インタビュー
――『1店舗から多店舗展開飲食店経営成功バイブル: 23の失敗事例から学ぶ「お金」の壁の乗り越え方』についてお話をうかがえればと思います。私の周りにも「いずれは飲食店をやりたい」という人がいますが、単なる起業ではなく「飲食店をやりたい」という人がこれだけ多くいる理由をどのようにお考えですか?
飲食業界はそもそもお店の数が多いし、産業分類でいっても働く人が多いんです。その中には独立願望がある人もたくさんいるということでしょう。
また、飲み食いは誰にとっても身近なものだということもあるでしょうね。20歳以上で居酒屋に行ったことがない人はほとんどいないはずで、そういった身近なところが「俺にもできるかも」と思わせるのかもしれません。
――でも、身近だからといって簡単なわけではありませんよね。
そうですね。開業1年以内に3割から4割が潰れて、10年生き残るのは1割という統計があるくらい、廃業率が高いんです。
人はたくさん入ってきますし、独立したいと考えている人も多いのですが、自分の店を持っても軌道に乗らなければ1年以内に潰れてしまう難しいビジネスだという認識は薄いように思いますね。
――大半の飲食店が生き残れずに潰れてしまう理由としてまっさきにくるのは「資金繰りの悪化」です。しかし、独立起業を考えるくらいですから、資金繰りについてはあらかじめ考え、計画していたはずです。失敗してしまった飲食店経営者には何が足りなかったのでしょうか。
ひとことで言ってしまえば、計画性が足りなかったと言わざるをえません。
飲食業のビジネスモデルは「ヒト・モノ・カネ」が全て必要なので、そもそも難しいんですよ。初期投資でかなりのお金がかかりますし、人員も必要です。
まずお金がないと始まらないわけですが、そのお金を自己資金だけでまかなえる人は少数で、ほとんどの人はどこかから借りるしかない。ただ、たとえば開店資金に3000万円必要で、3000万円満額借りれたとしても、1年で返済しないといけないという条件だったとしたらまず返済できないでしょう。じゃあどういう条件なら返済できるのか。5年なのか7年なのか。もちろんこれは長ければ長いほどいいわけです。
今のは極端な例ですが、融資を受けることが「目的」になってしまっていて、それをどういうプランで返していくのかということがあまり考えられていない人が多いです。また、事業を始めてみると、当初の計画通りに物事が進まないことの方が多いものです。その場合でも融資を返済していけるのか、というところまで突き詰めて考えておくべきなのですが、そこまでやっている人も多くありません。
――今おっしゃったように、開業するにあたって融資は避けて通れないものですが、希望通りの額の融資を受けられる人もいればそうでない人もいます。この違いはどこで生まれるのでしょうか。
開業をする時に融資を受けられるところはほとんど決まっていて、基本的には日本政策金融公庫からしか借りられないと考えていいのですが、そこの条件として「希望融資額の10分の1は自己資金を用意してくださいね」というものがあります。1000万円必要であれば100万円は自己資金を持っていないといけない。
これを知らないと希望する額を借りられずに開業できなかったり、計画が遅れてしまったりということが起こります。担保があるとか強力な保証人がいるなら別ですが、ほとんどの人はそうではないでしょう。
「事前準備としてどのくらい貯金してきたか」というのは融資する側が開業を目指す人の信用度を評価する一つの尺度だということはわかっておくべきです。
――開業時に希望通りの融資を受けられる人の割合というのはどのくらいなのでしょうか。
半々くらいだと思います。ただ、僕のところに相談に来られる方は、比較的きちんと計画している方が多いので、一般的な割合はもっと低いと思います。
――新しい飲食店が軌道に乗るまでにどれくらいの期間が必要なのでしょうか。このあたりは計画時に甘く見積もられがちな気がします。
日本政策金融公庫の統計によると、軌道に乗るまでに約半年かかるというケースが一番多いようです。
ただ、「軌道に乗る」という表現は曖昧ですよね。継続的に「黒字」を出せるようになったら「軌道に乗った」と判断しがちなのですが、店舗の利益が黒字になることと収支が黒字になることは違います。
店舗の利益が100万円あっても、開業時に受けた融資の返済が150万あるなら、収支は赤字です。これが継続的に黒字になって初めて「軌道に乗った」と判断できるのですが、大方の人は「100万円利益が出ているからいいか」となってしまい、知らぬ間にお金がどんどんなくなって資金繰りが厳しくなってしまう。「何をもって“軌道に乗った”とするか」についてはとかく甘く見積もられがちです。
――軌道に乗って、事業が順調に回り始めたら、2号店、3号店を出して、いずれ多店舗展開しようということも考えられるようになります。ただ2号店を出すタイミングはすごく難しそうですね。どのように時機をはかればいいのでしょうか。
2店舗目、3店舗目を出すとなると、また新しく融資を受ける必要が出てきます。ただ、開業時もそうですが、事業を起こして日が浅いうちは、融資希望額を満額融資してもらえる可能性は低いんですよ。
だからこそ、ここでも手元資金が必要になります。新店舗を出すのに3000万円融資を受けたいとなった時、たとえば500万円くらいは手元資金がないと希望通りの融資が受けにくい。一方で、その500万円を新店舗に使ってしまって、手元にお金が全然残っていないという状態も危険です。
2店舗目の収支が思うようにいかず、軌道に乗るのに時間がかかることもあるわけですから、それまでカバーできるだけの手元資金を準備できているか、1店舗目の収支が安定しているか、というのが目安になります。「いい物件が見つかったから」「早く2店舗目を出したいから」ということで出すと倒産確率が大きく上がってしまいます。
よくあるのが、1店舗目、2店舗目が軌道に乗ったからということで、3店舗目でより大きな店をやろうとするパターンです。これもリスクが高くて、最初の2店舗の黒字が3店舗目の赤字で吹っ飛ぶということになりがちです。
――融資に関しての銀行の扱いはどのあたりから変わってくるのですか?
