『売らずに売る技術』
矢島: 今回は、ソーシャルメディア時代におけるモノの売り方を考察した1冊なんですが、小山田さんは「企業が売ろうとして売るのが難しい時代になった」と評していますね。
「企業が売ろうとして、売るのが難しい」というのはすこし補足が必要で、つまり「企業が一方的に売ろうとして売るのが難しくなった」ということなんですね。
矢島: たとえば、「新商品ですよ!」「おいしいですよ!」といった、直接的なアプローチが通用しなくなったということですか?
そうです。「安い」とか「新機能搭載」とか、そういう“企業側からの押し出し”を消費者に向けて訴求しても通じづらくなってきたということですね。
矢島: そうか、たとえば「おいしいですよ」という広告があっても、ツイッターやレビューサイトを見れば、消費者の生の声が出てきてしまいますもんね。「○○丼食べてみたけど、イマイチだった」なんていう書き込みが大量にあったら、偽物の広告がバレてしまうと(笑)
※ ステマ:「ステルスマーケティング」の略。宣伝であることを隠して商品の良さを伝えようとする行為。
矢島: ソーシャルメディア上では、企業側が商品イメージやブランドイメージをコントロールが非常に難しい。そこを企業が、どうコントロールするか・・・うまく作り上げていくにはどうすればいいか、ということを高級ブランドに学ぶのが本書のテーマですね。
はい。
矢島: 高級ブランドはどうしてるんですか?
ひとことでは言えないですけど(笑)高級ブランドってこう言っちゃなんですが、ちょっと偉そうじゃないですか。でも、そうやって普通の生活よりもランクが高いところにポジションを取って、上昇志向に応えてきたわけです。これをソーシャルメディアで同じことをすると「なんか気に入らねーな」という意見が出てきてしまうので、ラグジュアリーブランドにとっては危機なんです。
矢島: そうですね。
なんでラグジュアリーブランドが高級ブランドとしてやっていけるかというと、みんなが認めてくれるからなんですよね。消費者の頭の中から、「このブランドの商品はモノが良い」というイメージが失われてしまったら、もうどれだけ良いものを作っても成立しなくなるんです。
矢島: そう考えると、ソーシャルメディア時代って企業にとってはかなり怖いですね。
こわいですよ!
高級ブランドは、「質の良さ」とか「本物の体験」を売りにしているから、ちょっとでも傷が付いたときの落差は大きいです。だから一般のブランドよりも、ブランドイメージを大切にせざるを得ない人たちなんですね。でもソーシャルメディアが普及した以上は、消費者と同じ目線でコミニュケーションしていかなきゃいけない。
矢島: 大上段で偉そうにもしていられなくなったわけですね。そのあたりをうまくやったブランドと言えばどこでしょうか?
たとえばバーバリーです。バーバーリーは日本においては若者にも親しまれていましたが、海外では“古いブランド”というイメージが強かったんです。そこで2000年代半ばくらいから、ブランドの若返りをさせるという方針がとられ、積極的にデジタルマーケティングを強めていくことが決められたんです。
矢島: ラグジュアリーブランドのソーシャルメディア活用の先駆けとなるわけですね。
そこで、まだ当時は高級ブランドが手を出していなかったTwitter だったり、Youtube だったりといったデジタルチャネルを使って、消費者と直接コミニュケーションを取ったんです。そうすることで若い世代にアプローチしていきました。ただ今までのように「どうだウチはすごいだろう」というやり方をしても、反発を食らうだけなんですよね。
矢島: たしかに(笑)急に偉そうなツイートが飛んできても困りますね。
そこで当時のバーバリーは、フランクなブランドとして振る舞い、親密感を演出していったんです。たとえば写真ひとつとっても、これまでは名のあるフォトグラファーに依頼していたものが、ソーシャルメディア上には、もう携帯で撮りましたみたいなものをばっと上げてみたり。権威よりも、熱狂が伝わるものを優先的に採用するようにしていったわけです。その他にも・・・・