「大沢在昌・京極夏彦・宮部みゆき 自作朗読会 リーディングカンパニー Vol.9」開催!
『あんじゅう―三島屋変調百物語事続』
著者:宮部 みゆき
出版社:中央公論新社
定価(税込み):1,890円
ISBN-10:4120041379
ISBN-13:978-4120041372
三島屋の行儀見習い、おちかのもとにやってくるお客さまたちの、温かく、ちょっと奇妙でぞおっと怖い百物語。この『あんじゅう』には「お旱さん」や「くろすけ」といった可愛いキャラクターが出てくるのですが、宮部さんも大のお気に入りの様子。電子書籍版のお話も合わせて、終始温かな笑いに包まれたインタビューとなりました。
- 1. 物語だけでなく挿絵も魅力的な『あんじゅう』
- 2. 宮部さんの野望は“一家に一冊、宮部みゆきの本”
- 3. “1週間に水曜日が二度来たり、日曜日なのに学校に行ってたり”
- 4. 取材後記
- 5. 宮部みゆきさん 朗読会のお知らせ
■物語だけでなく挿絵も魅力的な『あんじゅう』
―『あんじゅう』は讀賣新聞の連載が単行本化されたものですね。宮部さんはこれまでも多数の新聞で連載をなさっていますが、新聞連載はお好きなんですか?
宮部先生(以下、宮部) 「大好きです。なぜかというと、毎日挿絵がつくから。挿絵って、月刊誌だと3点……週刊誌は毎回2点くらいかな……それくらいだけれど、新聞は毎日ですからね。頻度としてはゴージャスですよね。
私、子どもの頃は絵描きさんになりたいと思っていたんです。だから、何よりも毎日絵が見られるのが楽しみで楽しみで。でも、作者ばかりが楽しんでいると、作品が上滑りになってしまいがちですから、それだけは注意してくれるように担当の方にお願いしています。
執筆という点では、いつも1ヶ月ごとにまとめて(原稿を)お渡ししているので、特に他の連載とは変わらないかな」
―『あんじゅう』の読者さんのブログには、もっと長く連載して欲しかった!という声もありました。
宮部 「わあ! 嬉しいです。でも、実はこれでも1ヶ月延長してもらったんですよ、お話が入りきらなくて(笑)。第4話(「吼える仏」)にかかったあたりで、『大変申し訳ありません、延長して頂けないでしょうか』って聞いたら、OKして頂けて。
あとね、この『あんじゅう』の連載中、今までで一番読者の方からお手紙を頂いたんです。そのときに、必ず書いてあるのが『絵も素敵、かわいい』って。絵について言及されていないお手紙やFAX、メールは1つもありませんでした
」
―新聞をひらいたときに、今日は何の絵かなって探してみる楽しみもありますよね。
宮部 「そうなんです。私も楽しみでしたもん。新聞ってその日によって連載小説の載る場所が違うんですよ。だから、普通ならまず1面を見て小説が載っているページ数を調べて、紙面をめくるんです。でも、この連載のときは、南(伸坊=イラストレーター)さんの絵を探せばいいじゃないですか。紙面をめくっていくと、南さんの絵がポーンと目の中に飛び込んでくるので、いちいちページを確かめなくても大丈夫でした。絵がピチピチしているんですよね」
―この単行本にも、絵がたくさん載っていて、すごく可愛いですよね。
宮部 「ね! 単行本でこんなに挿絵を使ってもらえるなんて思いませんでした。単行本になるときに、入れたい絵を30点ほど選んだんですが、それだって全部入るとは思っていなかったんです。それに、こう、本文の中に枠をつくって「挿絵!」って感じで入ると思っていたから、こういう風に入るなんて。仕掛けたのはこの編集の名倉さんなんですよ」(宮部さんも驚いたという挿絵の入り方、是非書店などで手に取って確かめてみてください!)」
―パラパラマンガみたいな感じで、この中でキャラクターたちが動きそうです。
宮部 「そうなんですよね!」
名倉さん(以下、名倉) 「実は、パラパラマンガにするか、こういう風にイラストをいっぱい入れるか、最後まで迷ったんですよ(笑)。くろすけに絞って、パラパラマンガにしても可愛いかもって」
宮部 「あー、それもいいなあ」
名倉 「本当にたくさんのイラストを入れたので、楽しく読んで欲しいですね」
■宮部さんの野望は“一家に一冊、宮部みゆきの本”
―『あんじゅう』は江戸時代を舞台にした怪奇譚ですが、魅力的な登場人物、キャラクターがたくさん出てきます。「お旱りさん」や「くろすけ」など人間ではない、可愛いキャラも登場しますね。
宮部 「これは南さんのおかげです。本文と照らし合わせて頂くと分かると思うんですが、実はキャラクターについて、私は大まかな形でしか描写していないんです。お旱さん(第1話に登場する神様)もおかっぱで顔が白くて、どんぐりみたいな眼で、とか、そう書いただけなんですよ。でもね、南さんがこういった形で描いて下さったんで……。私、挿絵に影響されちゃうんですよ。もっと可愛く書こう!って(笑)」
―絵を見て、もっと可愛くしちゃおう!と(笑)
宮部 「くろすけなんかも、じゃあ手鞠を追いかけさせようとか、歌を歌わせようとかね(笑)。最初はそこまで考えていなかったんです。挿絵の力に筆を動かされた気がします」
―こういう登場人物やキャラクターを創る上で、モチーフとしているものはあるんですか?
