2年間、47ヶ国のバックパックの旅をまとめた『インパラの朝』で第七回開高健ノンフィクション賞を受賞した中村安希さんの最新作となる『Beフラット』は、18人の若手政治家へのインタビューを通し、日本の政治の現状と政治家たちの「本音」をえぐり出した一冊だ。
「もともと政治に興味がなかった」という中村さんが、インタビュー中に対面した政治家たちの言葉に、これからの日本を担う若い世代は特に耳を傾けておくべきだろう。
今回は中村さんにインタビューの舞台裏についてお話を聞いた。
■中村さんがびっくりした「とんでもない政治家の発言」
―まず、本書を執筆した経緯からお話しいただけますでしょうか。
「今回18人の政治家の方にインタビューをしたのですが、実はこの話をいただくまでは、そんなに政治に対して興味はなかったんです。でも、お話をいただいたとき、私みたいな政治をあまり知らない、政治ジャーナリストではない人間が永田町に突入して話を聞いたとき、どんなことが分かるのだろうかという純粋な興味があったんですね。読者としてそれを読んだら面白いかも知れないって。それが動機ですね」
―こんな本があったら読んでみたい、という興味ですね。
「そうです。一般人が見る政治家って、国会を通してだったり、記者クラブを通してだったりというケースが多いですよね。だから、どこか構えているし、本音は出てきません。そういう中で、いわゆるコテコテの政治ジャーナリスト以外の人がインタビューをしに来たとき、政治家はどんな顔を見せるのだろうかと思ったんです。特にこの仕事を受けた頃、小沢一郎さんの『政治とカネ』の問題がクローズアップされていて、政治系のニュースってそればかりだったんです。でも、私はもっと違う角度で話を聞きたいと考えていました」
―本書を書く前に『インパラの朝』という海外の紀行文を執筆されていましたが、海外では、日本の政治情勢はどのように伝わっているのですか?
「ほとんど伝わってこないですね、日本の政治情勢は」
―1年に1度くらいのペースで総理大臣が変わっていたりしますけど、ほとんどないのですか?
「国によって違いますけれど、おおかたは一瞬ニュースになるくらいですね。アメリカの大統領選挙などは、世界に対する影響力も大きいからクローズアップされますけど、日本の場合は特別な問題として取り上げられることはまずないです。
―私自身も20代後半で、中村さんとはほぼ同世代になるのですが、本書では私たちと同じ目線で、率直に政治家に話を聞いているという印象でした、特に私たちの世代は経済成長をほとんど知らないですよね。
「そうなんです。ずっと不景気(笑)」
―なおかつ、人口も減少していく、年金も破綻する。厳しい時代だと言われ続けて育ってきた。そうなると、上の世代の人たちとは全く相容れない価値観も生まれてくると思うのですが、政治家の間でもそういった、考え方のギャップみたいなものはあるのですか?
「ありますね。特にバブル崩壊後に社会に出た世代とそれ以前に社会に出た世代では、温度差は相当あると思います。40歳以下の人の方が、『自分たちは崖っぷちにいる』ということを強く認識しています。
それから当然、若い世代の方が先が長いですから、将来の見え方が全然違ってくると思いますよ。今はまだ大丈夫だとしても、将来問題が起こったときに割を食うのは若い自分たちですから」
―原子力発電所で放射能漏れが発生した際、「ただちに健康に影響は出ないレベルです」という言葉がありましたが、あれは若い世代のことを一切考えていないように思いました。
「そうですよね。『じゃあ、いつかは出るの?』って。私は今31歳で、ちょうど子育て世代なんですよ。だから私は、小さな子どもがいる人とか、妊婦さんには、一番に逃げろと言いましたね。10年後に影響あると分かってからじゃ遅いですし」
―でも、若い世代が新しい社会を構築していかないといけない、引っ張っていかないといけないのに、この本ではちょっと信じられない政治家の言葉も散見されます。自分の信念を曲げて選挙のスローガンを考えたり、政治家としてのビジョンはないと言ったり……。
「びっくりしますよね。彼らは本当にそう思っているんですよ。実は、そういう政治家の批判を書いても意味がないと思って、最初は除外していたんです。でも、今の国会議員の総数722人がどういう人たちかを公平に映し出す本にするためには、書くしかないのかな、と(笑)。
ただ、皆さんには正直に話していただいたと思います。私が政治ジャーナリストではないから、向こうも警戒心を解いてくれていたのかな。『先生、教えていただけますか?』って聞いていったら、もうボロボロと本音を話してくれて」
―実際に政治家の皆さんとお話をされてみて、ギャップみたいなものも感じましたか?
