■1 / 親からは“起業禁止”、でも会社を立ち上げる
石原
「徳重さんは、どんなことがきっかけでビジネスをはじめたんですか?」
徳重
「もともと大学を出て、損保会社の三井住友海上に5年半勤めていたんですが、そこでは新入社員のときから経営企画のような部署に入りまして、会社の全体が見える仕事をしていました。とてもやりがいがあったし、良い評価を頂いていたんですけど、29歳のときに自分の人生を考えてみて、やっぱりベンチャー企業をやりたいなと思って会社を辞めました」
石原
「大企業でやりがいもあって、それで良い評価も受けて、順風満帆じゃないですか。普通、辞めないですよね?」
徳重
「そうなんですけど、ベンチャーを立ち上げたいって想いが勝っていました(笑)それで、ベンチャーといえばシリコンバレーだったので、そこを目指して、まずはLAからアリゾナに出て、そこでベンチャー企業のインキュベーションを5年半ほどしていました。とはいってもハンズオンでコミットするというのが基本なので、日米のベンチャー企業の良いところや悪いところを見て、勉強していましたね」
石原
「その経歴はとても面白いですよね。もともと保険会社に入る前から、ベンチャーを立ち上げたいと思っていたんですか?」
徳重
「昔から気質的にそうなんだと思います。学生のときから起業家たちの本を読み漁っていましたし…。でも、親からは絶対に会社をやってはいけないと言われていたんですよ(笑)!」
石原
「えっ! そんな家訓があるんですか?」
徳重
「家訓ではないんですけど、うちの親父がダメと言っていたんです。親父はまるで『巨人の星』の星一徹みたいにとても厳しくて(笑)。僕は真面目でしたから、『それは違うんじゃないか』と思っても、親の言うことは聞いていましたね。
でも、どこかで『人生が親父に決められている』っていうところがあって、考えた挙句、そのまま道に乗っかるという選択肢を手放しました
」
石原
「今の徳重さんを見ると、そんな風には見えないですよ。これは褒め言葉で、全く真面目じゃなさそうなんです(笑)。まさしくベンチャー気質の中で生きてこられたのかなと思っていましたから」
徳重
「そんなことはないですよ(笑)それで、アメリカではベンチャーってすごく重要な位置を占めていて、まさしく『チェンジ・ザ・ワールド』を背負っているんですよ。雇用もそうだし、国の発展そのものをけん引してるんです。
逆に向こうから見た日本っておかしく見えるんですよ。大企業がイノベーションを起こす機動力はないのに、ずっと社会の中心にのさばっていて、ベンチャー企業はあるにはあるけど、成長して10億円から20億円規模ですからね。ベンチャーが産業をつくるというカルチャーはないと思います。
だからこそ、日本でベンチャーを立ち上げる意思は強まりましたね。日本を何とかしなきゃいけない!って(笑) 」
逆に向こうから見た日本っておかしく見えるんですよ。大企業がイノベーションを起こす機動力はないのに、ずっと社会の中心にのさばっていて、ベンチャー企業はあるにはあるけど、成長して10億円から20億円規模ですからね。ベンチャーが産業をつくるというカルチャーはないと思います。
だからこそ、日本でベンチャーを立ち上げる意思は強まりましたね。日本を何とかしなきゃいけない!って(笑) 」
石原
「今話題の『海賊とよばれた男』とダブってみえると聞いていたんですが、まさしくその通りです(笑)すごいですね」
■2 / 昔の日本はベンチャー気質に溢れていた!
石原
「テラモーターズは電動バイクを日本から世界に広げていくビジネスをしていますけれど、この発想ってどこからきたんですか?」
徳重
「シリコンバレーに行ったときに、昔ITをやっていた連中が電気自動車を開発していたんですよ。最初は驚いていたんだけれど、これは産業構造が大きく変わるということに気づいて。アナログからデジタルに移り変わったときに既存の大手電気機器メーカーが凋落していったように、EV(electric vehicle)で同じシフトチェンジが起こるんじゃないかと思ったんです。しかもその市場は世界ですよ。
日本の技術を世界へ発信するというのは起業前から大事にしていた軸ですし、自分が考える“メガベンチャー”というビジネスサイズになることも可能だと思いました。でも、これって日本から見れば、ヤマハやホンダがいる中でどうやって立ち向かおうとしているの? って笑われることなんですよ 」
日本の技術を世界へ発信するというのは起業前から大事にしていた軸ですし、自分が考える“メガベンチャー”というビジネスサイズになることも可能だと思いました。でも、これって日本から見れば、ヤマハやホンダがいる中でどうやって立ち向かおうとしているの? って笑われることなんですよ 」
石原
「僕が新卒で勤めたのがヤマハ発動機だったんですよ(笑)。昔のヤマハってとても面白い企業で、新卒入社が250人くらいいたんだけど、上司や会社の言うことを聞くやつはほとんどいなかったんですよ(笑)で、どんどんやっちゃうんです。刺激的でしたよ」
徳重
「そうなんですよね。昔はどの大企業にもベンチャーの気質があったように思います。例えば、ANA(全日本空輸)の前身って、日本ヘリコプター輸送っていって、第二次世界大戦後にパイロットの雇用をつくるために設立されて、農薬散布をしていたんですよ。
