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泉「親父とおふくろと、僕と弟で。ファミレスで1年に一回できるかできないかの贅沢な時間に、メニューを見て、僕はハンバーグを食べたかったんです。だけど値段を見て、これは頼んじゃいけないなと思って、一番安いコロッケ定食を頼んだんですよ。それが僕の中ではずっと残っていて。絶対値段を見ないでほしいものを手に入れるようになりたい、と思ったんです。 そこから高校に入り、不良グループの女の子を好きになり、不良になって、彼女と付き合って別れたあと、また学校に行き始めました。その辺から僕は、10代、20代というのは『物欲』ですよね。何かモノを手に入れたい、欲しいものを買いたいというのがすごく強くなったんです」
岡「『何もない』という痛みがきっとあったんでしょうね」
泉「そこからいろんなものを手に入れるに従って、だんだん変わってくるんですよ。おかげさまで小説が売れたり、講演会で呼んでいただけたりして。でも、手に入れるに従って、またそこで変わってきたんです。僕は物欲といっても、フェラーリに乗りたいとか六本木に住みたいというような欲求、つまり高い物とか欲しかったり贅沢がしたいんじゃなくて、この服が欲しいと思ったら、たとえ500円でも100万円でも値段を見ないで買いたいんです。こういう物欲がずっとありましたね。でも、人間の欲望には際限がないことに気づくんですね」
岡「ハッハッハ(笑)」
泉「僕が本を出したころに感じたのですが、1冊目の本を出したときは、自分の本が本屋さんの棚に1冊だけ置いてある、それを見つけた時にむちゃくちゃうれしいんですよ」
岡「飛び上がるくらい嬉しいですよね。世に出たぞ、名が残るぞ、という」
泉「ところがこれがすぐに不満に思えるんです。なんで1冊しか置いてないの、と。次の本では面展開していて欲しい。1冊だけ棚出しだと感動も何もないんですよ。面展開になると、なんで平積みじゃないんだって思い始める。平積みになると、なんでレジ前の話題書コーナーじゃないんだ、なんでワゴン販売じゃないんだ、そう思い始める。ワゴン販売になるとなんで垂れ幕下がらないんだって思い始める」
岡「キリがないですね」
泉「そうです。キリがないんです。何かを手に入れることが幸せだって思ってたんだすけど、それは違うなと」
岡「限度がないんですよね」
泉「高級料理店でフランス料理を食べるのは確かに幸せなことですよ。でもね、家族で年に一回ファミレスに行って頼んだコロッケ定食。これはすごく幸せな時間だったんだな、ということに気づいたんです。幸せな人生、最高な人生というのは、何かを手に入れたらなれるというものではなくて、自分が今いる状態が幸せだって感じられれば、最高じゃないかな、と思えるようになりました」
岡「そうですよね。素晴らしい」
泉「ただそこに至るためには、何かを手に入れるという自己実現。その過程がなければ、僕はそこにたどり着けなかったと思います」
岡「泉さんの3つの気づきのうちいくつかが、すでに出てきたんじゃないかと思うんですけど、偏差値30からなぜ半年で全国模試1位になれたのか。ここにも気付きがあったんじゃないかと思いますが」
泉「僕が通っていたのは香川県の県立高校で、卒業生の7割は就職し、2割は短大に行く、残り1割が4年制大学に行くという高校でした。ただし4年制大学と言っても地元の香川大学に入るのが関の山で、伝説の先輩天野様という方がいて、横浜国立大学に一人だけ入った方がいて、彼がずっと語り継がれていたんですよ」
岡「天野“様”なんですね」
泉「はい。勉強をし始めて3ヶ月もすれば多少マシになるんです。だから、僕は全国レベルで勝負してみたいと思っていました。でも、敵の強さが分からないんです。周りにいないので」
岡「地元しか分からないですからね」
泉「学校の中でどれだけ勉強ができるようになっても、ライバルがどこにいるのか分からなかったんです。そこで、模擬試験を自宅受験してみて、自分の高校の各科目のトップがそれぞれ受検してみたら全国ではどれくらいの位置になるだろうかと試してみたんですよ。英語は僕がやり、国語はその教科のトップがやり…というふうに。時間やルールは同じで、受けている人が違うというだけの状態で、送ってみたんです。これでどのくらいなんだと。そうしたら全国1位だったんです。これを見た時に、灘とか開成とかすごい高校いっぱいあるけれど、たいしたことないじゃないかと。うちの高校の各科目のトップが集まれば…」