モスバーガーの本社に勤める知人から、こんなお話を教えてもらいました。
お客様から、モスバーガーの社長さん宛に届けられた1通の手紙、いわゆるサンキューレ
ターです。
それはこんな内容でした。
* * * * * *
午前10時半頃。国立がんセンターに入院中の15歳の次男に、「テリヤキバーガーが食べ
たい」と言われ、少し遠いのですがウインズ銀座前にあるお店に買いに行きました。
店には、女性の店員が一人でした。朝のメニューにはテリヤキバーガーがないので躊躇し
ていると、彼女は欲しいものを聞き、「少しお時間をいただければお作りします」と言ってす
ぐに準備を始めました。
そのとき初めて入院中の子供に持っていくことを話しました。このような店には、マニュアルとおざなりの対応しかないものと思っていたので、彼女の対応がとても驚きでした。
注文の品を受け取り、店を出ようとする私に、彼女は、「おだいじに」と声をかけてくれま
した。年甲斐もなく、ジーンとしてしまいました。
そして、さらに驚いたのは、病院に帰り袋を開けてみると、中にはメッセージカードが入っ
ており、「早くよくなって下さいね」と書かれてありました。
息子が持病から1年余り、辛いことばかりの中で、知人・友人以外の方からのこんなに優
しい気持ちに触れたのは初めてです。
生来、彼女の持っている性格も素晴らしいのでしょうが、それを仕事の中で表に出せるよ
うな接客を貴社がされているとしたら、大変素晴らしいことだと思います。
店が場外馬券売り場前という比較的荒々しい場所で、若い女性が優しい気持ちを失わず働
いていることに本当に感動しました。お礼を言う機会がなかなかありませんので、会社宛に
しました。
ちなみに、メッセージカードには、工藤さんという名前が書かれてありました。
「おだいじに」から学ぶ「気づき」のキーワード
「『私には何ができるのだろう』といつも考える習慣を持つ」
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感動しました。泣けてしまいました。
なんて優しい心根の女性なんだろう。
そう思うと、居てもたってもいられなくなり、工藤さんに会いたくなってしまいました。
なんだか「ありがとう」と言いたくて。
それから間もないある日のこと、モスバーガーの本社に知人を訪ねました。そして、工藤
さんに引き合わせていただくことができました。
とびきり笑顔のステキな女性でした。
今は、スタッフの教育の仕事をされているとのことでした。
工藤さんは、こう言っておられます。
「特別な意識はぜんぜんなくて、決められたオペレーションの中でお客様に何か伝わればいい
なぁと。接客という言い方はあまり好きではありません。コーヒー一杯でも『生きていてよかっ
たなぁ』と思われるような出逢い、ふれあい、コミュニケーションにモスバーガーの存在意
義があるのではないか。そして、私が働いている意義があるのではないかと思っています」
ほとんどの業界のほとんどの仕事にはマニュアルというものがあります。それは、誰がやっ
ても同じ対応が可能なように作られたものです。だから、マニュアル通りにやっていれば上
司に叱られることはありません。
でも、それだけでは何かが足りない。
マニュアルとは、最低点をクリアするためのものだからです。
彼女は、とっさに考えたのでした。
「お客様のために、自分はいったい何ができるのだろう」
心のもやもやを吹っ切るために、一歩踏み出して、メッセージを書いたのでしょう。それは、 人としての、ごく自然に湧き出した「思いやりの心」にほかなりません。
「私は何ができるのだろう」
「あなたのために…」
その問い掛けが工藤さんの「やさしさ」を伝えたのです。「やさしさ」は笑顔となって還ってきます。
毎日が楽しくなる17の物語
著者:志賀内泰弘
出版社:PHP研究所
定価:1050円(税込み)
ISBN:978-4569709437
発売中:2009年4月20日
目次情報
●いらっしゃいませ 趣旨に代えて
●食前酒 ギブ・アンド・ギブの大切さに気づく物語
●前菜 やりがいと工夫の奥深さがわかる物語
●スープ 生きるヒントを教えてくれる物語
●メインディッシュ 当たり前のことを大事にする
尊さに気づく物語
●デザート 人の心のぬくもりがわかる物語
●おわりに