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書籍情報

書籍名:環境を知るとはどういうことか
著者名:養老 孟司 岸 由二
出版社:PHP研究所
価格:840円
ISBN-10:4569773052
ISBN-13:978-4569773056

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神奈川県の先端・三浦半島に、「小網代の森」という広大な森林が広がっていることをご存知だろうか。本書は、著者の養老孟司氏、岸由二氏がその「小網代の森」を散策しながらあれこれ語り合うところから始まる。

日本において「環境」に対する警鐘が本格的に鳴り始め、それに対する動きが生まれ始めたのは高度経済成長の終わり、1960年代後半の頃だった。工業化によって日本は国力を増していくが、その裏で日本の各地で公害病が発生。水俣病や四日市ぜんそくをはじめとした「四大公害病」は、学校の社会の教科書にも載るほどの大きな出来事となった。
また、それとともに市民による環境運動も活発化していき、保全だけでなく環境の大切さを啓発したり、アドボカシーを行うなど、官民一体となって環境を守ろうとする動きが目立っている。

著者の1人である岸由二氏は慶應大学経済学部の教授で、小網代をはじめ、鶴見川環境保全など環境運動の最前線に立ち、現場を見つめてきた。 そんな岸氏が行き着いた先にあったのが「流域思考」であるという。
「流域思考」とは、簡潔に言うと「流域単位で物事を考えよう」ということだ。確かに昔栄えた文明は全て川の流域にあったわけだし、コンクリート張りではない自然河川の周りは常に自然が豊かで生態系が保たれている。1つの流域に1つの生態系が存在している。

自分が暮らしている流域を知ること、それは同時に今の環境の状態を知ることでもある。環境運動が語られるときに、よく「足下から広げていく」というキーワードが使われるが、この「足下」とは、自分が暮らしている「流域」を指す。そこから地球環境のリアルな姿を追っていくのだ。

本書は環境保全や環境というものを考える上で、最適な入門書だ。興味はあるけど、知識的には疎い、といった方には是非お勧めしたい。しかし、本書を読んだだけでは環境はよくならないということだけは付け加えておこう。本書を読んで啓発され、いかに動くか。それが重要なのだ。

(新刊JP編集部/金井元貴)

【まえがき】
 岸さんとは、文中でも述べているように、若いときからのお付き合いである。同じ神奈川県に住んでいたのだが、とくに二人で話すという機会がなかった。たいへん有能な人で、私はお仕事を評価しているのに、ご本人がなかなか本という形にしない。....

養老 孟司 (ようろう・たけし)

1937年、鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。95年、東京大学医学部教授を退官し、同大学名誉教授に。89年、『からだの見方』(筑摩書房)でサントリー学芸賞を受賞。
著書に、『唯脳論』(青土社)、『バカの壁』(新潮新書)、『読まない力』『本質を見抜く力――環境・食料・エネルギー』(竹村公太郎との共著)(以上、PHP新書)など多数。

岸由二 (きし・ゆうじ)

1947年、東京生まれ。横浜市立大学文理学部生物科卒業、東京都立大学理学部博士課程修了。理学博士。慶應義塾大学教授。専門は進化生態学。 流域アプローチによる都市再生論を研究・実践。鶴見川流域の防災・環境保全、三浦半島・小網代の環境保全にかかわる市民活動の中心スタッフ として活躍している。
主な著書に『自然へのまなざし』(紀伊國屋書店)、訳書にウイルソン『人間の本性について』(ちくま学芸文庫)、ドーキンス『利己的な遺伝子』(共訳、紀伊國屋書店)、ソベル『足もとの自然から始めよう』(日経BP社)など。
目次

第一章 五月の小網代を歩く
――完璧な流域を訪れて

散策開始
アカテガニの「団地」
森は動いている
森の中の生存競争
「真ん中広場」にアライグマがいる!
トトロのトンネル
気温が上がって
カニの群舞
風と波と生きものの歌

第二章 小網代はこうして守られた

私は「兼業型採集狩猟民」
なぜ小網代の保全運動に参加したか
世界が認めた稀(まれ)な景観
前代未聞の保全活動へ
財団の会員を四〇〇〇人増やした「大道芸」

第三章 流域から考える

大地の構成単位は「流域」である
日本の政策官僚には地理職がいない。
日本の学校には地理教育がない
日本初のネオ・ダーウィニズム系生態学者として
人間と生き物の間を取り持つもの
関係を制する「パラメーター設定」
流域思考とは何か
脳は入れ子構造で世界を把握する
リバーネームは「岸・目黒川鶴見川・由二」
人間は宇宙人の感覚で地球に住んでいる
神奈川と千葉を一緒にまとめるな!
誰とどこで暮らしているか
自然は予定調和に背きたがる
物事を「因果の集積」と見るな

第四章 日本人の流域思考

高地より平野のほうが不安定
最初に日本人の流域概念が壊されたのは明治五年
アメリカの流域思考
流域思考は西高東低
なぜ日本にはお祭りが多いのか
虫の分布も流域の影響を受けている
十万年のスパンで考えよ

第五章 流域思考が世界を救う

鶴見川流域の防災・環境保全の活動に奔走する
遊水地の必要性
戦後、洪水の出水量が少なくなった理由
全国「汚い川ランキング」は真っ赤な嘘
「水がきれいになると魚や鳥が戻ってくる」も真っ赤な嘘
TRネットはどんな活動をしているのか
「イルカ丘陵」の発見
流域思考が世界を救う
環境は権力者にしか守れない
市民運動を結実させるシステムが崩壊してゆく
現場との「ずれ」の問題
すでに、伊勢神宮の森が理想の森になっていた
国土づくりの見通しがない
今の日本の教育は、改革以前のアメリカの教育

第六章 自然とは「解」である

「上」で暮らすか、「中」で暮らすか
「客観性」ではなく、「世界の豊かさ」を志向せよ
生物学的な倫理を取り戻せ
愛する大地のある子どもを育てているか
自然とは「解」である

エピローグ 川と私 養老孟司
あとがき 岸由二