宮部
「基本的には全部、想像です(笑)。私は江戸の怪奇譚を書くとき、ネタ本はほとんど使いません。何か題材にしているものはあるんですか?ってたまに聞かれるんですが、『私は原文が読めないからありません』って言ってます(笑)。
ただ、好きですから、怪奇譚本が現代語訳されているものも読みますし、水木(しげる)先生の『水木しげるの妖怪図鑑』も持っていますし、そういうものに触発されることはもちろんあります。でも、それをそのまま使うということはありませんね。ただ、子どもの頃から江戸の怪奇譚や水木先生の妖怪漫画に馴染んでいて、その中で培養されたものが作品として出てきているので、くろすけも、いろいろなところから受けた影響が “くろすけ”の形になって出てきたんだと思います」
―私の印象はこの『あんじゅう』を読ませて頂いたとき、こう、ジブリ作品のキャラクターに通じるものがあったんですね。特に“くろすけ”には。優しさがあって、それだけにメッセージが含まれている。江戸時代の物語なのに、すごく身近な感覚で。
宮部
「この『三島屋変調百物語』シリーズは、暗い話が多いんです。その中で、童話的な要素を入れることを考えてはいます。
青い鳥文庫っていう中学1年生くらいまでが上限の、子どもたち向けのレーベルから作品を出させて頂いているんですが、子どもたちに読んでもらおうと意識すると、むしろ重厚というか、重い、ある意味哲学的なテーマに踏み込まざるを得なくなるんですね。人間の業…なぜ、人間は悪いことをするのか、嘘をつくのか。そういうところを書かざるを得ないんですよ。
「一家一冊」というのが私の遠大な野望なんです(笑)。お子さんからお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんと、皆さんに読んで頂けるようになりたいなって。でも、ご家族で読んで頂くためには子どもの視点が重要だし、お子さんに読んでもらおうと思ったら、優しいだけじゃない、暗いところに踏み込んでいかないといけないと、感じるようになりました。
スタジオジブリの作品もそうですよね。決して暗くはないけれど、逃れられない業だとか、人間のずるいところ、怖いところを描きますよね。私自身、それはずっと書いていくことになると思うのですが、そういうところを、挿絵や装丁などで救ってもらえる。世界を1つ明るいものにしてもらえるんです。テキストしか書けない人間にとっては嬉しいことです
」
―この『あんじゅう』は、iPad対応の電子書籍版としてもリリースされています。巻物風にテキストを読みながら、上の画面ではキャラが動くというのは新鮮でした。
宮部
「この書籍の装丁、デザイン、挿絵…全て本当に素晴らしいと思いますし、またそれとは別に、iPadという媒体を使って、ここで出来るいろいろなプレゼンをして頂けたということですよね。
実は私、最初に、このアプリの雛形を見せて頂いたとき、『テキストは要らないんじゃないの?』って……『いいじゃん、絵だけで売れば』って言っちゃったんです(笑)。そう思ってしまうくらい、新鮮でした」
―本とは全く別の、新しいエンタテインメントのようにも思いました。
宮部 「別ですよね~。今回、これだけ作り込んでもらえなければ、私、OKしなかったと思います(笑)」
―宮部さんが考える、紙の良さと電子書籍の良さの違いはどこにあると思いますか?
