―まず『「ゴミ」を知れば経済がわかる』というタイトルが何を意味しているのかをお聞きできればと思います。
瀬戸「なにを「ゴミ」としているかで、その国の経済がわかる、ということを意味しています。同僚と働く、家族と過ごす、友人と遊ぶ、そんな日々の暮らしの中で、ゴミは生まれます。ゴミとは経済活動の結果そのものです。
でも、絶対的な「ゴミ」というものはなかなかありません。ある人が「いらない」と言ったものを、別の人が「いる」というケースはよくあります。私は、日本でブランド家具や買ったばかりの薄型テレビ・ドラム式洗濯機などが不用品として扱われる姿を見てきました。これは極端な例としても、引っかき傷の付いたタンスや、コーヒーで汚れたソファは、日本の中古市場では価値を持ちません。
つまり、日本はまだ使えるものを「ゴミ」だとする経済というわけです。その善悪を問うつもりはありません。私たちが豊かな暮らしをおくれるのは、この経済のおかげでしたから。しかし、今の日本に住む多くの人が、この経済に行き詰まりを感じていることと思います。
一方、私が歩いて回った東南アジアの国々は、私たちが「ゴミ」だと思うものに多くの可能性を見出していました。フィリピンでは日本の中古家具がブランド品として扱われていましたし、タイではゴミの埋め立て地からプラスチックを採掘して、ふたたび燃料にする工場が建設されていました。こうした視点に、日本経済を生まれ変わらせるヒントがあるのではないでしょうか。
私たちが「ゴミ」だと思っているものが、実は「可能性の種」、資源だということを知れば、新しい経済がわかるのではないか。そんな思いをこのタイトルに込めています」
―瀬戸さんがゴミと深く関わるようになったきっかけを教えていただきたいです。
瀬戸「はじめから「ゴミ」にこだわりがあったわけではありません。高校時代に環境問題に興味を持つようになって、大学は長崎大学の環境科学部を選びました。卒業後は、不用品のリユース・リサイクルを行う環境ビジネスの会社と出会い、そこで広報として5年間働きました。
独立して作家になろうとした時、振り返ってみると「ゴミ」にずっと携わってきたことに気づいたんです。東南アジアを旅しながらリサイクルの現場を訪れたり、東北の被災地支援をしながらガレキ処理を取材し続けたのは、「ゴミ」の世界をさらに深めようとした結果です」
―本書を書くにあたって、さまざまな国を巡ってこられた瀬戸さんですが、東南アジアや東北の被災地のリサイクル事情を取材しての感想をお聞かせ願えればと思います。
瀬戸「ふつう「ゴミ」「リサイクル」と聞くと、“分別をしっかりしなさい”“ポイ捨てをしてはいけません”というように、あまり元気の出ることを連想しないと思うんです。でも、私が訪れたところでは、ワクワクするリサイクルを実現していました。
例えば、東ティモールでは、トウモロコシの芯やココナツの殻などを燃料にできる調理用コンロが使われ始めていました。このコンロは、燃焼効率を高める工夫が施されていて、青い炎で燃えるようになっています。燃料代が大きく節約でき、貧困層の暮らしを劇的に変えるコンロです。
また、インドネシアのある村は、ゴミの分別を徹底して、空き缶やペットボトルなどを資源業者に売却したり、生ゴミをコンポスト化して収益を得ています。さらに、このリサイクルの取組自体を観光資源にして、各地からの視察を受け入れる、そんなエコツーリズムをしています。
東日本大震災で被災した石巻では、子どもたちがガレキから素敵なおもちゃをつくっていました。この作品は、イタリアの博物館に招待され、展覧会が行われたほどです。
このように、厳しい環境にあっても、今あるものを使って、より良い明日をつくっていけるんです。そんな人々の生きる力に感動を覚えましたし、可能性を見つけ、拡げていくことに面白さを感じました」
―本書で紹介されている東南アジアのゴミ事情とその活用法は、国によって本当にさまざまでした。瀬戸さんが見て回った国の中で最も印象に残ったゴミの活用法はどのようなものでしたか?
