書籍名:ルフィの仲間力 『ONE PIECE』流、周りの人を味方に変える法
著者名:安田雪
出版社:アスコム
定価:1,260円
ISBN-10:4776206935
ISBN-13:978-4776206934
マネジメントは『ワンピース』ルフィに学べ
―まず、安田さんと『ワンピース』との出会いについて、どんなものだったか教えていただけますか。
NHKのディレクターさんから番組で「ワンピース」の特集を組むので、人間関係について分析してみないかとお声をかけていただいたのがきっかけです。登場人物が膨大で、人間関係が込み入っているところが、私が研究している「社会ネットワーク分析」の題材として、とても魅力的だと思いました。すぐ、学生さんと、ストーリーを区切って登場人物の敵・味方関係を図解してみましたが、なかなか一筋縄ではいかない。敵が味方になったり、見方が裏切りそうになったりしながら、関係が複雑化・肥大化していく。読めば読むほど「深いなぁ」と、のめりこみました。― 『ワンピース』の中で一番好きなキャラクターとその理由を教えていただけますか。
これはもう、麦わら一味ならサンジかチョッパーか、セント・メリー号もぼんちゃんもジンベエも捨てがたい。渋いところではペルかマルコか。男性キャラばかりが浮かび、自分でも迷うなぁ、と思っていました。ところが、実は私が一番好きなのは、ベルメールさんかもしれないということに、本書の発売後に気がつきました。「ルフィの仲間力」をつうじて、登場人物はすべて、ルフィ、ナミ・・・と呼び捨て、つまり敬称略なのですが、なぜかベルメールさんだけは「さん」づけて私は記述しています。編集者さんも見落とした(笑)。
ベルメールさんは、一味はもちろん他のキャラと比べても、比較的、わずかしか登場しませんが、私は彼女の強い生き方、愛する人を守る意志がとても好きなのです。彼女のクール、だけれども本当に強い愛、それは一瞬の輝きとして、ナミの心のなかで輝いているように私にも強い印象を残してくれています。
―本書『ルフィの仲間力 『ONE PIECE』流、周りの人を味方に変える法』には『ワンピース』をモデルに、信頼できる仲間やチームを作ってゆくための秘訣が書かれていますが、安田さんご自身、本書の内容で実生活において実践していることはありますか?
私は仲間作りが下手で、人間関係でも失敗ばかりしています。実践していること、というよりも、「あの時、あんな風にしていたら」「ああすればよかった」「共有する未来や夢がなかったから、分かれることになってしまったんだ」などと、考えれば、人間関係については反省だらけです。一緒にかなえる夢をもつ。わかりやすく「在る」。名前を呼ぶ。辛くくなったら幸福の記憶を思い出す。宴会は徹底的に飲んで笑う。どれもこれも、自分で書いたことは、経験からしぼりだして、できるだけ日々、実践するようにしています。―『ワンピース』に出会う前と、出会った後で、安田さんの対人関係に変化はありましたか?
ワンピースファンのかたがたと近しくなりました。「僕も大好きなんです」「私も好きなんです」「電車で泣いちゃいました」など、大学でもtwitterでも、声をかけてくれるひとが増えました。学生さんも、未知のかたもです。電車でワンピースを読んでいる子供たちを見かけると、「お、仲間だ、仲間だ」とこちらで勝手に思っています。ずっと「ネットワーク分析」など研究に関連する本ばかり書いてきたので、これまで出会う機会のなかった人たちとつながれるようになったことが一番の変化です。―『ワンピース』がここまでヒットした原因についてどうお考えですか?
これはもう、尾田先生が、年齢も性別も住んでいる所も、学校も仕事もなにもかもばらばらの日本人に共通項をつくって、結びつけられた、その力が大きいと思います。年齢や性別に関係なく、誰もが真剣に語り合える「お題」―夢、冒険、仲間、勝負、決闘、穏やかな恋愛や憧れから、階級や差別までを、上手にキャラクターたちに託されたからでしょう。誰もが、自分の喜びや悲しさ、挑戦や問題を、重ねあわせられるキャラクターやシーンが必ずある。そして、仲間がそれらをしっかりと受けとめる。わくわく感や明るさに裏打ちされた「生と仲間の肯定」という強い哲学がある。それがヒットの根本だと思います。―関西大学社会学部の教授である安田さんから見て、ここ最近の学生の傾向はどのようなものなのでしょうか。
本当にやさしくて、周囲の人や場に対して気を遣います。気を遣いすぎではないかと思うくらい。その一方で、気を遣いきれなくなると、その人間関係や状況から逃げ出してしまうところもあります。無理をしているなぁと感じるところと、もうすこしがんばってくれと切歯扼腕するところ、両方があります。好景気を人生で経験したことがまったくない世代ですから、苦労性で、大きな夢を見られないのかもしれません。だからこそ、仲間を大事にするその優しさは、バブル世代にはない「暖かさ」だと思っています。―この本をどんな人に読んでほしいとお考えですか?
ワンピースファンならどなたでもぜひ、といいたいところですが、なかでも大人、社会人のかた、社会人になったばかりのかたでしょうか。新しい場所で新しい人間関係に困ったり、苦労したりしておられるかた、もっと広くいえば、人間関係がちょっと苦手な人かもしれません。人には言えない気持ちを、心のなかでためているひと、辛い思いをしている人かもしれません。「いろいろあるし、うまく伝えられないけれど、私は人が好きなんだ、人といたいんだ・・・」そんな本音を隠しているかたに、読んでいただけたら幸いです。―最後に読者の方々にメッセージを、『ワンピース』の魅力と併せて、お答えいただければと思います。
これまで書いたことのない種類の本なので、苦労しました。坂東純一君をはじめゼミの学生さんに手伝ってもらって苦労しつつ、一生懸命書きました、なのに、今となってはワンピースの豊かさのせいでしょうか、伝えたいこと、書きたいことがまだ一杯あるような気もします。今は、読者のかたがたの感想をお待ちするばかりです。この本をきっかけに、日本中で、麦わらの一味のような小さな一味がたくさん育ち、たくさんの仲間力が発揮されたらいいな、と思っています。
昨日までのちょっぴり退屈な職場や学校が、すばらしい冒険の場に、小うるさい上司や先生、めんどうくさい友達が、わくわくする冒険の仲間に、明日という時間が、あなたのために用意された冒険の海になりますように。あなたの小さなログポーズとして、この本をお供にしていただければ、本当に嬉しく思います。
ルフィの言葉や、麦わらの一味の笑い声が、あなたの心の中で、豊かな自信となって灯火のように輝きつづけることを、祈っています。