宮部
「紙の本には長い歴史があって、1冊の本が1つの世界を構成していると思うんですよね。大好きな本って、枕の下に入れて寝たりするじゃないですか。大好きな主人公がこの世界の中に生きているんだ、って思いますよね。それに、人に貸すにしても、プレゼントするにしても、面白いよ!読んでみて!って手渡せる楽しみもありますよね。
私は電子書籍のことはあまりよく分かっていないんですが、新しい、面白い企画が出来るということ、そして視覚障害をお持ちの方にいちいち大活字本をつくらなくても、ボタン一つで文字が拡大できること。これらは大きなメリットだと思います。それから……、お仕事で海外にいらしている方が日本の小説を読むのって難しいですよね。取り寄せるのも大変ですし。でも、iPadが一台あれば、あるいはパソコンを持っていればすぐに、日本の新刊が読めちゃう。これは京極(夏彦)さんに教えてもらってなるほどと納得したんです。だって、海外でどれだけたくさんの日本の方が働いていらっしゃるか……。将来的に、電子書籍としてきちんとパッケージングされているものが流通して、適切な価格で売買されるのならば、私たち作家にとっても幸せな形になると思います」
―本を普段読まない人にも、活字に馴染むことができるチャンスですよね。
宮部
「そうですよね。手間をかけなければ届かなかったところにも、便利に使って頂ける。また、こういう媒体ならではの遊びができる。そういう両方の使い道があると思います。
だからこそ、ただ右から左にそのまま移すだけではちょっとなあと思いますね。私の既刊本についても、これからどうしていくかという話がぽつぽつ出てきているんですけど、そのまま電子版にするだけでなく、何か新しいことをしたいですね
」
―話は変わりますが、作家としてのモチベーション、何が宮部みゆきを宮部みゆきたらしめているのかをお聞かせください。
宮部
「私はたまたまこの仕事に就けて、いい先輩、いい編集者に巡り合い、幸運に恵まれてここにいますけど、本当にこれ以外何の取り得もない人間なんです。だから、このお仕事をやめたら、何もなくなっちゃいます。あと、やっぱり書くことが好きなんですよね。作り話が好きなんです。
だからね、物語を書いていてすごく楽しいし、自分自身が『この結末を知りたい!』って思うんですよね。たとえば恋物語なら、2人が結ばれるのなら、結んであげたいし、別れるのならちゃんと別れさせてあげたい。そういうことが一番のモチベーションです。
逆に自分があまりにも物語にのめり込んでしまうから、担当編集さんには冷静になって欲しいってお願いているんです。のめり込み過ぎて、話が曲がってしまったりっていうことがしょっちゅうあるんで」
―名倉さんはそういう風に止めたことはありますか?
名倉 「今回は連載だからあまりそういうのはなかったですね。でも、後から読んで、のめり込んでましたね~っていうところは結構……(笑)」
宮部 「わーって書いていると、計算がおかしくなっていることが多いんです。年齢が合いません!とか、このままだと家の窓の数がとんでもないことになります!とか(笑)。あとは、1週間に水曜日が二度来たり、日曜日なのに学校に行ってるとか。そういうのは日常茶飯事なので、ホントご苦労をおかけしてます」
―宮部さんが影響を受けた3冊の本を教えてください。
宮部 「3冊だと、逆に迷ってしまって選べないので、1冊だけでいいですか? これはいろいろなところで言ってるんですが、岩波少年文庫から出ている、ルーマー・ゴッデンというイギリスの女性作家の、『人形の家』というドールハウスの話です。今でもときどき読み返しています」
―では、最後に、この『三島屋変調百物語』をどうのように育てていきたいと思いますか?
宮部 「江戸の怪奇譚を書くのは好きなので、これからも続けていきたいと思っています。毎回、組むイラストレーターさんを変えて、1冊1冊色の違うシリーズにしたいと思っているんです。今回は可愛いもののけが出てきましたけど、次回はものすごく怖いかも知れません。恋愛小説のような巻があるかも知れないし、お武家さんが出てくる歴史小説のような巻があるかも知れません。そういう風に、バラエティ豊かにしていきたいですね」
―百物語というと、最後に終わったら物の怪が出るという話がありますよね。
宮部 「そうそう! 百話まで書いてしまうと怪奇現象が起こるんですよね。だから99話でやめて(笑)、最後の話はこれをずっとお読みくださった読者の皆さんに、お手持ちの怖い話を添えていただければと思っているんです」
―最後は読者がそれぞれの結末を楽しむということですね。ありがとうございました!
