『無戸籍の日本人』
矢島: 「無戸籍問題」は最近でこそ、テレビで取り上げられることが多くなりましたが、まだまだ一般に浸透していない問題だと思うんですね。井戸さんが無戸籍問題の支援活動を行ったり、本書を書こうと思ったきっかけを教えていただけますか?
まさに私の息子が「無戸籍」になってしまったんです(現在は取得)。私は、法に従って結婚して、離婚、再婚をして、子どもを産んだにもかかわらず、生んだ子どもが戸籍が得られない状況になってしまいました。最初は、自分の子どもが無戸籍なんていうのは、私だけしかいないと思っていたんですけど、実は年間3000人もいるということを知りました。これは法律がおかしいんじゃないかと思い始めたんです。そうして私は、この問題を経験した1人として支援活動を始めました。
矢島: 単純な疑問として、どうしてそういうことが起きてしまうんだろうと思うんですが、「無戸籍者」の人たちは、どういった理由でそうなってしまうんでしょうか?
それから、親に経済的な余裕がなくて出生届けを出さないというケースもあります。貧困でそこまで意識がまわらないというケースや、病院に出産費用を払えなくて証明書を病院に預けたまま、出生届けを出せないということもあります。
矢島: 無戸籍であることのデメリットというか、無戸籍者自身が辛いと思っていることは主にどんなところにあるんでしょうか? 井戸さんは無戸籍者の方からの相談を受けていらっしゃると思うんですが、みなさんどういうきっかけで「戸籍を取りたい」と相談してくるのでしょうか?
戸籍がないと学校に通えないとか、住民票が取れないとかあるんですけど、今は色んな方々のがんばりで改善はしてきています。たとえば、パスポートなんかは無戸籍でも取れるようになりました。だけど、ハードルは非常に高くて、取得のための調停、裁判を起こして、その証明がないといけなかったりします。
矢島: 徐々に改善されてきてはいるものの、本質的な改善には至っていないのですね。
たとえば、今日相談を受けた高校生のお子さんは、大学進学のためにTOEICの試験を受けるために必要な身分証が取れないというものでした。その子は留学を目指しているのですが、身分証がないとTOEICの試験すら受けられず、それでものすごく困っているんです。