―今日は『iPadでヨーロッパひとり旅を10倍愉しんだ私の方法』についてお話を伺えればと思います。まず、本書を執筆された動機には、一人旅をする勇気が出ない人に向けて、その楽しさを知ってほしいということがあるかと思います。中島さんが考える一人旅ならではの楽しさはどういった点にありますか?

中島「何が何でも一人旅をと、推奨する訳ではないのです。どちらかというと、旅行会社のパックツアーではなく個人旅行を楽しんで欲しいという思いが強いですね。
また、パックツアーを否定する訳でもありません。飛行機や現地移動の手段やホテルの手配が面倒な方には便利な方法だと思います。
しかしながら、インターネットがこれだけ普及し情報を享受できる時代ですから、昔は大変だったことが簡単に出来るようになっていることは見逃せません。
自分の行きたい場所へ行きたい時に滞在して、見たいものを見たい時間に見て、食べたいものを食べるという楽しみ方ができるので、活用しないのはもったいないと思うんです。人はそれぞれ趣味趣向が違うわけですから、自分だけのワガママな旅を作ればいいと思います。
個人旅行の手配は年々便利になっています。たとえば数年前に、フランスとイタリアへ行きましたが、鉄道の予約は英語やフランス語などでしか出来ませんでした。でも、今は日本語でインターネット予約ができるようになっています。
ホテルも同様で、今では多くのホテルが日本語で予約できるようになっています。
旅行会社のお仕着せではなく、あらゆるものを自分の好みに応じて選択していく旅は満足度が高いです。たとえ、泊まったホテルが思っていた以上におんぼろでも自分が選んだホテルなので、誰にも文句は言えず却って楽しむ事もできます。ここのところは本書に笑い話として詳しく書いています(笑)」
―今でこそ海外一人旅は若い世代を中心に広まっていますが、中島さんが20代の頃の旅行事情はどのようなものだったのでしょうか。
中島「私が大学生の頃、1970年代の後半ですが、海外旅行に出かける学生自体が非常に少なかったですね。クラスでも1人くらいしかいませんでした。高価で贅沢なイメージでしたから、高嶺の花という感じでしょうか。
私が生まれて初めて海外旅行へ出かけたのは、20歳の時でした。オーストラリア8日間のパックツアーでしたが、費用は33万円くらいしました。その頃の国立大学の学費一年分が30万円程、私が当時借りていた学生アパートの家賃が1万円でしたから、いかに高かったかお分かりでしょうか。
1人暮らしの貧乏学生でしたから、1年くらいアルバイトで貯金しました。ラーメンばかり食べていましたね(笑)。それくらいしないと海外なんて行けない時代でしたから、今の学生は恵まれていると思います。現在なら半分以下の金額で行けますからね。
余談ですが、学生がよく『韓国3日間29800円』といったツアーに出かけたりしているので、旅に出て何をするのかと尋ねると「美味しいものを食べる」とか「化粧品を買う」「エステをする」という答えが多くてびっくりします。
そんな旅はおばさんになってからいくらでもできるので、若い時じゃないとできないような体験をして欲しいと教師の立場からは思っています」
―海外一人旅の不安要素として挙げられるのは、言葉が通じないことや地理への不案内などが挙げられます。本書ではスマートフォンやタブレット(特にiPad)がこういった問題を軒並み解決してくれることが書かれていますが、中島さんが旅先で経験した「iPadがあってよかった!」と思ったエピソードがありましたら教えていただければと思います。
中島「役に立ったアプリのナンバー1は地図、ナンバー2は翻訳、ナンバー3はメールです。
iPadの地図アプリを使うと自分が現在どこにいるかが分かる、これがなんと言っても重宝しましたね。自分の立っている場所が地図アプリを見ると青い点で示されて、とても分かり易い。歩き出すと、その青い点も一緒に動いてくれるので、どの方向へ向かっているのか一目瞭然で分かるのは紙の地図では体験できないことです。
そして目的地まで何分かかるのか、どういうルートで行けばよいのかが瞬時に分かることも便利です。紙の地図でもじっくり見れば読み取る事ができますが、iPadの地図アプリは一瞬にして表示してくれるので、心強いナビゲーターをお伴に連れているのと同じなんです。紙の地図で見つけられない目的地をiPadの地図アプリで誘導してもらったことも何度かありましたよ。
翻訳アプリもそうですね。私は英語が恥ずかしながら本当にダメで、中学生レベルなんです。どうしても意思疎通できない場合は翻訳アプリを使いました。活躍してくれた詳細な場面については本書をお読みくださいね(笑)」
―逆に、iPadで解決しきれなかった問題などがありましたら教えていただければと思います。
中島「それはたくさんあります。やはりiPadは道具ですからね。
道具は旅の大きな助けになってくれますが、アナログなところではドジばかりやっていました。列車に乗り遅れたりして、失敗もいっぱいありました。
翻訳ソフトも便利ですが、とっさの時には間に合いません。やっぱり語学を勉強しなくてはと改めて反省しました」
―旅先でのデジタル機器とアナログの使い分けはどのようにされていましたか?
