―『相続と節税のキモが2時間でわかる本』はこうしたジャンルの本には珍しく、ストーリー形式で相続や節税のことが学べる内容となっています。ただ、気になったのがそのストーリーの舞台が平成27年なんですね。これはどうしてなのでしょうか。
「実は平成27年に相続税が大増税されるんです。今、出版されている本の多くは現状と増税後の二段構えで説明しているものが多いのですが、この本では、少し長い目で見て相続を心配されている方に読んで欲しいと思い、平成27年の増税後のシステムにしぼって書いています」
―じゃあ、ストーリーは全て増税後の計算式で展開されるわけですね。
「そういうことになりますね」
―平成27年の相続税の改正によって、具体的にどう増税されるのですか?
「増税なので、相続税が増えます(笑)具体的に言うと、いろいろなところが変わるのですが、一番大きいところでは基礎控除額が減ります。相続財産(亡くなった人が遺した財産)のうち、税金がかからずに控除される額があって、それが現状では『5000万円+1000万円×相続人の数』となっています。だからもし、相続人が妻と子ども2人だった場合は8000万円までが控除されるので、遺産総額が7500万円だったとした場合は申告する必要がなくなります。また、同じ状況で遺産総額が2億円だったとすると、そこから8000万円を控除して、1億2000万円までが税金の対象になります。
ところが、平成27年からは基礎控除額が『3000万円+600万円×相続人の数』になります。これは計算すると、控除額が4割少なくなることになります」
―これは相当大きな額ですよね。
「そうなんですよ。だから、これまで納税の申請をする必要がなかった方々が、今度は納税をしないといけなくなる可能性があるんです。実はそもそも相続税を納税しなければいけない家庭っそんなに多くなくて、東京近郊で納税対象になる人って15%くらいなんです。ただ、その数が再来年から2倍以上になると思います」
―他にはどのような点が変わるのですか?
「相続税の税率が上がります。現状の最高税率は50%なのですが、これは55%になりますね」
―具体的にはどんな人にその税率が課せられるのでしょうか。
「これは特に資産家の方々です。この本の27ページで現在の税率と改正後の税率の表を掲載したのですが、それを見ていくと、現状では法定相続人の取得金額が3億円を超えると50%の税率が課せられることになっています。3億以上であればいくらでも50%なのですが、改正後では、法定相続人の取得金額が6億円を超えると55%になります。
ここで注意して欲しいのは、遺産が6億円ではなく、法定相続人の取得金額が6億円超というところです。だから、10億円くらい財産がある人が対象になります。
また、他にも法定相続人の取得金額が2億円~3億円の方々も税率が増えることになります。この辺の計算式などは分かりにくい部分があるので、本を読みながら理解してもらえると嬉しいです。
今回の改正はダブルパンチなんです。基礎控除額が減り、ある程度の資産家は税率が上がるという」
―なるほど。でも、国はどこまでお金を持っていくんだ!という気にもなりますね。
「お金を持っている人に多く納税してもらおう、ということなんでしょうね。また、書籍の39ページには実際にどの程度、相続税の総額が増えるのかという表を載せていますが、例えば3億円の資産があり、妻と子ども2人がいる方であれば、現状だと総額で4600万円増える計算です。これが平成27年からは、5720万円となり、1000万円以上増えることになります。この場合、配偶者の奥さんが法定相続分を引き継げば、控除される部分もあるのですが、それでも最低500万円以上は増えてしまいます」
―この39ページの表を見ると、本当に増えるんだと思いますね。
「今の相続税って、相談に乗っていると『思ったよりもかからないですね』と言われることが多いんです。何千万も取られるかと思ったら、数百万円でした、とか。ただ、再来年からは、思った以上にかかってしまったというケースが増えてくると思います」
―ここから節税の話に移っていきたいと思うのですが、意外だったのが、「相続や遺言によって財産を取得した人が、相続前3年以内に被相続人(亡くなった人)から贈与によって取得した財産があるときには、その財産は相続財産に加算して相続税の計算がされる」というところでした。つまり、例えば亡くなる前3年以内に自分の子どもに贈与したものは、相続税の計算の中に入ってしまうということですよね。
「そういうことですね。すでに贈与していても、3年以内なら戻して計算します。この場合は相続人が対象になるので、孫であれば、養子縁組を組まない限り、贈与するのは3年以内でも構いません。また、教育資金の贈与といって、子どもが小さい場合は、その子が30歳までに使いきれば1500万円まで非課税になる規定もあるので、利用できれば利用するといいでしょう」
―他に生前のうちにできる対策を教えていただけますか?
「今話した生前贈与が最もオーソドックスです。ほかには土地をある程度持っていて、駐車場やさら地になっているときは、賃貸アパートを建てたりするといいでしょう」
―それはどうしてですか?
「土地や建物の評価額は、現金預金よりもはるかに安くなるんです。ただ、空き家が出てしまうと問題なので、持っている土地があまり良くないというのであれば、売ってしまう手もありますね。それで都心の賃貸マンションを買ったりして、稼げる不動産化するといいと思いますよ」
―落合さんはご自身で会計事務所を開設していらっしゃいますが、ここ最近、相続税に関するご相談は増えているのですか?
「多くなっていますね」
―この本にもすでに遺族がもめてしまっているケースがエピソードとして載っていますが、もめてしまっている段階で相談にいらっしゃるケースはあるんですか?
「すでにもめているという状態はありませんが、遺言がなく、申告をする際に兄弟間で遺産分割の結論が出ない、という相談はあります。でも、もめてしまうと手間もかかりますし、ただ時間だけが過ぎ去っていきますから。納税額を節税できる特例を使えなくしまうことも多いので、なるべくもめないように話をしていますね」
―また、これから相談しようと思っている方の中には、どの税理士さんに相談すればいいのか分からないという方も多いと思いますが、そのときは税理士さんのどの部分を見ればいいのでしょうか。
「相続税の申告をしなければいけない人はかなり少ないというのは最初の方にお話しましたが、そういうこともあって税理士にとって相続税についての相談ってかなり特殊な仕事なんです。だからほとんどやったことがない税理士もいらっしゃいます。私の事務所は年間で百件近い相談を受けていますが、やはり慣れている方がスムーズにいきますね」
―本書はストーリー形式でありながら、図表がたくさん掲載されていたので、さらにそれが相続税についての理解深めるのに役立ちました。
「ありがとうございます。ストーリーにすると、どうしても数字を出しにくくなってしまうのですが、全体感をつかめて、なおかつ分かりやすいようにという点は意識しました」
―本書をどのような方に読んで欲しいですか?
「相続に不安のある方、相続税の仕組みに興味があって、知りたい方に読んで欲しいです。具体的な流れが全く分からない人にも分かりやすく書いているつもりです」
―では最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
「今話したことと被ってしまいますが、相続税や相続について今まで何も知らなかった方でも分かるように書きましたので、本書を読んでおおまかな流れをつかんで欲しいです。また、遺言書や再婚した場合など、さまざまなケースの対策も説明しているので、自分の立場に合わせて参考にしていただければありがたいです」
―ありがとうございました!