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書籍情報

書籍名:環境を知るとはどういうことか
著者名:養老 孟司 岸 由二
出版社:PHP研究所
価格:840円
ISBN-10:4569773052
ISBN-13:978-4569773056

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アサヒナカワトンボの可憐な姿。以前はヒガシカワトンボと呼ばれていた

アサヒナカワトンボの可憐な姿。以前はヒガシカワトンボと呼ばれていた

養老 これはベンケイガニだな。僕が子どもの頃は相当いました。見たのは久しぶりだ。

 ベンケイガニは川の下手の護岸にゾロゾロいます。谷の中は尾根のてっぺんまでアカテガニの棲み家です。これが全部そう。

養老 幼稚園の頃、一所懸命採りました。

 アカテガニとベンケイガニの区別はしていましたか。

養老 いや、してません。幼稚園の園児にそういう知識はないもの(笑)。

 アカテガニって、ベンケイガニと似ているけど微妙に違うんです。子どもの頃鶴見川の下流でやたらにカニを採りましたが、みんなが偉いと思ったのはベンケイガニのほうです。赤ではなくて鮮やかなオレンジ、体形もガッシリしていて格好いい!!
 なぜ区別できたかというと、夏になると、町の小学校の正門の脇に採りたてのアカテガニを売りに来るおじさんがいたから。売るのはアカテガニだけ。でもベンケイガニが中にときどき混ざっていた。その後、おじさんはもうアカテガニは売らないと言って、カブトムシ屋になっちゃった。

アカテガニの「団地」

(足もとの源流に身をかがめながら)

養老 ここには何かいそう。

編集 あっ! エビだ。エビがいます。

養老 これも子どもの頃によく採ったぞ。うわあ、虫が大量にいる。甲殻類だけど何だろうな。ちっちゃいアメンボもいるね。

 たくさんいる甲殻類はアセルス(ミズムシ)ですね。アメンボはシマアメンボ。羽がないのに、雨が降ってもいなくならないんです。

柳瀬  昨日あれだけ降ったのに今日は水が増えてないですね。

 あの程度なら、森の表土がどうにか保水してしまうのでしょうね。

アカテガニの団地。よく見ると赤いカニの姿が見える

アカテガニの団地。よく見ると赤いカニの姿が見える

養老 ここの土手にあいた穴に割り箸を入れて突っつくと、カニがゾロゾロ出てくるよ。

 それ禁じ手です。全部アカテガニの巣です。穴の入口がちょっとテカテカになってる所にいます。ほら、このへんの穴はきれいでしょう。ピカピカなのは頻繁にでいりしているからですね。

養老 そうそう、この穴この穴……。人間が団地に住んでるようなもんだ。

アカスジキンカメムシ。カメムシは亀に似ていることから ついた名前。きれいな虫だが悪臭を放つ

アカスジキンカメムシ。カメムシは亀に似ていることから ついた名前。きれいな虫だが悪臭を放つ

 あ、アカスジキンカメムシがいますね。最近はちょっと少なくなってきた。

養老 きれいですね。対面するのは久しぶりだ。

 ヤブキリの子どもです。このへんの穴には全部アカテガニがいますよ。よく見ると足が出ている。

養老 そうなんだ。見えるはずなんだ……。ほら!

 まだ気温が低い。地温が二〇度を越えるくらいにならないとなかなか動きません。

養老 こないだはたぶん暖かかったんだな。出てくるやつがもっといた。

柳瀬 雨が降ったし、ちょっと冷えていますものね。たぶん休憩中なんでしょう。

    *

(小さなハンノキ林に出る)

 ここはハンノキの林。ゼフィルスの育つ林ですね。

養老 最近は鳥インフルエンザの特効薬としても注目されていますね。

 神奈川では、鶴見川の流域にもハンノキのみごとな林が二ヵ所ほどありますね。

柳瀬 ここらへんに、エビがいるのがわかります?ヌマエビのなかまですね。

ヤブキリの若い個体。バッタの一種でキリギリス科に属す

ヤブキリの若い個体。バッタの一種でキリギリス科に属す

養老 これも欲しくて一所懸命に採った。すぐ死んじゃうんですけどね。

柳瀬 カワニナもいますね。ホタルの餌になるやつです。

養老 ここにはゲンジボタルがいるんですよね。

 森やヤブが茂って流れが暗くなってしまい、減少していますが、もちろんまだ健在ですよ。県と連携して水辺を明るくする作業をいまNPOですすめています。