「私自身、政治に興味はなくて、選挙に行く際にも、今回は民主党にしようとか、今回は自民党にしようとか、その程度でした。
それで取材の前に、政治家ってどんな人たちなんだろうと思って調べ出したんですが、意外に情報が少ないんですね。で、どういうわけか、あやしい政治家ほど、宣伝が上手かったりするんです(笑)。彼らのホームページを見ると、それがすごく分かりますね。聞く者の耳に心地よく響く言葉を使っていて、演説もすごく上手い。厳しいこと言いませんからね。でも、会って話してみると、しっかり現実を見据えている、考えていると感じた政治家は、それなりに言葉も厳しくなるんですよ。厳しい時代なんですから当然です。ただ、内容もそれなりに厳しいものになるので、あまり一般にはウケないでしょう。それはインタビューの中で特に感じたことです」
■投票に行くことが、社会を変えていく第一歩となる
―若手政治家18人へのインタビューを通して、中村さんが政治や政治家に対して強く感じたことや新たに考えるようになったことは何ですか?
「まずは、政治家の数を減らすべきだということですね。今、国会議員の数は722人ですが、多すぎることで足を引っ張っているように思います。今回、18人の政治家にインタビューをしましたが、その中で私がフォーカスした議員って2人だけなんですよ。それ以外の人に関しては正直いなくてもいいと思うし、もし彼らがいることで、2人の足を引っ張るのであれば、日本は変われないんじゃないかとすら思いますね。
インタビューでも議員定数の削減について話を聞きましたが、多くの政治家は難しいのではないかと言っていました。ただ、とある議員が、定数を減らすのであれば、1人の国会議員に対して政策スタッフを5人つけるなどして、議員の負担を減らしてはどうかという提案をしていました。私はそれで良いと思うんですよ。例えば、優秀な20代を政策スタッフとして雇う。賢い若者はたくさんいますから、そういう人たちをもっと登用して、間口を広げていくべきだと思います」
―中村さんがフォーカスされたおふたりの話って、すごく自然に頭に入ってくるというか、自分が思っている政治家像を体現していました。だから、この本を読んで「日本の政治って駄目なんだな」と思うより、「まだ希望があるじゃないか」と感じられました。
「ただ、私は2人のようなタイプって、近い将来政治の舞台から姿を消してしまいそうな気がするんです。やっぱり他の人たちのほうがテレビの露出も多いし、人気の取り方をちゃんと知っていますから。ホームページを見てもそうだと思います。それを変えるには、私たちが選挙に行って投票するしかないんですよね。議員定数の削減もそれで変えていくしかないと思います」
―本書の中で、選挙に行って積極的に「×」をつけて投票しようとおっしゃっていましたが、そういう方法もありますね。
「先日の東京都知事選挙でも、20代の投票率が低かったことが話題になりましたよね。若い人が投票したいと思う候補がいなかったことも、原因の一つではないでしょうか。投票したい候補者がいなくても、若い人がいっせいに選挙に行って積極的に『×』を書くことで、少しは政治を変えられるんじゃないかと思います」
―本書は『Beフラット』というタイトルがつけられていますが、どうして「フラット」なのでしょうか。
「それはインタビューの中で民主党の小川淳也さんが何度か繰り返して話された言葉で、あらゆる面でフラット化しなくてはいけない、と。例えば東京を頂点とするピラミッド型ではなくて、地方分権を進めるべきだし、社会保障もそう。結婚や子育てもそうですよね。人々が生きていく環境を平らに整備しなおして、つまりフラットにして、新しい社会を築かないといけないということです。政治の世界も年功序列で、ピラミッド型になっているわけですし」
―中村さんが海外を旅している間、この国の政治は良いと思った国はありましたか?
「私はあまり先進国に行っていないということもあるのですが、だいたいどこも最悪だと思います。ドイツやフランスには政治的に良いところがあるとは思いますけど、基本的には市民の力が強いですよね。
どの国にも良い面はあるし、悪い面もあります。その悪い面をいかに早く直視して変えていくことができるか、ということが大切だと思います。1つの政治のフォーマットで100年、200年やれるかというと、そんなわけがなくて、時代は変化するのだから、少しずつ変化させていく。年金制度もそうですけど、破綻することが分かっているのであれば早く変えるべきですよね」
―では、この本をどのような方に読んで欲しいと考えていますか?
「まず若い人に読んで欲しいですね。私と同世代の方に。それで、選挙に行って、入れたい人がいなければ積極的に×をつけて投票して欲しいです」
―それが、日本を変える一歩になるんですよね。
「そうですね。社会を変えるには、自分が政治家にならないと変えられないというわけではなくて、起業家とか、ジャーナリストとか、仕事を通して社会を変えていっている人も多いですよね。だから、私たちも社会の中でできることを普通にやればいいと思うんです。私は、書く仕事を通して今までの政治参加のイメージを変えていきたいし、読者にイメージを変えて欲しいと思います」
―ありがとうございました!