―本書を読ませていただいたとき、途中から今自分が住んでいるところはどうだろうと思いながら読むようになりました。個人的には特に家を買ったり建てたりする予定はないのですが、今住んでいる家でもその考え方を応用できる内容だと思います。八納さんご自身はこの本をどのようなシチュエーションで読んで欲しいとお考えでしたか?
「これから家を手にいれようと思っている人ももちろんですが、家に愛想が尽きた、家に帰ると気分が盛り下がる、社宅住まいで借り物という感覚がある、どうも家族がギクシャクしている、子供が部屋からなかなかでなくなった、など今住んでいる場所が無味乾燥で面白くない、家族関係が不安だと感じている人に「幸せに住まう」ための知恵を分かち合いたいと思ってこの本を書きました。「幸せに住まう」ってどういう事だろう?と興味を持つ全ての方に読んでいただきたいですね」
―本書は家づくりのテクニックというよりも、考え方の部分にスポットが当てられていますが、こうした本の内容にした理由を教えていただけますか?
「家造りに成功している人たちを見ていると、それぞれの家族バージョンで「幸せに住まう」という視点、考え方を持っている事に気がつきました。もちろん、どういう材料を使えば健康的か?断熱性が高い工法は?耐久性はどうすれば高められるか?どこで建てるのが自分たちに合っているのか?などテクニック的な情報も重要です。
しかし世の中にはそういった内容の本はたくさんありますが、住まいを通じて「幸せに住まう」ための知恵をまとめた本がほとんどありません。材料、工法などの情報は日進月歩で変わっていきますが、知恵や考え方は普遍的なものだと思います。でも肝心なその情報が世の中に出ていない。そこでセミナーや講演、執筆活動を通じてその考えをお伝えしてきたのですが、そこに共感していただいたのがサンマーク出版さんでした。意気投合して、この本が出来上がりました」
―家づくりに成功した人たち共通している部分はなんだと思いますか?
「一言でいうとずばり「家を手に入れる事でどんな家族共通の夢を形にしたいか?」が明確なところです。70歳のご夫妻は「残りの人生、充実した日々を過ごすために建て替える」と言われました。「子供たちが巣立つまでの6年間、大人になっても思い出が残る家にしたい」「家を手に入れる事で大好きなアロマ教室を開催する」「街中の利便性の高い場所でシティライフをエンジョイしたい」「共働きなので、夜と週末をこの家でエンジョイしたい」「定期的にパーティーを開いてたくさんの人が集う家にしたい」など、たくさんの夢を形にするお手伝いをしてきましたが、それら全てのご家庭が幸せそうにしている姿を見るにつれてそれを強く実感しますね」
―本書を読んでいるなかで、家づくりは個人の強い想いや設計士さんではなく、家族全体の夢や将来像がとても大事だと思いましたが、家づくりにおいてしっかりと話し合う家族の強みはどのようなところにありますか?
「興味深い事に、キッチンは妻の意見、リビングは夫の意見、子供室は子供の意見というレベルで要望をまとめて家を建てると、「どうもキッチンは妻以外が入りづらい」という現象が実際に起こり、家の中がつぎはぎのような感じになってしまうのです。それに対して家族全体の夢を意図すると、仮にキッチンは妻の意見でつくったとしても、家族みんながそのベースに家族共通の夢があることを認識しているので、不思議と家に一体感がでたりします。同じ家なのにこれだけ違う。そう考えると家族全体の夢を持つ事はアドバンテージになると思います。
また将来像を家に描くと、家が将来像へ導いてくれる道しるべになってくれます。「アロマ教室を自宅で開きたい」といっていた建主は、数年後口コミでたくさんの人が集うアロマ教室を開催するようになりました。逆に、本書のはじめににも書きましたが、大失恋の末「一生一人で生きていく!」と決めて購入したマンションを所有している女性は「家に帰ってくる度にときめいた気持ちが急にさめる」という経験をしていました。
これから分かる事は、善し悪しでなく、家が将来のイメージまで影響を及ぼしているという事実です。将来像には、将来の幸せな夢を盛り込んで欲しいですね」
―本書で「風水や家相は無視できない」と書かれています。それはどうしてですか?
