレーションに継承させていってほしいという気持ちはあります。ただ、そこに過剰な期待をすることはありません。
例えば、私に甥が2人いて、1人はファイターになり、1人は医者になったとしましょう。そうしたら、私は2人とも同じくらいリスペクトします。格闘家を目指すからといって、一人だけに期待をかけることはありません。私が何に期待をしているかというと、どんな道でもベストを尽くして幸せになってほしいのです。私が通った道を幸せそっちのけで進んでほしくないのです
」
―最終的にはベストを尽くして幸せになることが大事なんですね。
ヒクソン 「その通りです」
―このインタビューでは、毎回同じ質問をしています。それは、人生で影響を受けた本を3冊ピックアップしてほしいということです。ヒクソン、いかがですか?
ヒクソン 「そうですね…。まずは“Shogun”です。続いて、“The Art of War”。中国の孫子が書いた本です。そして最後に“The Art of Peace”です。また、『星の王子さま』も影響を受けています。この4冊から、3冊チョイスしてください。どれでも大丈夫ですよ(笑)」
―では、最初に挙げられた3冊をピックアップしますね。
ヒクソン 「わかりました」
―最後にヒクソン・グレイシーファンの皆さんに、メッセージをお願いします。
ヒクソン 「この本を出版できて、とても嬉しいです。私はこの本が読者に人生にプラスの影響を与えられることを信じていますし、その結果、多くの人が幸せになれば光栄です。 これまで、柔術を教えることによって身近にいる人に影響を与えることができました。でも、こうした本を通して、遠く離れた人にも影響を与えることができるのは私にとってとても新鮮なことです。この本を読んで、読者の皆さんの人生がよりよりものになることを願っていますし、そのお手伝いができれば私はすごく嬉しく思います 」
■ ヒクソン・グレイシーに恋愛相談をしてみた(3年ぶりの経過報告編)
―3年前に日本で本を出版されましたよね? 実は、私はそのときにインタビューをしているんです。今回、またお話をうかがうことができて光栄です。
ヒクソン 「ありがとう。私もまたお会いできて嬉しいです」
―それで、実は3年前のインタビューのときに、私はあなたに恋愛相談をしました。覚えていらっしゃいますか?
ヒクソン 「ちょっと覚えていません(笑)。どんな内容だったのですか?」
―好きな女の子がいるのですが、なかなか振り向いてもらえないという相談でした。そのとき受けたアドバイスが「Never give up!!」というものです。しかし、上手くいかなければ戦略を練り直すことも必要であると諭されました。あれから、私はいまだにその女の子を諦めきれていませんし、戦略を練り直してもなかなか自分の思う通りにことが進まずに困っています。
もし、よろしければアドバイスをいただきたいのです。
ヒクソン
「勘違いしてほしくないことは、諦めないということは、同じ作戦を続けたり、同じチャレンジの仕方を全く変えないでやり続けることではないということです。
目的は幸せになることです。その幸せを追い求めるためには、諦めないことが大事です。気づくべきは、目的はその人をモノにするのではなく、良い恋愛をして幸せになることですよね。だからその相手に対して、これは自分でしか判断できないことですが、チャレンジし続けるか、新しい人を探すか、判断すべきです。目的は良い人と巡り合って一緒になるということであり、その人を振り向かせることが目的ではないと思います」
―なるほど。
ヒクソン 「ベストを尽くした上で、それでも上手くいかずに方向転換するのは、ポジティブなことです。ただ、やり残したことを抱えるとなると、ポジティブな判断とはいえません。だから、100%やるだけやって、それで方向転換するならば、それはポジティブな判断となるでしょう。しかし、そこでも方向転換をしないと、逆に弱みになってしまう可能性があります」
―わかりました。タイミングを見極めて、どこで区切りをつけるかを考えます。
ヒクソン 「それは恋愛だけでなく、いろいろな人間関係でも同じです。2人以上人間がいると、両方の気持ちが存在します。そのバランスがうまくいかなければ長続きはしませんし、もしバランスがうまく取れれば関係は上手くいくでしょう」
―お願いがあります。もしよろしければ、私に技をかけていただけますか? その痛みによって、自分の中の何かが変わるのではないかと思います。
ヒクソン 「(インタビュアーの右手首を曲げて)関節というのはどこかで限界がきます。痛みの限界を感じたら、そこで止めないといけません」
―(徐々に痛くなってくる手首。耐えきれなくなり…)痛い!
ヒクソン
「(手を離して)意味なく自分を痛めるのはおすすめしません。必要であれば、痛みを耐えないといけませんし、その痛みを無視しないといけないときもあります。
目的のない痛みは、すぐにストップすべきだということを知らせてくれるものです。ただ、もし目的があれば、痛みにも全力で立ち向かうことが大事です」
―わかりました。ありがとうございます!