今ではLCC(格安航空会社)をつくるだけでも議論の的になるのに、当時JAL(日本航空)があったところにANAが成長したわけですからね。昔は意外とそういう話が多いんですよ 」
今ではLCC(格安航空会社)をつくるだけでも議論の的になるのに、当時JAL(日本航空)があったところにANAが成長したわけですからね。昔は意外とそういう話が多いんですよ 」
石原
「今は凝り固まってしまっていましたよね。柔軟性がないというか、人間が小さくなっちゃっています。自分のことしか見てない人が多いですよ。でも、みんな自分のことしか見ていないから、世の中隙だらけなんです。ちょっと視点を高くしてみてみると、困っている人がたくさんいて、そこにチャンスがあるんですよね」
徳重
「いや、まさしくおっしゃる通りですよ」
石原
「僕の本でいえば、目線が高ければ高いほど人称が上がるということなんです。つまり、人称の高い人は広い視野で物事を見ていて、世の中の課題や向かうべき未来の姿がちゃんと分かっています。だから、常に世の中に様々な価値を提供できるんですよ。自分の会社の利益しか見えていない人は、人称を高くすることは難しいです。
僕はコンサルタントとして、人称の高い経営者をたくさん育てたいと思っていますから、利益を上げることばかり考えている経営者は、僕はコンサルしません(笑) 」
僕はコンサルタントとして、人称の高い経営者をたくさん育てたいと思っていますから、利益を上げることばかり考えている経営者は、僕はコンサルしません(笑) 」
■3 / 「僕は野茂英雄みたいになりたい」
石原
「この対談の前にね、いろんな方に徳重さんってどんな人か聞いたんですよ。そうしたら、『人を惹きつける人』ってみんな言うんです。ここまで話をしてきて、その通りだなと思いました。日本の技術を世界に、っていう熱い想いが伝わってくるんですよ。これがベンチャーの熱さですね。
ところで徳重さんは“メガベンチャー”って言葉を使っていますけど、どのくらいの規模の企業のことを言っているんですか?」
ところで徳重さんは“メガベンチャー”って言葉を使っていますけど、どのくらいの規模の企業のことを言っているんですか?」
徳重
「“メガベンチャー”は僕が勝手に使っている言葉なんですけど(笑)、売上は1000億円くらいですね」
石原
「テラモーターズはアジアを中心にビジネスを進めていますけど、どうやって世界にマーケットを広げていこうと思っているんですか?」
徳重
「それは、まず僕がジャングルみたいなところに入り込んでいきます」
石原
「ジャングルですか!(笑)雰囲気はすごくスマートなのにそんな言葉が出てくるなんて」
徳重
「ベトナムやタイですからね。ちょっと奥に入ると、何が出てくるか分からないようなところなんで(笑)そこに6回くらい足しげく通って、ここならEVの需要があるなと目星をつけます。そこで、うちの会社の若手を投入して、引き継ぐんですよ」
石原
「え、じゃあそれまでは徳重さん一人なんですか?」
徳重
「そうです。そうすることで、うちの若手にとっても0からのスタートじゃないし、僕にとっても、後々スタッフから問題の報告が上がってきたときに状況が分かりやすいんですよ。ちょっといって現地のお姉ちゃんと遊んだだけじゃ何も分かりませんよ(笑)。
徹底的にその地域のデータを分析して、専門家にも会いに行きますし、アポイントもちゃんと取ります。しかもかなりスピードで」
徹底的にその地域のデータを分析して、専門家にも会いに行きますし、アポイントもちゃんと取ります。しかもかなりスピードで」
石原
「6回も通うっていうのもすごい。そこではやっぱり熱意が大事なんですよね。そうすると社員も成長が速いんじゃないですか?」
徳重
「そうですね。ものすごく成長すると思いますよ。日本人は世界じゃ通用しないとか言われているけど、そんなことないです。おかれている環境や、企業の育て方によって変わりますから。通用しないっていうのは教育が悪いからでしょうね。うちの会社はどんどん任せますから、個人がものすごく伸びますよ」
石原
「確かに任せれば任せるほど、目線は高くなっていきますよね」
徳重
「僕は野茂英雄みたくなりたいんです。彼は日本人メジャーリーガーのパイオニアですけど、年俸がガタ落ちしてでも渡米しました。これってベンチャーですよね。一人が成功すれば、自分もできると思う。つまり、みんなの目線が高くなるんです。ただ、残念なことに日本のベンチャーではそれが起こっていないんですよね。
現地の人も、商談が決まるときには『お前の熱意が気に入ったよ』っていう人が多いんです。そういう熱意を、大企業のエリートたちは忘れていると思いますね」
現地の人も、商談が決まるときには『お前の熱意が気に入ったよ』っていう人が多いんです。そういう熱意を、大企業のエリートたちは忘れていると思いますね」
石原
「なるほどね。いやあ、これだけ熱いと肩入れしたくなりますよ(笑)お前が日本のビジネスパーソンの代表だぞってことなんでしょうね。こんなベンチャー気質をもった経営者、いますか? 昔はたくさんいたと思うんですよ。みんなベンチャー気質だった。だからあれだけの経済成長が達成できたわけですからね」
徳重
「そうですよね。だから僕の考えもむちゃくちゃではないはずです(笑)」
石原
「面白いお話をうかがうことができました。これを読んでいる人は、こんな風にがむしゃらにやることで成長できることを頭に入れて、今のスタイルを考え直してみてくださいね!」