―脳と子育て、教育といいますと、よく何歳から何歳までという成長の限界みたいなものが言われますが、脳に成長の限界というのはあるのでしょうか。
川島
「まず、子どもたちの脳は5歳くらいまでに大人と同じくらいの重さになります。ただ、脳の中でも一番大事な部分、前頭前野という箇所なのですが、その部分は3歳までにある程度成長し、その後ゆっくり成長し、小学校高学年から20歳までに急激に成長するという性質を持っています。
その先に関しては、ゆっくり脳は衰えていくのですが、最近分かってきたのは、脳を使う、つまり鍛えると、何歳であっても脳の機能を高めることができるということが証明されています。実は、脳の機能が歳とともに衰えていくというとき、一番大きなところは流動性知能と呼ばれている知能です。これは新しいものに対処するという能力なんですが、この能力を下げないため、もしくは高めるために何をしたらいいかということが最近の研究で分かってきています。
それは、専門用語でワーキングメモリーという記憶のトレーニングになります。記憶のトレーニングというと、ものを覚えることをすればいいと思われますが、実は読み、書き、計算するということが、生活の中に密着した一番単純かつ強力なワーキングメモリーのトレーニングなのです。だから読み、書き、計算が脳を鍛えることに直結するわけですね」
その先に関しては、ゆっくり脳は衰えていくのですが、最近分かってきたのは、脳を使う、つまり鍛えると、何歳であっても脳の機能を高めることができるということが証明されています。実は、脳の機能が歳とともに衰えていくというとき、一番大きなところは流動性知能と呼ばれている知能です。これは新しいものに対処するという能力なんですが、この能力を下げないため、もしくは高めるために何をしたらいいかということが最近の研究で分かってきています。
それは、専門用語でワーキングメモリーという記憶のトレーニングになります。記憶のトレーニングというと、ものを覚えることをすればいいと思われますが、実は読み、書き、計算するということが、生活の中に密着した一番単純かつ強力なワーキングメモリーのトレーニングなのです。だから読み、書き、計算が脳を鍛えることに直結するわけですね」
―読み、書き、計算というと、小学校で子どもたちが学ぶことと似ていると思います。
川島
「私たちの研究からは、単純な計算問題を一生懸命早く解いたり、文章を声に出して読んだりということが、脳をたくさん働かせることが分かっています。そして、それを生活の中に取り入れることで、高齢者の方であれば脳の機能がよくなる、認知症の方であれば脳の機能がよみがえってくるということまで証明されています。
学校の勉強と言うのは正にこのトレーニングに直結していますから、学校の勉強を一生懸命するということは、子どもたちの脳の発達を支えているのではないかと考えています」
学校の勉強と言うのは正にこのトレーニングに直結していますから、学校の勉強を一生懸命するということは、子どもたちの脳の発達を支えているのではないかと考えています」
―脳を鍛えるというときに右脳とか左脳とか、とよく言われますけど、脳の何処の部分を鍛えると一番意味があるのでしょうか。
川島
「脳の働きの中で歳とともに衰えていくのは、実は前頭前野です。その他の脳の部分の機能は、あまり下がらないんです。ですから鍛えるべきは前頭前野ですね。右脳でも左脳でもない。
右脳左脳両方の前頭前野の働きを維持する・向上するという意識を持つことが大切です。」
右脳左脳両方の前頭前野の働きを維持する・向上するという意識を持つことが大切です。」
―前頭前野という部分は主にどんな機能を司っているのでしょうか。
川島
「前頭前野という脳は、人間の大脳と呼ばれている高次の働きをしている脳の中でも、最も高次の働きをしている部分です。具体的に言いますと、例えば人の気持ちを読み取ったり、予測をしたり、勉強したり、学習をしたり、記憶をしたり、何かに注意を向けたり、それに自ら何かをしようとする意思発動、これも前頭前野から起こってきます」
―この本のテーマでもあります、子育て・教育というとことに話を向けていきたいと思います。先生は研究者であると同時に教育者でもありますが、最近の子どもたち、学生さんを含め、若者たちにどんなことを感じていらっしゃいますか?
川島
「一番大きく感じているのは、彼らが受動的であるということです。これは自ら何かを一生懸命しようとしない、ということですね。
それは学習だけではなくて、人と人が関わる場面でも気になります。要は自分から積極的に人と関わるという態度があまり見えてこない」
それは学習だけではなくて、人と人が関わる場面でも気になります。要は自分から積極的に人と関わるという態度があまり見えてこない」
―なるほど。その原因をどのように推測されていますか?
