―今回、安澤さんが出版された『京大アメフト部出身、オールジャパン4度選出の組織変革コンサルタントが見つけた 仕事でもスポーツでも成長し続ける人の「壁をうち破る方法」』についてお話をうかがえればと思います。 本書の中で安澤さんは「仕事」を「試合」にたとえていますが、まずはこの真意から教えていただけますか。
安澤:仕事とスポーツには共通点が多いということですね。中途半端に取り組んでいるとさして楽しくないし、勝った時の喜びも少ないのですが、本気で取り組めば辛いことも多い分、本当に大きな喜びと充実感を感じることができる。そして本気になればなるほど失敗が怖くなったり、負けることが怖くなったりしますけど、本当の楽しさはそれを乗り越えた先にある。そういったところが仕事とスポーツの試合の共通点だと思っています。
―京大といえばアメフトの名門として知られていますが、新入部員のほとんどはアメフト経験がないそうですね。その状態から4年間で日本一を目指すために、どんな工夫がされているのでしょうか。
安澤:流れとしては、まずは人を集めて、育てて、試合で力を発揮させるわけですが、スポーツ推薦のない大学なので、入り口の「人を集める」というところで苦労していました。
まずはアメフトの楽しさを知ってもらわないといけませんから、受験で受かって入学してきた学生の中で体の大きな人には片っ端から声をかけてグラウンドに来てもらって、まずは防具をつけて動いてみよう、ということをやっていましたね。あとは、トレーニングを自由にできる施設がありましたから、そこでトレーニングをさせてみて、自分の成長を実感してもらう。
自分の成長を感じられると、人って楽しくなってくるものなので、そうやって最初に楽しさを体感させるための工夫をしていました。
―今おっしゃっていたように、京都大学にはスポーツ推薦がないということで、学生はみな一般受験で入ってくるわけですが、身体能力や運動センスの面ではやはりスポーツ推薦制度のある他大学の選手には敵わないのでしょうか。
安澤:ちょっと敵わないですね。体の大きさからして違いますし。
―そういった、運動の素質に優れた選手が揃った大学と渡り合っていくために、京都大学アメフト部ではどんな取り組みがされていたのでしょうか。
安澤「その人の特性に合ったポジションを見つけ、強みを伸ばすことだと思います。
体は大きくないけど足が速い選手に向いたポジションがありますし、足は遅いけど体が大きい選手にやってほしいポジションもあります。極端な話ですが、これまであまりスポーツをやったことがない選手でもできるポジションもあるんです。だから、個人の特徴を最大限発揮すれば、身体能力に優れたチームとも勝負はできる。
そういう意味では、アメフトには未経験者や身体能力に劣る人が経験者に追いつきやすい競技ではあると思います。
―個人の適性を見極めて最適なポジションに配置するというのは、仕事とも共通しますね。
安澤:そうだと思います。
―本書では「常識」「アクション」「スキル」「仕事のやり方」など、仕事の前に立ちはだかる壁をどう乗り越えていくかが明かされています。特に多くの人が悩まされているのが「コミュニケーションの壁」だと思いますが、たとえば、仕事自体は好きで、もっとできるようになりたいが反りが合わない上司や同僚がいるために仕事に行くのが嫌、といった時はどのように解決していけばいいのでしょうか。
安澤:今のお話だけ聞くと、まず「仕事が好き」という時点で非常にラッキーな状態だということが言えます。
その状況でなかなか反りが合わない人がいる時にどうするかということですけども、「自分の理解者を一人作る」というのは有効です。上司でも同僚でも、あるいは社外の人だっていい。
それと、反りが合わないと思う人が、たとえば「厳しい上司」だった場合、後々考えてみると、そういう人の方が自分のことを思って言ってくれていたりします。自分の経験からしても、厳しく言われたその時はもちろん嫌ですけど、今思い返すとありがたいなと感じることも多いので、嫌な人がいるなら彼のいい所というか、その人の価値を探して、見つけるところからスタートするのがいいと思います。
その人の価値を認め出すと、接し方や態度が変わります。そうなると相手の態度も変わるはずですから。
―人間関係ということでいいますと、アメフトのお話に戻りますけども、部内で何か意見の対立があって選手同士が衝突するということはありましたか?
安澤:ありましたね。殴り合いのケンカになることはあまりなかったと思いますが。 ただ、衝突したからといって、その場で仲直りする必要はないんですよ。部の目標は試合で勝つことであって、そのためにそれぞれのポジションで役割を追及してチームに貢献していくわけです。その姿勢さえグラウンドで示せていれば、個々人が仲良しでなくても問題はないと思っています。
―「常識の壁」についての章もすごく印象的でした。会社で働いていると知らず知らずのうちに囚われてしまう常識にはどんなものがありますか?