中島「旅でのiPadの活用には、地図、翻訳、ガイドブック、列車時刻表、電卓、天気予報、読書、新聞、時計、カメラ、ビデオ、映画鑑賞、音楽鑑賞などが挙げられます。本書の中ではこれらすべての使い方を書いています。
しかし、全部をデジタルに頼ると万が一iPadを紛失したりすると大変です。
もしiPadが無くなったとしたら、と考えて必要最小限のものはアナログでも持って行きました。たとえば、地図もガイドブックの付録についていた紙の地図を持参しました。時刻表もインターネットが繋がらない場合を想定して、自分が乗る列車の時刻表だけは印刷しました。他には、航空チケットやホテルの予約時に印刷した紙を最小限ですが持っていきましたね。
アナログで思い出したのですが、最近国内旅行でもスマホやiPadを持って行く人が多くなりましたよね。でも、特に若い人で、旅先でメールやSNSをしてばかりで、せっかくの景色を見ていなかったり、一緒に出かけているメンバーと会話をしていなかったりという姿を時々見かけます。あれでは、いったい何の為の機器なんだと、とても残念に思います。デジタル機器は人を幸せにするべきものであると目的から外れていると思うのです。
先日も出張へ行き、ホテルのレストランで朝食を食べたのですが、30代くらいの夫婦が向かい合って朝食を食べていました。でも旦那様はテーブルの上にiPadを置いて、メールを読んでいるのです。奥さんは仕方なく、黙々と食べていました。そんな風景をこのごろよく見かけるようになって、「この使い方は違うな」と非常に残念に感じています。まずはアナログで生活を楽しむこと、デジタルは補助的なものなんですよ。どうもその辺がおかしくなってきていることを危惧しています」
―50代以上の層が海外一人旅をする際に気をつけるべき点はどういったことだとお考えですか?
中島「若いときと比べて劣るのは、体力くらいじゃないでしょうか?
これまでの人生経験から、いろんなリスクに対応する力は若い頃よりあると思うので、それほど心配しなくても良いと思うんです。
50代以上も若い人も同じですが、気をつけるとすれば、日本人だとお金をたくさん持っているという先入観があり、狙われやすいという点ですね。スリに遭ったり、置き引きに遭ったりするという話はよく聞きます。日本のように安全な国はなかなか無いと思った方がいいのでしょうね。
iPadやスマホもまだまだ高級品のイメージが強いですから、必要以上に人前では出さない方が良いようです」
―50代以上の方には、海外一人旅以上に、タブレット・スマホの扱いに不安を感じる人も多いかと思われます。こういった“初心者”の方々が、iPadやスマートフォンを使いこなせるようになるために、まずどんなことから始めるべきだとお考えですか?
中島「普段まったく使っていないのに、いきなり海外一人旅で使うのは無謀なので、日常で使えるようになってから旅に出かけてくださいね。
パソコンもそうですが、操作していて壊れたりはしませんので、慣れるためにはとにかく触る事です。iPadでもスマホでも構いませんが、まずはメールを送ることや、インターネット閲覧をしてみることから始められてはいかがでしょう。慣れてきたら、興味のあるアプリをダウンロードして使っていると手放せない道具になると思いますよ。
ただ、使ってみて「これは役に立つ」「面白い」という感覚が無ければ必要ないかもしれません。無理して使う事もないと思います。
私はiPhoneが発売された2007年に携帯電話から乗り換えましたが、一度スマホを使うと携帯電話にはもう戻れませんね。それは人それぞれではないでしょうか。みんなが使っているからという理由で無理矢理買う必要はないです」
―中島さんが旅した場所の中で、最も印象的な国や地域はどこですか?