(新刊JP編集部/金井元貴)
■ 宮部みゆきさん 朗読会のお知らせ
「大沢在昌・京極夏彦・宮部みゆき 自作朗読会 リーディングカンパニー Vol.9」
直木賞作家3人による朗読会。同じ事務所に所属し公私共に仲の良い3人の作家…大沢在昌、京極夏彦、宮部みゆきが読者との交流とチャリティーを目的に始めた年に一度の自作朗読会――「リーディングカンパニー」。
9年目を迎える今回は、初めて3人共演の演目に時代物をチョイス。宮部が書いた泣ける短編を3人がどう声で演じるのか…。そして複数の配役をどう演じ分けるのか…。今回も期待と不安がふくらみます(笑)。普段はお目にかかれない作家の素顔に接するまたとない機会。ぜひ足をはこんでみてくださいませ。
【公演日時】
2010年11月6日 土曜日(昼夜2回公演)
・昼の部 12時40分 開場
13時30分 開演
・夜の部 16時40分 開場
17時30分 開演
【公演会場】
「IMAホール」(定員501席)
※ 都営地下鉄大江戸線「光が丘駅」A4出口
【チケット料金】
全席指定4,200円(消費税込)
※ 経費を差し引いた収益はチャリティーとして寄付
【チケット取扱い】
チケット「ぴあ」にて、10月1日10時より発売
0570-02-9999/Pコード:618-057
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宮部 みゆきさんが選ぶ1冊 |
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『人形の家』 |
■宮部みゆきさん
東京都出身。
1987年、短編「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。
88年『かまいたち』で第一二回歴史文学賞佳作入選。
89年『魔術はささやく』で第二回日本推理サスペンス大賞、92年『龍は眠る』で第四五回日本推理作家協会賞長編部門、同年『本所深川ふしぎ草紙』で第一三回吉川英治文学新人賞、93年『火車』で第六回山本周五郎賞、97年『蒲生邸事件』で第一八回日本SF大賞、99年『理由』で第一二〇回直木賞、 2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞、02年第五回司馬遼太郎賞、第五二回芸術選奨文部科学大臣賞文学部門、07年『名もなき毒』で第四一回吉川英治文学賞を受賞
解説
江戸は神田三島町で袋物屋を営む三島屋の行儀見習い・おちかの元にやってくる、人々の“変わり百物語”。行く先々で水が“逃げて”しまう丁稚(でっち)の少年・平太と、平太に取り付いた女の子“お旱さん”の少し哀しい物語を描く「逃げ水」、怖くて近寄れない幽霊屋敷に住みついた真っ黒な生き物“くろすけ”とある夫婦の交流が描かれる「暗獣」ほか全四話を掲載。
思わず微笑んで手を伸ばしたくなるような温かさや、胸を衝かれるような寂しさ。読み終えるのがもったいなくなるような、「世界」への愛着を感じる 一作だ。
■インタビューアーカイブ■
第81回 住野よるさん
第80回 高野秀行さん
第79回 三崎亜記さん
第78回 青木淳悟さん
第77回 絲山秋子さん
第76回 月村了衛さん
第75回 川村元気さん
第74回 斎藤惇夫さん
第73回 姜尚中さん
第72回 葉室麟さん
第71回 上野誠さん
第70回 馳星周さん
第69回 小野正嗣さん
第68回 堤未果さん
第67回 田中慎弥さん
第66回 山田真哉さん
第65回 唯川恵さん
第64回 上田岳弘さん
第63回 平野啓一郎さん
第62回 坂口恭平さん
第61回 山田宗樹さん
第60回 中村航さん
第59回 和田竜さん
第58回 田中兆子さん
第57回 湊かなえさん
第56回 小山田浩子さん
第55回 藤岡陽子さん
第54回 沢村凛さん
第53回 京極夏彦さん
第52回 ヒクソン グレイシーさん
第51回 近藤史恵さん
第50回 三田紀房さん
第49回 窪美澄さん
第48回 宮内悠介さん
第47回 種村有菜さん
第46回 福岡伸一さん
第45回 池井戸潤さん
第44回 あざの耕平さん
第43回 綿矢りささん
第42回 穂村弘さん,山田航さん
第41回 夢枕 獏さん
第40回 古川 日出男さん
第39回 クリス 岡崎さん
第38回 西崎 憲さん
第37回 諏訪 哲史さん
第36回 三上 延さん
第35回 吉田 修一さん
第34回 仁木 英之さん
第33回 樋口 有介さん
第32回 乾 ルカさん
第31回 高野 和明さん
第30回 北村 薫さん
第29回 平山 夢明さん
第28回 美月 あきこさん
第27回 桜庭 一樹さん
第26回 宮下 奈都さん
第25回 藤田 宜永さん
第24回 佐々木 常夫さん
第23回 宮部 みゆきさん
第22回 道尾 秀介さん
第21回 渡辺 淳一さん
第20回 原田 マハさん
第19回 星野 智幸さん
第18回 中島京子さん
第17回 さいとう・たかをさん
第16回 武田双雲さん
第15回 斉藤英治さん
第14回 林望さん
第13回 三浦しをんさん
第12回 山本敏行さん
第11回 神永正博さん
第10回 岩崎夏海さん
第9回 明橋大二さん
第8回 白川博司さん
第7回 長谷川和廣さん
第6回 原紗央莉さん
第5回 本田直之さん
第4回 はまち。さん
第3回 川上徹也さん
第2回 石田衣良さん
第1回 池田千恵さん