子どもの頃、「相手の気持ちになって考えてみなさい」と親や先生に注意されたことはないだろうか。実はこの“自分以外の視点で考える力”というのがビジネスでは重要になってくる。
経営コンサルタントの石原明さんは『すべてが見えてくる飛躍の法則‐ビジネスは三人称で考える‐』(アスペクト/刊)で、「人称」という概念を使いながら、その重要性を説いている。
「人称」とは発話の話し手、聞き手、第三者を区別するためのもので、一般的に区別すると一人称は「自分」、二人称は「相手」、三人称は「回りの人」となる。石原さんはこの「人称」をビジネスに役立てるために新たに解釈し、一人称は「自分目線」、二人称は「相手目線」、三人称は「まわり目線」、四人称は「マーケット目線」、五人称を「業界目線」といった具体に、ビジネスにおける「視野の広さ×時間軸」の尺度として捉えている。
これらの人称の中でも重要なのが二人称の「相手目線」、つまりお客様目線であることは分かるが、三人称の「まわり目線」とは一体どのようなものなのか?
石原さんの言う三人称視点とは、「結果としてどういう影響をまわりに及ぼすかということがわかる思考」を指す。つまり、第三者がそれをどう見るのかということだ。
例えば、お客様目線で考えていくと、行き過ぎた顧客第一主義に陥ってしまう可能性がある。そこで行き過ぎないようにするためには“自分のしていることを相手がどう見ているかと同時に、それを回りの人がどう捉えているかということを時間軸(その行動が3ヵ月後や6ヵ月後にどういう結果を引き起こすか)も含めて考えられる視点である”第三者の視点が必要となる。特にリーダー層はその視点が欠けてしまうと、組織自体が暴走してしまいかねないのだ。
では、この「三人称」視点を身につけるためにはどうすればいいのだろか。石原さんは5つのポイントを挙げている。
(1)自分(自社)に適した人称の範囲を規定する
自分や自分の会社のビジネスの環境で必要とされる人称と、それに対応した範囲及び時間軸の定義を決める。リーダーの場合は三人称(モノゴトを判断する基準が、自分目線と相手目線、回り視点を持ち、時間軸は、6ヶ月後を考慮して判断する立場)、課長クラスは四人称(三人視点に加えて、判断の基準にマーケット目線が加わり時間軸は1年後を考慮して判断する立場)となる。
(2)思考の範囲を広げるために、目線を高くする、引いて考える
問題に直面したときも、自分や相手の問題解決だけに捉われず、一歩視点を引いて考えることが大切だ。
(3)問題の中に自分を入れない、人ごととして考える
多人称視点にいたるための必須要素である「客観的な思考や視点を持つ」には、問題と自分の間にしっかりと距離を取ることが必要である。
(4)登場する人物の数を増やして思考する
問題が複雑化した際に使えるのがこの方法。つまり、経営者ならどう考える、部長ならどう考える、といった具合である。
(5)時間軸を長くする
こちらも問題が複雑化した際に使える方法。1年後、3年後、10年後などの長いスパンで物事を考えたとき、今の結論とは違った解答が出てくることも多く、ビジネスモデルの構築には欠かせない。
ステークホルダーが多いビジネスの現場において、自分や相手のことだけを考えていると、いつの間にか周囲に多大な迷惑を及ぼしていたということもある。そうならないためにも、「三人称」「四人称」「五人称」といった視点を身につけることは大切だ。
もしなんらかの問題に直面したときは、自分や相手だけではなく、多人称の視点からも考えてみて欲しい。そのとき考えていることとはまた違った結論が見えてくることもあるだろう。
(新刊JP編集部)
序章 なぜ「人称視点」という新しい尺度が必要なのか
●「もう一人の自分」を持つ感覚とは●ビジネスのすべてを解決する「人称」という視点・思考とは?
●「自分中心」の一人称
●「相手優先」のニ人称視点
●二人称の問題点は相手の言いなりになること
●三人称は現場とマネジメント層を分ける境界線
●石切り職人の話
●人称とは「視野の範囲+思考する時間の長さ」
●役職者の育成に欠かせない三人称視点
●三人称視点から多人称視点へと成長させる
●究極の視点は八人称
●三人称を身につけると会社でどうなるか?
●【ケース1】三人称視点で、ミュージシャンから上場企業の役員に
●【ケース2】三人称視点のスイッチが入り派遣社員から社長の右腕に
●三人称を身につけると個人の生活はどう変わる?