中島「そうですねー。これまで19カ国へ行きましたが、一つだけ挙げるとすると、13年前に行ったロスアンジェルスです。
私事ですが、その時の我が家は大変なことになっていました。主人の父が経営していた会社が倒産し、そこで役員として勤めていた主人も職を失い、会社の株を買っていた借金だけが残り、住んでいた芦屋のマンションも退去という私の人生の中で最もどん底に落ちていた時です。
その時、何を思ったか、なけなしのお金をはたいて娘と息子と私で超貧乏旅行に出かけたのです。
寒い日本の冬を脱出して、ロスアンジェルスの抜けるような青い空を見上げ、陽気な人々と出会い、活気溢れる街を歩いて心の底から元気になりました。とにかくお金を持っていなかったのでろくな物を食べませんでしたが、思いっきり笑い転げました。
それで、文字通り財布はすっからかんになってしまったのですが(笑)、パワーチャージして「よーし!なんでもできるぞ!」と再生できました。今でもあの選択は間違ってなかったと思っています。私にとって旅は人生にとって必要な栄養剤のようだ、とその時感じましたね」
―海外一人旅をより充実させるためのコツがありましたら教えていただければと思います。
中島「コツというほどのこともないですが、下調べに尽きるのではないでしょうか。
訪問先の文化や歴史などを知っておくと旅の面白さが倍増すると思います。
例えば、ストーンヘンジに行くとします。有名だから、みんなが行くからという動機だけで行くには面白くない。なぜあんな所に、いつ誰がなんのために建造しようと思ったのか?どんな技術で建てたのか?など興味をもったら、できる限りのことを本で調べて行くと、現地で実際に見た時の感動は更に増すと思います。
パックツアーで行くとガイドさんがこのような事を全部説明してくれますが、人から教えて貰った事はすぐ忘れます。自分で調べると更にいろいろな知識欲が沸き起こり、人生をもっと幅広く楽しめるのではないでしょうか」
― 一人旅に関心はあるものの、実際に行く勇気が出ないという方々に向けてメッセージをお願いできればと思います。

中島「私も毎回1人で旅に出ている訳ではありません。家族や夫婦、友人と出かける事もあります。
只、どうしてもお互いの休みが合わない時や、行きたい場所が違っていたら一人旅をするという選択もあり、ということです。
インターネットとiPadがあったからこそ、私も長い一人旅を実行する事ができたと思います。長期で1人というのは今回が初めてでしたし、iPadが出現していなければおそらく長期では行かなかったと思います。メールやスカイプですぐそばに家族が繋がっているという実感もあるので、隔たりを感じないということもありましたね。
また、1人旅をしていて残念なのは、景色や体験をその場で共有することができないからだと思うのです。それがiPadによっていつでも共有しようと思えばできるようになったことも大きいです。
一人旅に出ると、考える時間がたっぷりできます。日本を離れて客観的にこれまでの自分の仕事や家庭をじっくりと見つめ直す機会にもなります。帰国したら、ありふれた自分の日常の景色がまた違って見えるかもしれません。ぜひ、一人旅を愉しんでいらしてください。
出かけるときは、私の本を忘れずに!忘れたときは、出かけずに!このキャッチコピーの分かる方は50代以上の方ですよね(笑)」

池坊短期大学准教授
1978年 愛媛県立今治西高等学校卒業。
1982年 大阪教育大学教育学部卒業。
コンピュータには全く無縁の学生時代を過ごし、卒業後は在阪テレビ局で1年間勤めメディア発信の面白さに触れる。
専業主婦のブランク後、IT業界では遅まきながら40歳よりフリーランスでWebサイト制作、Webマーケティングに携わる。
企画や制作で関わった企業(個人も含む)は100社以上に及ぶ。
2007年より企業研修講師、神戸山手短期大学非常勤講師を経て2012年より現職。
インターネットや映像を使って、独創的な情報発信力を持った人材の育成に取り組んでいる。