「興味が無いという人も多いのですが、そのパートナーやご両親まで含めると「風水や家相が気になる」という割合が全体の8割近くまで増えます。間取りが出来上がる頃、両親がそれをみて「鬼門に玄関があるような家なんてダメだ!それくらい常識だろう!!」と横やりを入れてきて、まるっきりやり直しになるというケースも意外と多くあります。このように考えると人ごとじゃないし、安易に無視出来ないと思いますよ。もし風水や家相を気にしないで進めるのなら、両親や親族まで先に「風水や家相は関係ないから」と手をうっておくことが大切でしょう」
―今、賃貸で住んでいる家をより良くしたいと思ったときに、どのようなことができるでしょうか。
「賃貸や社宅に住まわれている方は「この家は借り物」という感覚が強いため、家への所有感があまりありません。また壁に大好きな絵が飾れないなどの制限を感じている人も多くいます。そこでお薦めなのは「仮に一年でも住まうこの家は私たちのもの!」と考え方を変える事です。壁に穴をあけると引っ越しの時に補修代がかかる、ということで壁に絵が飾れないという人もいますが、補修代は数万円程度です。リビングの一角のこの壁だけは好きなようにしたい!と決めて大好きな絵を飾ったり、わが子が描いた絵を飾るのも1つでしょう。ぜひ家に愛着をもつことを意識してみましょう」
―実際に家づくりを進めることになったとき、相談する建築士(設計士)さんの良し悪しの見分け方はありますか?
「どれだけ自分たちの立場に立って考えてくれているか? 自分たちの味方か?がポイントでしょう。後は相性があります。多くの設計事務所で初回無料相談などを開催していますので、ご家族で会いにいき、自宅に帰ってから、家族会議を開いて「あの人好きだった、嫌いだった」をシェアしあうのもいいでしょう。 あとは、その建築士が実際に設計した家を見せてもらうこと。出来れば、住んでいる人の感想も聞ける体制をとっている建築士は建主との信頼関係も結べている証拠ですので、積極的に家を見せてもらいましょう」
―八納さんが考える「家」とは何だと思いますか?
「家は住む人を幸福にも不幸にもする器だと思っています。だから、住む人が幸福になるための器になるための知恵を分かち合いたいと考えています」
―このインタビューの読者の皆様にメッセージをお願いします。
「住まいが人生に大きく影響していることを普段から実感している人はあまりいません。しかし、住まいを活用して幸せを引き寄せている人たちを身近で見てきた経験から、多くの人に「幸せに住まうための知恵」を分かち合いたいと思って本書を書きました。震災の再来や経済不況の不安が蔓延しているなか、多くの人が守りのための生活に意識が行きがちです。もちろんそれも大切ですが、出来ればその上に「幸せな夢」を盛り込みませんか?本書がそのためのきっかけになればこれ以上嬉しい事はありません。最後までお読みくださってありがとうございました」
神戸市生まれ。
広島と東京を拠点に「快適で幸せな建築空間づくり」を専門にする建築家。一級建築士。株式会社KEIZO ARCHITECT OFFICE代表取締役。社団法人日本建築家協会会員。多数の住宅の設計に関わってきた経験から、住環境が住む人を幸せにも不幸にもする事実を知る。設計段階でじっくりと話し合う独自のスタイル、物腰の柔らかさや心温まる空間デザインで、建て主は30?70代と幅広く全国的に口コミで広がっている。 設計活動を行う傍ら、全国的に講演活動や執筆活動を行っている。専門家サイト「ALL ABOUT プロファイル」では建築家部門のコラムコンテンツ評価において2007年から3年間にわたり1位を獲得するなど、独自の視点で人気を博している。まぐまぐ殿堂入りメールマガジン「住むひと全てが幸せになる家づくり」の発行、テレビ出演、雑誌掲載など多数。著書に『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)がある。家族心理カウンセラーの妻と一緒に2009年「子供の住環境を考える会」を発足。子供にとっての住環境の大切さを伝える普及活動も行っている。 著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)