1章 なぜ「一人称」ビジネスマンではダメなのか
●自分が見えないとあなたの仕事は減っていく●人間は「一人称」の生きもの
●感情は厄介な存在
●人間の成長は、感情や主観との闘い?
●顧客は「一人称」の存在だと認識しよう
●「二人称」視点を身につけるには
●鏡の前に立ってみる
●自分を見るってどんなこと?
●自分を見ることの重要性
●自分の話している姿を映像で見る
●サービスを行っている現場でも動画は有効
●信頼している人に直接フィードバックをもらう
●モデルやタレントは二人称視点の天才
●自意識過剰・よく思われたい性格・怖がりな性格は悪くない
●「もう一人のバランスの取れた自分」を作る
●積極的な客観思考を持つ
2章 三人称視点はビジネスの境界線
●医療現場で起こる二人称思考の暴走●顧客第一主義も行き過ぎればマイナス
●「ニ人称」視点の問題点
●「ニ人称」視点と「三人称」視点の根本的なちがい
●ものごとの答えは思考の広さと時間軸によって異なる
●人称視点はリーダーの育成に最適なツール
●「三人称」視点及び「多人称」視点を身につける方法
●1.自分(自社)に適した人称の範囲を規定する
●2.思考の範囲を広げるために、目線を高くする、引いて考える
●3.問題の中に自分を入れない。人ごととして考える
●4.登場する人物の数を増やして思考する
●5.時間軸を長くする
●客観的視点に立った自分の完成形とは
●「多人称」視点を自在に使い分ける
●自在に使える多人称視点を身につけると
●無意識に行われている多人称視点の取り組み
●顧客アンケートは二人称視点に立つための最適な道具
●グラフや図表、集計データそして経営指標は人称を広げるためのツール
●会議が空回りする理由も一目瞭然
●一流のプロスポーツ選手がコーチをつける理由
●「人称」でほとんどの問題が解決
●新人に高い人称を体験させるためのトレーニング
3章 あなたの危機を救うメタ認知
●客観的思考を持つことで問題と自分を切り離して考えることができる●認知心理学「メタ認知」との出会い
●「自己教育」=自分で自分を教育する方法
●感情をコントロールできると選択肢は広がる
●「客観的視点に立った多人称視点の自分」と会話する
●大変な状況に直面した時の解決策
●コレが将来スッゴイことになるぞ!
●大変だ、おもしろそう!
4章 一つ上の人称でステップアップ できる社員になるキャリアマップ
●求められる人称の一つ上で対応する●仕事上の悩み・迷いも一つ上の人称でなくせる
●人称が上がれば、仕事が楽しくなる
●人称が上がると、ものごとを先読みできる
●高い人称の人は、常に相手を値踏みしている
●婚活も夫婦仲の問題も「人称」で解決!?
5章 誰にでも訪れる「三人称」の危機
●「人称」は固定できない●何かで興奮するとすぐ一人称に!
●「これは儲かる! 」で感情スイッチが入る
●走り出す前に一度止まってみる
●人が感情を動かす三大要素に備える
●そして一人称に陥らないために
●経営者は人称で本音を選ぶ
●決断するのは常に人称の最も高い人の役目
●交渉は人間の寿命より長いスパンで考えた人が勝つ
●相手を一人称にしてしまう上級交渉術
おわりに なるべく早く社内に「人称」を取り入れる
現在、「成功哲学」「売れるしくみづくり」「成長のための組織づくり」「プロ経営者の育成」などをテーマに中小企業から大手企業まで、業種や企業の規模を問わず幅広いコンサルティング活動を行っている。毎年の講演回数は100回以上。ビジネスの発想力やマーケティング力を開発・育成する「高収益トップ3%倶楽部」には全国延べ3,500社が参加。
2万人の読者を抱えるメールマガジン『社長、「小さい会社」のままじゃダメなんです! 』や独自の視点で経営を綴るブログ『石原明の経営のヒント』も執筆中。毎週金曜日に配信する人気Podcast番組『石原明の経営のヒント+(プラス)』は年間のダウンロード数100万回を超えている。主な著書に『営業マンは断ることを覚えなさい』(三笠書房)や『社長、「小さい会社」のままじゃダメなんです! 』(サンマーク出版)などがある。