――大手の企業が給料アップを決めたというニュースが話題になっています。このことでアベノミクスに対する評価も一転して高まると思いますが、その一方で中小企業の話はあまり出てきません。中小企業の支援を行っている武田さんは、アベノミクスの影響が中小企業に出ていると思いますか?
武田:中小企業にアベノミクス効果が出ているとは思いません。慢性的に赤字の会社は今も赤字ですし、慢性的に資金繰りに悩んでいる会社は今も資金繰りに苦しんでいます」
――中小企業でも好調な業界とそうでない業界分かれているのですか?
武田:業界による違いはないですね。世間で好調と言われている業界でも赤字の会社はありますし、世間で斜陽と言われている業界でも業績絶好調の会社がありますから」
――中小企業で黒字経営を続けられる企業はどのような部分が共通していると思いますか?
武田:一時的な黒字ではなく、黒字を継続している企業は、「正しいことを」「ちゃんとやっている」企業です。
「正しいこと」とは、ひと言では言い表せませんが、倫理的価値観を持っているか、長期的視野を持っているか、消費者目線を持っているか、顧客第一主義を貫いているか、数値を追っているか、といったことです。「社長の資質」にかかるものですね。
その社長が、社員に方向性を与え、社員が実行に移しているかどうかです。
――一時期、起業ブームが起こりましたが、今の起業数は以前と比べてどうなっているのでしょうか。起業を取り巻く環境などについてお聞かせください。
武田:起業を支援するイベント等が盛り上がっているようですが、起業家が増えているという印象はありません。実際にデータを見ても「開業率」は「廃業率」より低いまま。 ただ、新規株式上場(IPO)の数が増えているのは良いことですね。IPOを目指す企業がどんどん現れて欲しいと思っています。
――今後、アベノミクスによって中小企業まで好景気の波がくると思いますか?
武田:アベノミクスと東京五輪による好景気・バブルが来ると言っている方もいますし、実際に好景気が来るかもしれません。しかし、だからといって中小企業の業績が右肩上がりになるわけではありません。我が国の人口や会社数は減り、マーケットは縮小していきます。消費税増税などによる個人への税負担は今後も増えていくはずです。中小企業にとって、厳しい環境は続くでしょうね。 中小企業に求められることは、「社会」や「買い手」の動きよりも早く、「自社」が動くことです。
――本書はターゲットを中小企業の社長に書かれた一冊ですが、どのような経緯から執筆にいたったのでしょうか。
武田:私は公認会計士として独立して以来、クライアントの大半は上場企業でした。しかし、2011年3月の東日本大震災の後、多くの中小企業が直接的・間接的な被害を受けて苦しんでいる状況をみて、「なんとかせなアカン!」と思ったんです。東北地方だけでなく、関東や関西の中小企業も大きな影響を受けていましたので。
「私にしか出来ない復興支援って何だろうか・・・」と考えると、赤字や資金繰りに悩む中小企業を1社でも多く救うことだと思いました。そこで、「黒字社長塾」という中小企業に特化した経営コンサルティング、会計コンサルティングの事業を始めたのです。某団体に寄付しようと思っていた数百万円を、「黒字社長塾」の会社設立、HP制作、小冊子制作、FAXDM、セミナー開催などにすべて使いました。
中小企業の社長向けのセミナーは何度も開催しました。そのセミナーは大好評で、多くのご来場者から「目からウロコだった!」「救われた!」という感想を頂きました。
その時のセミナーの内容を書籍化したのが、「1年で会社を黒字にする方法」と「1年で売上が急上昇する『黒字シート』」の2冊です。前著が主にコスト削減策について、後著が主に売上向上策について述べています。両方を読んで実践して頂ければ、1年で会社は変わるはずです。
――本書の特徴は詳細に「ビジネスシナリオMAP」の作り方を指南しているところだと思うのですが、「ビジネスシナリオ」とは何か、そしてそれを作ることによって会社経営にどのような影響を与えるのかご説明いただけますか。
武田:「ビジネスシナリオ」とは、「自社の成功物語」と思って下さい。「ビジネスシナリオMAP」は、どうやって成功するのかを1枚のシートにまとめた本書にしか載っていないツールです。 人間はイメージした通りの行動しかできません。だから、まず「成功物語」を作ってしまうのです。社会の動きはどうなっているのか、お客様のニーズは何か、自社にできること、したいことは何か、その上で会社はどこに向かうべきなのか、お客様に伝えるべきメッセージ(キャッチフレーズ)は何なのか・・・、ということを1枚のシートに視覚化したものです。たった1枚の「ビジネスシナリオMAP」を作成することにより、頭の中でモヤモヤとしていた思考の整理が出来ますし、事業計画書が出来上がったようなものです。 「ビジネスシナリオMAP」を作成して売上が急上昇したクライアントの社長からは「魔法のツール」と呼んで頂いています。
――巻末には「ビジネスシナリオMAP」のシートが付録されていますが、これは普段、武田さんが「黒字社長塾」で使っているものなのですか?
