第2回
今後、日本の労働力人口の減少が避けられそうにないというのは、すでに知られているところだろう。それにより、多様な人が「働きたい」と思える職場を実現することは日本経済にとっても企業にとっても大きな課題となる。
『潜在ワーカーが日本を豊かにする―――シニア、主婦(夫)、外国人……多様な働き方が救世主となる』(武井繁/著、ダイヤモンド社/刊)では「潜在ワーカー」をキーワードに、「労働力の確保」という、これからの企業戦略の核になる部分への各企業の取り組みを紹介している。
潜在ワーカーとは、シニア、主婦(夫)、在留外国人といった、企業の現場で労働力の活用が進んでいない層のことを指す。本書によれば、潜在ワーカーは合計3000万人にものぼるとされ、2050年までに2000万人減少するともいわれる労働力人口を補うことが期待される。
ここでは、潜在ワーカー側の多様な価値観や特性をくみとり、活用へと結びつけている企業例をいくつか紹介しよう。
フィリピン人のホスピタリティに着目
フィリピンにはクリスチャンが多い。また思いやりのある国民性と、シニアを大切にする文化を持つ。この点に着目しうまく活用しているのが、株式会社アイ・ピー・エスだ。同社は2006年より介護スタッフ紹介サービスを開始し、フィリピン人を含め、これまでに6000名のスタッフを紹介した実績を持つ。
前述した文化を背景として、フィリピン人は介護サービスの利用者に対して、まるで「自分の身内のように」接することが珍しくないという。それもあって、介護現場における評価は高いのだ。結果、働く側にとっても「人の役に立つ仕事」をしている実感を得ることができ、満足度が高いという。
シニアならではの「プラスα」な接客
「モスジーバー」という言葉を聞いたことがあるだろうか。これは、「モスバーガー」で働くシニア層のスタッフを指す造語だ。同チェーンの五反田東口店では、全スタッフ約50人中60歳以上のスタッフは10人と、シニア層の活躍が目立つ。
企業にとって、シニア層を雇用することのメリットはどこにあるのだろうか。本書によれば、それは、マニュアルにとらわれない、シニアならではの「プラスα」を上乗せできることだという。
たとえば、常連の顧客に対してドリンクの砂糖やミルクの好みなどを覚えてトレーに載せたり、クジのキャンペーン中であれば、「当たりますように」といいながら手渡したりといった対応をすることで、顧客は安心感を得られるのだという。
本書の終盤には、興味深い試算が載っている。それは、潜在ワーカーの所得が、日本経済にどれだけのインパクトを与えるかというもの。平均月収を8万円として、この層の3000万人が全員何かの職に就くと仮定すると、年間での合計所得は約28兆円にものぼる。
雇用についてより柔軟な考え方が求められるなかで、「潜在ワーカー」の存在は企業にとって戦略上の重要なポイントになってくるのではないだろうか。