これはあくまで一般論ですが、民間の銀行は2年間の実績がないとなかなか融資してくれません。だからこそ、事業を始める時や始めた直後は、先ほどもお話に出た日本政策金融公庫から融資を受けるわけです。そこからスタートして実績を積んで、民間銀行と付き合っていけるようになったら扱いは変わってくると思います。
――民間銀行ということでいうと、本書では銀行側が企業を「格付け」していて、そのランクが融資等の条件に影響するということを書かれていますね。
そこがこの本の一番の特徴だと思っています。正直、日本政策金融公庫からどのように融資を受けるかといったことや開業時の資金面のアドバイスは他の税理士の方もやっていらっしゃいますが、店舗が増えてくると資金面のマネジメントが複雑になり、より高度な知識が必要になってくる。その最たるものが「格付け」なんです。
日本政策金融公庫から融資を受けられる額は限られるので、店舗を増やしていこうと考えると、いつかは民間銀行と付き合わないといけなくなります。だから、それらの銀行とどう付き合っていくかということがすごく大事になってきます。必要な時に民間の銀行から資金調達ができる状態を作り上げるためにも「格付け」は最も重要視すべきです。格付けのランクが低ければ融資の条件は悪くなりますし、格付けが上がれば融資を受けられる金額が増え、返済期間も長くなり、金利も低くなります。だから、「格付け」を上げることを意識しましょうということをまず言いたいです。
――この「格付け」はどうすれば上がるのでしょうか。
「格付け」の基準になるのは決算書です。もちろん、事業の未来を示す「事業計画書」も判断材料にはなるのですが、それよりも「過去の実績」である決算書の方を重視します。だから、「格付けの上がるような決算書」を作らないといけません。
一つ例をあげるなら、「節税」に熱心すぎるのは良くないという話になってきますよね。節税しようとするとどうしても利益を抑えた決算書になります。でも、これは銀行から見ると「業績が良くないのでは?」ということになってしまう。だから、節税のやりすぎは「格付け」の面ではマイナスになりがちです。
会社の決算書は税理士さんが作ることが多いですが、税理士は税金のことは知っていても銀行のことは知らないという方も多いです。だから、節税ばかりを意識した結果「格付けの上がらない決算書」を作ってしまう。
僕は会計士として銀行の監査をやっていた関係で、銀行の内部事情がわかっていますし、格付けの審査資料も見てきましたから、どのように格付けが行われているかをわかっています。それが自分の強みであり、自分の本の強みでもあると思っていて、本の中で「格付けを上げる方法」についてさらに詳しく解説しているので、ぜひ参考にしていただきたいです。
――決算書ということでいうと、経営者は財務三表のうち「損益計算書(P/L)」に目がいきがちです。ただ銀行側が見るのはそこばかりではないようですね。
確かに経営者の方は「損益計算書」ばかりを気にしがちですが、銀行の格付けにおいて重視されるのは「損益計算書」ではなく「貸借対照表」だというのは覚えておいた方がいいと思います。
「損益計算書」が何を表すかというと事業の結果です。それに対して「貸借対照表」はある時点での企業の状態を表すので、融資先の返済能力が気になる銀行側はこちらによりウエイトを置きます。
――「格付け」とも多少関係しますが、融資面などで銀行といい関係を築いていくためにどんなことが必要になりますか。
セミナーなどでお話するのは、「相手を知りましょう」ということです。
好みの異性と親しくなりたかったら趣味だとか好きな食べ物だとか、好みを聞くでしょう。それと同じで、銀行と親しくなりたかったら、銀行が何を好んで、それをどのように提供すれば喜ぶかを知らないといけません。これができている経営者の方は少ないです。
銀行といい関係を築くためのテクニカルなポイントは本の中でいくつか取り上げていて、「複数の銀行と付き合って競争原理を働かせる」「定期的に連絡をとって情報を提供し、突然融資の相談をしないようにする」などがあります。ただ、これらはいずれも「補完情報であって、あくまでも基本は「格付けをいかに上げるか」です。
――最後になりますが、飲食店経営で成功を目指す方々にアドバイスやメッセージをお願いいたします。
廃業率が高いとされる飲食業ですが、僕はこの業界から倒産をなくし、それぞれが個性を伸ばして店舗展開していけるよう支援しています。
廃業や倒産の一番の原因はやはり「お金」で、逆に夢を叶える会社は「お金に強い会社」です。この本ではそうした資金面で助けになる内容にしているのでぜひ読んでいただきたいですね。知っているか知っていないかは大きな違いです。
経営者であればどんな方でも事業に対する情熱や夢や思いがあるでしょう。でも、いくら夢や情熱があっても、お金に強くないと事業はうまくいきません。事業への思いの部分だけではなく資金繰りもしっかりできている「お金に強い会社」を作っていただきたい。そして、夢をかなえてほしいと思います。この本はその一助になると思っています。