■本文(第一章はじめ)
1 円周率
円は古来から人々にとってもっとも親しい図形であったに違いありません。木を切ればその切り口は円であり,年輪は木の年齢を同心円の数で示していました。古代の人たちは,1日の半分を夜の闇のなかで過ごしていましたが,外に出て天空を仰ぎ見れば,多くの星が空一面に輝いており,その神秘的な美しさのなかに,天からの啓示をうけとっていたのかもしれません。
北半球では,夜空の星は北極星を中心にして大きく円を描いて大空を回り,また月は満月の満ち欠けを通して季節の移りを教えてくれました。
円周率πとの出会い
円の半径を2倍にすれば,円周の長さも2倍になるということは,円形の土器をつくるときや,木の幹まわりを測るときの経験などから,昔からよく知られていたことであったと思われます。
一般に円の半径の長さをr,円周の長さをlとすれば,lはrに比例する。この比例定数をπとすれば
【公式1】 l=2πr
と表わされます。πは円周率といいます。小学校ではπ=3.14と習います。
円周率πを使うと,半径rの円の面積Sは
【公式2】 S=πr2
と表わされますが,このよく知られた公式は,いまから5000年前のバビロニアの人たちやエジプトの人たちも知っていました。
この公式2を1から導く考え方は,私が昔,小学校で習った算数の教科書(小学校5年・上)にも載せられていました。以下にそれをそのまま紹介することにしましょう。
方眼紙に,1辺が12cmの正方形と,その中へちょうどはいる円とを書け。
円の面積は,およそ何平方センチあるか。
円の面積は,正方形の面積の何倍かを,小数点以下2桁まで計算せよ。また,円の面積は,その半径を1辺とする正方形の何倍であるかを計算せよ。
半径5cmの円を書き,左の図のように,16等分して切りはなし,右の図のように並べかえよ。それは,全体として,どんな形をしているか。その面積の大体の値を計算するにはどうすればよいか。
どんな円でも,円周の半分に半径をかけると面積が得られる。したがって円の面積を表わす公式は,次のようになる。
円の面積=(半径)2×円周率
【問い】 直径が3.5mの土俵の面積は何平方メートルか。
【問い】 半径5cmの円を書き,その中に,右の図のように,正方形を書け。円周と正方形の辺とではさまれているところの面積を計算せよ。
なお,教科書にあるほぼ平行四辺形の図の面積は,横の長さが円周2πrの半分,縦の長さが円の半径rとなっています。したがってこのほぼ平行四辺形の面積は近似的に
1/2×2πr×r=πr2
であることを示しています。
円周率πの値に迫る
円は完全な整った図形なのにその面積がすぐに求められないということは,古代の人たちにとっても,ふしぎな,もどかしいことだったでしょう。
バビロニアの人たちは,円周率の値として
π=3 1/8(=3.125)
エジプトの人たちは
π=4×(8/9)2 (=3.160…)
を知っていたといわれています。
アルキメデスは,円周率を求めていく道として,円に内接する正多角形の辺の数を順次2倍して,その辺の長さを追っていくことを考えていたといわれています。このプロセスは5世紀にインドでかかれたヒンズーの文書のなかにも記されています。
これは現代的にかくと次のようになります。
半径1の円に内接する正n角形の1辺の長さをs(n)とすると,s(n)とs(2n)との間に次の関係が成り立つ。
s(2n)=√2-√4-4s(n)2
証明
図でAB=s(n),AC=s(2n). したがって
s(2n)=2sinθ,
s(n)=2sin 2θ
となる。上の関係式を示すには
【3】2sin2θ=√2-√4-4s(n)2
が成り立つことを示せばよい。