川島
「一番根本の原因は、おそらく幼少時に家庭の中で十分家族とのコミュニケーションの経験を積んでいないことだと思いますね」
―コミュニケーションといいますと、近年非常にIT技術が発達しまして、そういったものを通してのコミュニケーションが盛んになっていると思うのですが、ITの発達は脳にどのような影響を与えているのでしょうか?
川島
「ITの技術というのは、要は情報を処理する技術です。情報の処理と言うのはIT技術が出てくる前は、私たちの脳、つまり前頭前野がしていたことです。ですから、ITを使いこなすということは、前頭前野の補助装置を使うということにほかなりません。
なので、IT化社会の中では、実は私たちは前頭前野を使わずに生活する傾向があると捉えていますね」
なので、IT化社会の中では、実は私たちは前頭前野を使わずに生活する傾向があると捉えていますね」
―なるほど。ITやインターネット等で情報の量が非常に多くなっていて、瞬時にたくさんの情報量を得ることができるようになっています。それが、脳にどんな影響を与えているのでしょうか。
川島
「IT化社会の中で情報量が増えましたね。そのことによって脳をたくさん使っているとおっしゃる学者さんもいますが、私は全くそうではないと思います。脳がどういうときに働くかと言うと、自ら能動的に積極的に情報を取り込みに行く時に働きます。
今のIT化社会では、たくさんの情報がいっぺんに流れ込んでくる。我々はどちらかというと、受動的に情報を受けているだけですから、おそらく脳は受け流しているだけであまり働いていない、と考えています」
今のIT化社会では、たくさんの情報がいっぺんに流れ込んでくる。我々はどちらかというと、受動的に情報を受けているだけですから、おそらく脳は受け流しているだけであまり働いていない、と考えています」
―ちょっと話を、具体的な子育ての場面につなげたいんですけど、先生もお父様でいらっしゃいます。今の子ども達の成長において普段の遊びなどの場面で、子どもたちについて危惧されていることはありますか?
川島
「子ども達の遊びがどうも家の中だけになってきているのは感じますね。それも他者と関わらないで一人で遊ぶような遊びが増えています。具体的にはテレビを見たりビデオを見たりゲームをしたりということなのですが、これらの活動というのは脳の測定をしていますと、前頭前野の働きがぐーっと下がってしまいまして、脳が寝ているときと同じような状況になるということが分かっています。
しかし、子ども達が外でほかの子どもと一緒に関わって遊ぶと、コミュニケーションの働きですから前頭前野を含めた脳がいっぺんに働きます。すなわち、子どもは脳も体もたくさん使わないといけないのに、家の中で一人遊び、特にテレビやビデオ、ゲームをすると、脳が働かない。遊びとしては逆方向に脳が働いてしまう。そういったことを心配しています」
しかし、子ども達が外でほかの子どもと一緒に関わって遊ぶと、コミュニケーションの働きですから前頭前野を含めた脳がいっぺんに働きます。すなわち、子どもは脳も体もたくさん使わないといけないのに、家の中で一人遊び、特にテレビやビデオ、ゲームをすると、脳が働かない。遊びとしては逆方向に脳が働いてしまう。そういったことを心配しています」
―子育てにおいて親御さんたちが避けて通れないのがテレビやゲームとの付き合い方だと思います。先生は具体的にお子さんを育てられる上で、テレビやゲームとどのように付き合うようにされていますか?
川島
「テレビやゲームを見せるな、やらせるなとおっしゃる専門家もいらっしゃいます。しかし、子ども達の社会の中ではテレビを介した会話、ゲームを介した会話、コミュニケーションというのが非常に多くありますから、これを全くやらない、見せないとすると、もしかしたら子ども社会の中からはじき出されてしまうかも知れません。
ですから、我々が親として家族として、注意すべきはテレビやゲームに触れる時間をきちっとルールを決めて、制御するということ。これに尽きると思います」
ですから、我々が親として家族として、注意すべきはテレビやゲームに触れる時間をきちっとルールを決めて、制御するということ。これに尽きると思います」
―一最後になりますが、今回の読者、特に子育てをされている現役のお父様が多いと思うんですけど、そういった方々にメッセージをいただけたらと思います。
川島
「父親も子育てに積極的に関わるべきだと考えています。でも難しく考えることは1つもありません。要は親が子どもと関わることが子どもにとって一番の教育、脳にとっても一番の栄養になるということが最先端の研究でよくわかってきていますから、肩肘張らずに子ども達と目と目を合わせてそして一緒に同じ空間と時間を過ごす、ということを意識されるといいと思います」
―ありがとうございます!