《P47-P49》
次のインタビューは、当選二回、四十代半ばの民主党の男性議員だった。ホームページの内容を見る限り、彼は地域の声に耳を傾ける現場主義の政治家で、世界中を歩いた経験を持つ地球的視野を持った国際派ということだった。政策レポートの欄には、十の約束が掲げられていて、私はそれらをノートにメモした。ムダ遣いをやめ、社会福祉に力を入れ、子ども手当を支給し、格差拡大をストップさせ、農家を補償し、高速道路を無料化し……。私は、ノートとヴォイスレコーダーの入ったカバンを肩に掛け「国会議事堂前」で電車を降りた。
もともとサラリーマンになるつもりだった彼が政治の道へ進むことになったのは、大学時代の海外経験にあるとホームページには書いてあった。それもあるんだけど、と彼は話しはじめた。
「札幌で北大なんか行ってると、お山の大将みたいなところがあって。みんなで酒飲んでサークルやって楽しく暮らしてたんだけど、ピースボートって船に乗って、要は東京の大学生にたくさん会ったんですよ。早稲田とか慶応とか東大の、政治意識がすごく高い人たちと会って触発されましたね。でも、全然そのときはまだ政治家になるとは思っていなくて。やっぱり松下政経塾のポスター見て、一次面接に受かるまでは自分のなかでリアリティはなかった」
そんなふうにして、彼は政治の世界へ入った。私は、ノートに書き留と めてきた十の約束について質問することにして、その内容から受けた印象として、彼が内政を重視している点から話を切り出した。
「いや、違うんです! 本当は、僕は外交とかやりたいんです」
「でもこれを見ると、一つもそういうのが書かれていなくて……」
「それはもう選挙向けだから。選挙に勝つためには、あそこは一番受けそうな、みんなが欲しいと思っていることを書くんです。党の情報だからね」
彼は、ただ書いていないだけで、外交・安全保障などにも強い思いがあるのだと言い、ただ、と言葉を続けた。
「外交・安全保障というのは、一般の人が興味ないから」
「そうなんですか?」
「難しいし、党のなかでも意見が分かれてるから、選挙のときに書くのはいいとは思わなかったんだよね。ほかにも、思いはあるけど書かないことがあるってことですよ。スペースがない。ビラ作るんでも、十ポイントでも多い」
「選挙対策ということで、特に国民が一番反応するのがこの十項だということですけれども、もしかしたらもっとみんな、ここには書かれていない経済のことを心配しているんじゃないでしょうか?」
「ただ経済のことを言うと、景気なんかすぐよくなるわけないと思ってるんですよ。そういうこと言うヤツがインチキだと思う」