武田:もちろん使っています。
私が「黒字社長塾」を立ち上げた時にも作成しましたし、「黒字社長塾」のクライアントにも作成してもらっています。会社レベルでの「ビジネスシナリオMAP」だけでなく、事業レベル、部署レベル、個人レベルでの「ビジネスシナリオMAP」を作成することもあります。この1枚で事業や人事のマネジメントまで行なっているクライアントもあります。まさに「魔法のツール」なんです(笑)。
「ビジネスシナリオMAP」を作成すると「あとはやるのみ!」という状況になりますから、「黒字社長塾」のクライアントの社長には、そこにフォーカスを当てて行動してもらっています。
――今後、どのような社長がいる会社が黒字経営を達成していくとお考えですか?
武田:先程も言いましたが、正しいことを、ちゃんとやる社長がいる会社は黒字になります。
誤ったことを一生懸命にやっている社長、もしくは、正しいことをやったつもりの社長が多すぎます。
2冊の本にも書きましたが、社長業とは「セールス」「マーケティング」「イノベーション」だと思っています。この3つ、特に「マーケティング」「イノベーション」は、部下に譲ることができない仕事です。
しかし、「黒字社長塾」のセミナーに参加して頂いた中小企業の社長さんに、「セールス」「マーケティング」「イノベーション」のために1週間に何時間割いているのかアンケートを取ったのですが、ほとんどの社長さんがゼロ時間~数時間なんです。つまり、社長がやるべき仕事を何もやっていない。売上を上げるために必要なことを何もやっていない。なのに「忙しい、忙しい」という。
一方、黒字社長はやるべきことにフォーカスしていますね。時間の使い方が全く違います。そのため、「1年で売上が急上昇する『黒字シート』」では、最終章にタイムマネジメント(時間管理)に関する「魔法のツール」も載せました。
時間に追われてる社長がいる会社が負け、時間をマネジメントする社長がいる会社が勝つと言っても良いくらい、社長の時間の使い方と行動力が大切です。
――このインタビューの読者の皆さまにメッセージをお願いします。
武田:中小企業の社長さんは、それなりの熱意・情熱を持って経営されていると思うのです。なのに、赤字。これって、おかしいと思いませんか。何かが根本的に間違えているのです。ビジネスで成功するために必要なことは、人より多く働くことでも、がむしゃらに営業することでもありません。正しいことを、ちゃんとやって欲しいのです。 この2冊で、中小企業の社長さんが知っておいて欲しいことをすべて盛り込んだつもりです。私がクライアントを黒字にしてきたノウハウもすべて盛り込みました。読者の方から、「経営のバイブルとして使っています」「人生を変えた何冊かのうちの1冊になりました」「この値段でこの内容は有り得ない」というような嬉しい連絡も頂いています。 是非、多くの社長さんにバイブルとして使って欲しいと思っています!
公認会計士・税理士、武田公認会計士事務所代表、税理士法人みんなの会計事務所パートナー、中小企業支援の「黒字社長塾」代表、海外展開支援・クロスボーダーM&A支援の「OneAsia」アライアンスメンバー、起業支援の「一般社団法人スタートアップエンジン」理事。関西学院大学商学部卒業。監査法人、東証上場企業、コンサルティング会社勤務等を経て、現在に至る