書籍名:CM好感度NO.1だけどモノが売れない謎
ー明日からテレビCMがもっと面白くなるマーケ
ティング入門ー
著者:鷹野 義昭
出版社名:ビジネス社
価格:1,680 円(税込)
発売日:2009年6月5日
ISBN-10:482841505X
ISBN-13:978-4828415055
◆メディアとの出会い
まずは鷹野氏の少年時代の頃についてお話を聞いてみたところ、「萩本欽一さんがやっていたラジオ『欽ドン!』
(「欽ちゃんのドンといってみよう!」)に自作のコントを投稿していて、結構採用されていましたよ」とのことで、
ラジオに熱中する少年時代を送っていたそうだ。
しかし、そこは後のCMマーケター。もちろんテレビにも関心はあったようで、当時好きだったテレビCMを尋ねると
故・山口小夜子さんが出演していた資生堂のCMを挙げた。
「すごく幻想的で、商品の質感や高級感がよく表れていた」点が気に入っていたそうだ。
少年時代からメディアに親しんだ鷹野氏が広告に興味を持つのは必然だったのかもしれない。
やがて広告マーケティングの世界に入り、長年広告戦略のプロとして活動してきた鷹野氏は現在のテレビCMをどう見るのだろうか?
◆テレビCMの未来―
「より広範囲に商品を売るとなると、やはり核になるのはテレビ」
『CM 好感度No.1だけどモノが売れない謎』は、テレビCMのそもそもの土台であるテレビ業界全体にも切り込んでおり、
現在のテレビ業界の動向を知るうえで重要な内容を含んでいる。現在のテレビ業界、テレビCMに関して、鷹野氏に話を聞いてみた。
近年、テレビのメディアとしての力の衰えを指摘する声が聞かれるが、本書によるとテレビの平均視聴時間は10年前とほとんど変わらないそう。
テレビCMの影響力に関しても、鷹野氏は「広告活動をするうえで、より広範囲に商品を売るとなると、やはり核になるのはテレビです」と語る。
では、どうしてそんなことが言えるのか。その理由を次のように述べる。
「テレビはあらゆるメディア媒体のなかで、動きや音など、表現に使える要素が最も多いんです。インターネット上での広告は増えていますが、インターネットというのはある程度、能動的にならないと情報を得られません。しかしテレビは、つけてさえいれば黙っていても自然に情報が入ってくるので、身近さといった点においてもテレビの方が優位だと思います」。
しかし、今後広告が向かう方向を尋ねると、「今後、広告はクロスメディアの時代になると思います。まずテレビCMで商品を知り、紙媒体で理解を深め、自らネットで調べ、そして購買という流れができる。つまり、購買までの流れの中で、各メディアがそれぞれ役割を負うことになるので、それぞれがそれぞれの特性を生かした広告内容を考えなければいけません」と指摘する。
また、2011年にテレビが地上波デジタル放送に完全移行することに関しては、「どんなに総務省がPRをしても、いざその時になったらテレビを見られない家庭が出てくる可能性があります。その時に、『どうしてテレビがなくて平気なの?』『それはインターネットがあるから』ということになるかもしれない。現在は国民のほとんどに認知されるテレビCMをつくることが可能だが、こういう状況になってしまうとそれが危うくなってくる。テレビ業界は今からそのときのことを考えておかないといけません」と危惧する。
◆CM制作へのこだわり―「マーケティングとクリエイティブは車の両輪。
どちらが欠けてもうまくはいきません」
われわれがCMに関してよく耳にする言葉に「CM好感度」というものがある。
一般的に「CM好感度」が高いと、そのCMはいいCMだと思われがちだが、消費者の購買につながるかどうかという面では、「CM好感度」の高いCMが必ずしも優れているとは限らないようだ。
本書では、CMの本来の目的である、消費者購買に向かわせられるかどうかの指標を「3つの軸」で捉えている。また、作中では質的に優れたCMを具体例として取り上げ、その戦略的な特徴と、つくり手側の狙いを解説しており、「どのようなCMが人に届き、人を動かすのか」ということを考えるのに役立つだろう。
質の高い、すなわち「モノが売れる」CMをつくり続けるために、鷹野氏はどのような気持ちで仕事に臨んでいるのだろうか。
CM制作は、演出、編集、ナレーションなど、さまざまな仕事が組み合わさることで成り立っている。その工程の中で、鷹野氏が代表取締役を務めるテムズ社が受け持っているのは、CMづくりの設計図にあたるマーケティングの部分だ。
鷹野氏の言葉を借りると「CM制作に対する企業側の考えを聞き、商品購買につながるような戦略をたてる」という部分である。
しかし、実際にモノを作っているのは映像クリエイターや音声クリエイターたちだ。そんな彼らと意見が食い違うことはないのだろうか? この質問に鷹野氏は「作業がはじめに作った戦略からぶれないようにチェックすることは重要です。しかし、そこから先には立ち入らないようにしています。クリエイターを縛ることになると、大事なクリエイティブジャンプが生まれません」と答える。そして、こう続けた「マーケティングとクリエイティブは車の両輪です。どちらが欠けてもうまくはいきません」。
理想のCMについて「企業側も消費者側も利益を享受でき、笑顔になれるCMが理想ですね」と語る鷹野氏。今後の抱負を尋ねると「CMは時代を映し出すもの。これからも時代の空気を反映したものをつくっていきたいと思っています」と微笑みながら答えてくれた。
最近のCMでは蒼井優が出演するキリンの「午後の紅茶」を挙げてくれた鷹野氏。「あの笑顔にやられてしまって」と笑いながらも、「午後の紅茶」CMの優れている点を分析する時だけは、真剣な目つきに変わっていたのが印象的であった。
(インタビュアー/記事編集:山田洋介)