安澤:よくあるのは、人の評価や商品の評価についてのレッテルですね。会社の中で見せている一面だけで判断して“あの人はこんな人だ”と決めつけてしまうのは、組織にとってマイナスになる可能性があります。 仕事は仕事で、プライベートに踏み込んじゃいけないという雰囲気の会社もあると思うんですけど、いい関係が築けているのならプライベートに踏み込んでもいいと思います。仕事という一面だけでなく「人生の中の仕事」という位置づけで人を見ていくのが大事なのではないでしょうか。
―本書を読んで、目標を諦めずに追い続けることの大切さが、メッセージとして込められているように感じました。ただ、仕事に限らず目標というものは必ずしも達成できるわけではありません。そうなると、諦め時を見極めることも大事なのではないかと思うのですが、安澤さんは目標をどこまで追うかということについてはどうお考えですか?
安澤:まず、目標を決める時は必ず期限も一緒に決めます。その期限までは諦めずにやりましょうということですね。
これは仕事の目標ではなくても同じで、どんなことでも目標は期限と一緒に設定するべきです。その期限までは諦めずにやって、その時がきたら次の判断をすればいいわけです。
―安澤さんは京都大学を卒業後、設計会社を経て独立し、今はコンサルタントとして活躍しています。社会人としてかなりキャリアを詰んでこられていますが、今でもまだ「壁」にぶつかることもあるのでしょうか。
安澤:ぶつかってばかりです。新しいことをやろうとすると壁は常に出てくるわけですから。
でも、それはあって当たり前なんですよ。たとえば企業に勤めていれば段々と役職が上がっていきますけど、これまでの仕事のやり方では通用しないということはよくあります。だから、そのたびに新しい自分の仕事のスタイルを作っていかなければいけないわけですけど、これだって「壁」に突き当って、それを乗り越えるということなんです。
―この本をどんな方に読んでほしいとお考えですか?
安澤:20代から30代前半の方であれば、今ぶちあがっている壁を破るヒントになると思いますし、その上のマネジャークラスの方には、どんな視点で部下を指導していけばいいかという参考になると思います。
その意味では幅広い層の人に役立てていただける本になったと思っています。
あとは、挫折を経験したことがないという人にも読んでいただきたいです。本気で生きて、本気で仕事をしていれば挫折はどこかでするものです。これまで挫折がなかったというのはたまたま幸運だっただけかもしれないし、チャレンジしてこなかったからかもしれません。やっぱりどんどんチャレンジをしてほしいので、この本を片手に「壁の乗り越え方」を使いながら、何かに挑戦してみてほしいですね。
―最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いできればと思います。
安澤:チャンスは貯金のように貯めておくことはできません。だから目の前にチャンスだと思えることがあったら、挑戦できるよう準備をしておくのです。やってみた方がいいと思います。
チャレンジというのは怖いものですけど、成功させるために必死に考えて行動することになりますから、濃密な時間を過ごし成長することができます。その結果、多少失敗したとしても、今の日本ではそうそう食いっぱぐれることはありませんし、その失敗は次に必ず生きるはずですから、ぜひみなさん挑戦をしてほしいなと思いますね。その過程で壁に突き当ったらこの本を読み返してみてほしいと思います。
第1章 常識の壁に挑む
第2章 アクションの壁に挑む
第3章 スキルの壁に挑む
第4章 「仕事のやり方」の壁に挑む
第5章 コミュニケーションの壁に挑む
第6章 情熱の壁に挑む
●ペネトラ・コンサルティング株式会社 代表取締役
●久遠義塾(中高生向けの人間育成塾)塾長
●一級建築士
1974年滋賀県生まれ。京都大学工学部卒業後、鹿島建設に勤務。大学時代はアメリカンフットボールで学生日本一を2回経験。うち1回は、社会人王者を破り日本チャンピオンを勝ち取っている。個人としても、鹿島建設時代までを含め、オールジャパンに4度選出されている。
その後、チームの「実行力支援」に特化した国際的コンサルティングファームで組織変革手法を習得し、創業100年超・社員数1000人規模のクライアント企業への出向も経験。アメリカンフットボール部の組織づくりのノウハウを活かし、「挑戦し続ける組織」への進化を推進している。2012年に独立し、ペネトラ・コンサルティング株式会社を設立。組織変革コンサルタントとして、中高生向けの人間教育から新規事業の立ち上げ支援を含め、「壁を破らせるプロフェッショナル」として、さまざまな活動を展開中。