会社員やりつつ夢を追うというハイブリッドワーカーだが、本書の著者であるヨシナガさんはハイブリッドワーカーという生き方についてどう考えているのだろうか。お話を聞いてきた。(以下、敬称略)
ハイブリッドワーカーについて
―まず、本書を見て思ったのですが、表紙デザインがいいですね。内容とぴったり。
ヨシナガ「表紙を見ただけでどんな内容かわかりますよね。サイト(『僕の見た秩序』)にも、表紙を褒めてくれるメールをくださった方がいました。ハイブリッドワーカーという新しい概念を紹介する本なので、表紙は内容が伝わるものがいいと思ったんです」
―発売されて二週間ほど経ちましたが反響はいかがですか?
ヨシナガ「サイトを見てくださっている方は熱いメールをくださいますね。自分がやっているサイトは若者向けのサイトなのですが、もっと年齢層の高い方もこの本を読んでくださっているようです。
『20年前に読んでいれば人生が変わっていたかもしれない』って言ってくださる方もいらっしゃって、そんなことを言われるとは思っていなかったのでびっくりしました」
―ハイブリッドワーカーの定義を教えてください。
ヨシナガ「仕事を二つ以上持っている人、というのがまず一つ。本書では会社員と創作活動の二つの仕事を持っている方を紹介しているのですが、今まではミュージシャンだとか漫画家などを志す方は会社勤めをせずに、アルバイトをしながらデビューへの機会を窺うというのが日本で何十年も続いてきた基本スタイルでしたよね。そうではなくて、会社員をやりながら、それとは別の、自分の夢的な仕事を実現している人たちのことをハイブリッドワーカーと呼んでいます」
―ということは、正社員であることが条件になるんですか?
ヨシナガ「正社員じゃなければいけないということではなくて、生活を支える仕事と、自分の夢に関わる仕事を二つ持っている方ということです。これまでは本やCDの印税だけで食べていけた人がたくさんいましたが、今は創作活動のみで生活していくということがどんどん難しくなってきています。創作活動に関していえば、別のどこかで収入を得ないと厳しい状況になってきていると思うんですよね」
―少し前のことになりますが、リーマンショックの時に、いくつかのメーカーが従業員の副業を許可するということがありましたね。
ヨシナガ「時代の流れですよね。今までは『副業』というとどこか後ろ暗いイメージが付きまとっていたと思います。だからこそ今回『ハイブリッドワーカー』という新しい言葉を作りました」
―本書では六人の方と対談されていますが、この人選はどのように行ったのですか。
ヨシナガ「最初に僕が編集担当の松下さんに『この人はどうだろう』という候補を見せて、二人で相談して決めました。男女のバランスや、取材対象者の“普通っぽさ”は考慮しましたね」
ハイブリッドワーカーを続けるコツ
―2つの仕事を組み合わせるコツがあったら教えてください。
ヨシナガ「二つあって、一つ目は、夢を追う方の仕事は自分が本当に好きなことをやること。もう一つは、生活を支える方の仕事とはできるだけ性質の異なったことをやること。例えば外回りの営業をしながら、夜は机に向って創作活動をすると、うまく気持ちを切り替えられていいのではないでしょうか」
―ヨシナガさんご自身もハイブリッドワーカーとして活躍されていますが、クリエイティブの方の仕事はいつ頃されているのでしょうか。普段の時間の使い方を教えていただきたいです。
ヨシナガ「朝八時ごろに起きて、九時半から二十時くらいまでは会社で働いています。それから家に帰るかファミレスに移動して何かしらの創作活動をしていますね。その後電車がなくなるころを見計らって帰宅して、食事をしたりお風呂に入ったりしてだらだらしてから四時くらいに眠るという生活ですね」
―睡眠時間は四時間で足りていますか?
ヨシナガ「僕自身は三か月前に三十歳になったのですが、何とかできています。二年くらい前は睡眠三時間でもやれていたんですけどね」
―今回の対談でヨシナガさんにとって何か新たな発見はありましたか?
ヨシナガ「対談させていただいた6人の方々は、芥川賞作家の方(津村記久子さん)がいたり、ミュージシャンの方(RYOさん、sachiさん)がいたり、本当に様々な活動をされているのですが、皆さんすごく人間っぽいというか、ちょっと言葉は悪いのかもしれませんが、ごく普通の方々なんですよね。 芸術分野やクリエイティブの世界ですごい人というと、もう明らかに『この人は天才だ』みたいなイメージがあると思います。でも、ハイブリッドワーカーの方々はそうではなくて、『まっとうな感覚』を持っていらっしゃる。 『自分に才能があると思いますか?』と尋ねても、皆さん『ない』と言うんです。あれだけ皆さん活躍されているのに才能がないっていうのはおかしいじゃないですか。でもみんな淡々と創作活動を続けて結果を残している。そういうところはとても面白いですね」
―二つの仕事を持つことのメリットとデメリットを教えてください。
ヨシナガ「メリットはやはり生活が安定することと、それに伴う精神的な安定だと思います。それと生計を立てる方の仕事と創作活動とで、うまく気持ちの切り替えができるところですね。創作活動の方で煮詰まっても、会社に行って人と話すことでリセットできたりもしますし。 デメリットはどうしても時間が足りなくなることです。僕自身しばらく遊んでいない気がします。旅行も行っていないし…。それは今回対談した方の中にもそういう方がいましたね。でもそれはクリエイティブの仕事と趣味、どちらを取るかという問題です。僕自身はそれが苦になったりはしませんし…よく考えたらドラクエをクリアするくらいですから意外と遊んでいるのかもしれません(笑)」
―今後ヨシナガさんご自身はどんなことに取り組んでいきたいですか?
ヨシナガ「今はハイブリッドワーカーをネタにして、漫画を描けないかと思っていたりしますし、もともとオリジナルのキャラクターを創ったりするのが大好きなので、それに関わることは何でもやっていきたいです。『僕の見た秩序』は死ぬまで毎日更新していきたいなと思っています」―もしクリエイティブの仕事一本でやっていける状況になっても、ヨシナガさんはハイブリッドワーカーで居続けますか?
ヨシナガ「もちろんです。収入的な面だけでいえば今でももしかしたらやっていけるかもしれませんが、会社員としての仕事も大事に思っているので、今後もハイブリッドワーカーを続けていきたいです。これがベストなのではないか、というくらい今の生活がうまく回っているので、何か歯車を取ってしまおうという気にはならないですね」
―ひそかに夢を持ちながら、会社員をやっている方にメッセージをお願いします。
ヨシナガ「今週の土日から始めることです。夢を持てない人もたくさんいます。だから夢を持っているというだけで一歩ステージを上がっているんですよね。夢を持っているならまず何か始めてみるべき。やってみて、『やはり向いていないな』ということに気づいたとしても、それも大きな前進だと思うんです。思い切って試してみるのはすごく大事だと思います」
(インタビュアー/記事:山田洋介)