ヒクソン 「ありがとうございます(笑)また、会いましょう」
■ 取材後記
3年ぶりとなったヒクソン・グレイシーへのインタビュー。彼の言葉通り、インタビューでも「ベストを尽くす」という姿勢を強く感じられ、恋愛相談をしても真剣な眼差しで答えてくれました。こんなに真剣に人と向き合ってくれる人はそういないように感じます。そのヒクソンの姿勢がこのインタビューを通して少しでも伝われば、そして一人でも多くの人が『心との戦い方』に興味を抱いてもらえれば幸いです。
(新刊JP編集部/金井元貴)
■ヒクソン・グレイシーさん
1959年11月21日生まれ。ブラジル出身。柔術家。400戦以上無敗、グレイシー柔術最強の男として知られる。94年、95年と「バーリ・トゥード・ジャパン・オープン」2連覇。プロレスラーの高田延彦(97年、98年)、船木誠勝(2000年)にも完勝。08年に全日本柔術連盟(JJFJ)を設立し、会長に就任。現在はリオ・デ・ジャネイロを拠点に、世界を駆け巡りながら、グレイシー柔術の普及に努めている
新潮社 ヒクソン・グレイシー『心との戦い方』特設サイト
http://www.shinchosha.co.jp/blog/special/506531.html
『心との戦い方』
著者:ヒクソン グレイシー (著), Rickson Gracie (原著)出版社:新潮社
定価(税込):1680円
ISBN-10:4105065319
ISBN-13: 978-4105065317
あらすじ
退学、復学、転校…紆余曲折だった10代の頃の学校生活。高田延彦との再戦の直前に起きた突然のアクシデント。
ヒクソンが中井祐樹と船木誠勝を“勇敢な戦士”と評する理由。
息子・ホクソンの死をどのようにして乗り越えていったのか。
ヒョードルとの“幻の対戦”と引退に至るまでの心境。
400戦無敗の伝説の格闘家ヒクソン・グレイシーが今、明かす「心の強さ」。
■インタビューアーカイブ■
第81回 住野よるさん
第80回 高野秀行さん
第79回 三崎亜記さん
第78回 青木淳悟さん
第77回 絲山秋子さん
第76回 月村了衛さん
第75回 川村元気さん
第74回 斎藤惇夫さん
第73回 姜尚中さん
第72回 葉室麟さん
第71回 上野誠さん
第70回 馳星周さん
第69回 小野正嗣さん
第68回 堤未果さん
第67回 田中慎弥さん
第66回 山田真哉さん
第65回 唯川恵さん
第64回 上田岳弘さん
第63回 平野啓一郎さん
第62回 坂口恭平さん
第61回 山田宗樹さん
第60回 中村航さん
第59回 和田竜さん
第58回 田中兆子さん
第57回 湊かなえさん
第56回 小山田浩子さん
第55回 藤岡陽子さん
第54回 沢村凛さん
第53回 京極夏彦さん
第52回 ヒクソン グレイシーさん
第51回 近藤史恵さん
第50回 三田紀房さん
第49回 窪美澄さん
第48回 宮内悠介さん
第47回 種村有菜さん
第46回 福岡伸一さん
第45回 池井戸潤さん
第44回 あざの耕平さん
第43回 綿矢りささん
第42回 穂村弘さん,山田航さん
第41回 夢枕 獏さん
第40回 古川 日出男さん
第39回 クリス 岡崎さん
第38回 西崎 憲さん
第37回 諏訪 哲史さん
第36回 三上 延さん
第35回 吉田 修一さん
第34回 仁木 英之さん
第33回 樋口 有介さん
第32回 乾 ルカさん
第31回 高野 和明さん
第30回 北村 薫さん
第29回 平山 夢明さん
第28回 美月 あきこさん
第27回 桜庭 一樹さん
第26回 宮下 奈都さん
第25回 藤田 宜永さん
第24回 佐々木 常夫さん
第23回 宮部 みゆきさん
第22回 道尾 秀介さん
第21回 渡辺 淳一さん
第20回 原田 マハさん
第19回 星野 智幸さん
第18回 中島京子さん
第17回 さいとう・たかをさん
第16回 武田双雲さん
第15回 斉藤英治さん
第14回 林望さん
第13回 三浦しをんさん
第12回 山本敏行さん
第11回 神永正博さん
第10回 岩崎夏海さん
第9回 明橋大二さん
第8回 白川博司さん
第7回 長谷川和廣さん
第6回 原紗央莉さん
第5回 本田直之さん
第4回 はまち。さん
第3回 川上徹也さん
第2回 石田衣良さん
第1回 池田千恵さん