『ハイブランド企業に学ぶ 仕事が変わる「感性」の磨き方』
矢島: 仕事っていうとロジカルなければいけないと思われがちです。そんな中で本書は「感性」の重要性を解説していますが、感性がビジネスに重要だと気づいたのはどういうきっかけだったんでしょうか?
感情とか、思いが大事なことは前から思っていたことではあるんですけど、特に考え始めたのは、ハイブランド・ラグジュアリーブランド業界に対しての研修を行うことが増えてきたあたりからですね。
矢島: なるほど、ラグジュアリーブランドの販売員さんたちも悩んでいるんですね。
そこでミステリーショッピングで(※)、実際に私たちがお客さんの振りをして出かけて行ったんですけど、どうも心に刺さらないのが「感性に訴えかけられないから」なんですね。
こちらの「感性」を拾ってくださろうとする姿勢が、見えにくいからだと思ったんです。
※ 販売方法の問題点や改善策などをあきらかにするための覆面調査
たとえば、100万円の予算をもって指輪を買いに行きました。すると、販売員さんは、「予算はいくらですか?どんな石がいいですか?サイズはいくつですか?」と聞きたくなるんですけど、そうじゃないんです。
矢島: 一般的な接客という感じですけど、足りないものがあると。
だから、買い物に至るまでの背景とか、人生のハイライトに対する思いや、相手の感情を分かろうとしないと、結果、「あなたから買いたい」とはならないって気づいたんです。
矢島: なるほど。ハイブランド・ラグジュアリーブランドは特にそうですね。売ってるのは商品や品質だけではなく、物語や、商品を手にした時の体験も含めてですからね。そこが見えないと、ハイブランドに行く意味がないですね。ネットショッピングならいくらでも安く買えてしまうわけですから。
そういうことなんです。わざわざ出かけて行って、販売員さんと1対1のコミニュニケーションをとる意味がなくなってしまうので、共感を示してくれたり、興味を盛ったり、心に近づいてくることが必要なんです。
矢島: このマインドはとても大切だと思います。ハイブランド・ラグジュアリーブランドに限ったことではなく、どこでも重要なことですね。
何のための会議室なのか。顔ぶれは誰なのか、それによって空調の温度は上げた方がいいのか下げた方がいいのか。嬉しい話なのか、残念な話なのか。窓があったほうがいいのか、ないほうがいいのか。そういう相手の背景にも興味を示さないと、いわゆる合格点を超える一流の仕事にはならないですね。
矢島: なるほど。ちょっと変なたとえですけど、秀吉が「草履を温めておきました」って話がありますよね。あれも、「草履を温めておけばOK」なんじゃなくて、「信長様が足が冷たいだろうから温めておきました」っていうことなんですよね。これって感性の仕事ですよね。
そういうことですよね。ところが「靴は温めておく」みたいなマニュアルになってしまうと、温めない方がいいときにまで温めてしまう。
矢島: そうですね、真夏も草履を温めておいたら、斬られても文句言えない(笑)
社会人になってきっちり仕事をしていると、感情とか感性に訴えかけるのが子どもっぽいんじゃないかと思いこんでいる人は多いですね。すべて論理的に、感情を押しころして、理性的でいなければならない、というような。でも、実際いろいろ思い浮かべてみると、「この人と仕事したいな」とか、「またあの人に声かけよう」と思うときって、どういう一言を言って下さったとか、こちらの感情にどれだけ近づいてきれくれたかっていうのは、すごく大事ですよね。
矢島: 僕もインタビュアーの仕事を始めてから、ようやくそれに気付きました。いわゆるトップセールスマンとたくさん会うようになって思ったんですけど、みなさん人懐っこい人ばかりなんですよね。年が離れている人でもまるで友達のように話してくれたりして。あ、こういう人だから営業ができるんだなって気づきましたね。相手の話を聞くときの態度って、すごく大事ですね。
そうですね。相手の話を聞くというと、今、「傾聴」のトレーニングが大流行しているので、傾聴についてまったく学んだことがないっていう人は少ないと思うんですね。でも、技を知っていたり、技術は使えても、実際に、本当に相手に興味はありますか?ってことを考えないといけないんです。ここはむずかしい線引きだと思うんですけど、仕事だとしたら、個人的な興味関心ではなくて、「仕事として興味を示す」。