第一章 瞳 ―スカウト―
第一章 瞳 ―作戦―
第一章 瞳 ―女の幸せ―(7月1日配信!)
第一章 瞳 ―スカウト―
(こちらの立ち読みでは「第1章 瞳 ―スカウト― 」の後半部分よりお楽しみ頂けます。
前半部分は新刊ラジオにてラジオドラマ化して紹介しています!)
「あいつ調子乗りすぎじゃない? 生理的にムカつくんだよね!」
ちょうどその頃から、姫を中心とした彩夏の取り巻き達による集団苛めが始まった。
「瞳のヘルプになんかつきたくない!」と付け回しに不満を漏らし、店の男子スタッフを困らせた。
渋々瞳の席についても、指名客と平気な顔で連絡先を交換する。
「あの子は身体を張って営業しているからねぇ~、私には真似出来なーい」「この間、ラブホから出てくるところを見たよ?」「絶対店長と出来てるって!」
口八丁手八丁で邪魔をする。待機の連中は決まって瞳の悪口大会。接客中の瞳をジロジロと舐め回しながら、聞こえるくらいの声で文句を言われる。
「誰にでも色目使ってんじゃねぇよ!」
瞳が出勤すると、ロッカーの名札が剥がされていて、靴棚に置いてあったお気に入りのサンダルが無くなっていた。姫はわざとらしいくらい愛想良く挨拶をしてきた。
「瞳おはよ~ん」
「おはようございます」
ぐっと耐えて我慢した。これぐらいあの時の苦しみに比べたら何でもない。
――きっといつか苛めもなくなる、それまでの辛抱だから
そう思って自分を抑えた。店に常備されているサンダルの中から、自分に合う適当な物を探した。それは瞳には少し大きかったらしく、ホールで片方脱げて躓いてしまった。それでも笑って席についた。新海には、何だか情けなくて言えなかった。
営業が終わり、送りの車に乗り込んだ。他に二人のキャストが乗っていたけれど、姫と彩夏ではないので安心した。浦和と戸田を経由する春日部までの長いドライブ。
ついウトウトしていると、新海から電話が鳴った。
『瞳ぃ~お疲れ様! 最近何か辛いことないか?』
「何いきなり?」
『お前、彩夏達に苛められているだろ!』
「……別に」
『さっき姫に、「店長って瞳と出来ているの?」って訊かれたよ。勿論、「俺はお前たちキャスト全員を愛しているぞ~!」って冗談で返したけどな』
「あっそう」
『まぁ営業中もあからさまな態度だし、何となく苛められているのかなぁ~って。瞳、もう店辞めたくなっちゃった?』
「それぐらいじゃ辞めないよ」
『偉いぞ! 姫の嫌がらせに負けたくないなら、逆に利用しちゃえ。上手い対処法教えてあげるよ』
「対処法?」
春日部に着くまで約四十分間、新海の話は長々と続いた。
家に帰ると、ダイニングテーブルにラップされたロールキャベツが置いてあった。達筆な母の字で《絵里香へ お帰りなさい、チンして食べてね!》と広告の裏に走り書きしたメッセージが添えられていた。《チーンッ》電子レンジから熱々のロールキャベツを取り出した。多栄子のコンソメ風味のロールキャベツは、いつも少し塩辛い。一人で素っ気ない食事を済ませて自分の部屋に入った。
明かりも点けぬまま、ベッドに倒れ込み目を閉じる。
――そんなに上手くいくものかな
さっき聞いた新海の言葉が、呪文のように瞳の頭を駆け巡っていた。