瀬戸「たくさんありますが、強いて挙げるならば、ベトナムのリサイクル村です。ここでは、ゴミで“産業革命”をしていました。
ズオンオ村は、もともと貧しい農村だったのですが、今では3階建ての立派な“リサイクル御殿”が建ち並び、道には高級車が走るようになっています。それは、都市部から段ボールを回収してきて、それを原料にトイレットペーパーをつくり、都市部に販売する、という仕組みをつくったからです。ある家では、庭に工場を建てて大規模に。またある家では、玄関先に小さな製紙機械を置いて小規模に。ほとんどすべての家庭が、“再生紙製造業”なんです。350世帯の村で、毎年9億円規模の売上をあげていました。
再資源化の工程で出る環境汚染や健康被害など、良いことづくめではありませんが、ゴミを使ってビジネスを成功させた事例として、とても印象的でした」
―本書には、東南アジアの例を中心に、ゴミを再活用することによってビジネスが生まれ、お金が動くというケースが数多く紹介されていました。日本でもゴミの再利用の取り組み自体はされていますが、ビジネスという切り口で見るともっとやれることはあるのではないかという印象を持ちました。こうしたビジネスについて、何かアイデアがありましたら教えていただけませんか。
瀬戸「私はリサイクルとBOPビジネスとを組み合わせたらどうかと思っています。BOPビジネスとは、世界の貧困層に向けた商売のことです。1日200円以下の暮らしをしている人々は、世界に26億人いると言われています。彼らは“最貧困”という扱いですが、まったく現金を持たないわけではありません。彼らの生活をより良くする製品を作り、50円で販売したとするとどうでしょうか。20億人が買えば1,000億円の売上になります。
本書では、フィリピンのスラムで1万世帯以上に利用されている“ペットボトルランプ”などを紹介しています。これは、水と漂白剤を入れたペットボトルを天井に差し込み、太陽光を乱反射させることで、窓のない部屋でも日中、明かりの下で過ごせるというものです。
貧困層向けの製品は限りなく安く作り、流通させなければなりません。そのためには、たくさんあるゴミを使うことが、コスト削減の大きな一手ではないでしょうか。例えば、貿易に使う梱包材を使って家具を作る、トイレを作る、水の浄化設備を作るなどということができればどうでしょう。輸送費をかけずに、廃材をリサイクルしながら、貧困層の人々を救い、さらに売上を得ることができます」
―本書からは不用とされたものを再び生かすことの重要性を読み取ることができます。これを日本に当てはめた場合、私たちにはどんなことができるのでしょうか。 個人の取り組みという観点と、社会全体での取り組みという観点、両方をお聞きしたいと思います。
瀬戸「個人でできることは、“不用品で楽しむ”ことではないでしょうか。おそらく誰しもが、引き出しの中や、押し入れの奥、部屋の隅に、もう使わない物が眠っていると思います。それは、フリーマーケットや交換会などで、喜んでもらう誰かに渡すことができます。あるいは、手芸・工芸を習ってリメイクすることだってできるでしょう。手間を少しでもかけることで、《ものづきあい》が変わります。
社会全体では、“もう一つの機能”を付けた製品作りをしてはどうでしょうか。例えば、ペットボトルや缶・段ボールなどの表面に、印字しておくのです。いざというときに、経口補水液を作る方法、ランタンを作る方法、トイレを作る方法などを、です。災害大国の日本では、いますぐにでもこの場所で震災が起きる可能性があります。そうした時、身近にある「ゴミ」、空き缶やペットボトルなどを活用できれば、生きのびる確率が上がります。不用品を生かすことによって、私たちは生かされるでしょう」
―人間活動が生み出す、あまりにも膨大な量のゴミや廃棄物を目の当たりにしたことで、“大量生産大量消費”という社会のスタイルに対して疑問を持った、ということはありましたか?
瀬戸「疑問は持ちますが、今すぐにやめるべきとも、やめることができるとも思いません。前提として、私たちは“大量生産大量消費”の恩恵を大いに受けています。たぶん、いまの日本は、人類史上最も豊かな社会の一つでしょう。すぐに切り替わることは難しい。ですから、ゴミをゴミにせずとも、人々が豊かになれる経済を、100年か200年後につくるとして、そのために今はどうすべきか、という視点が重要だと思います」
―日本では現在、震災ガレキの受け入れが問題となっています。この件について何か考えていることがありましたらお聞かせ願えればと思います。
瀬戸「まず一言。全ての震災ガレキが放射性廃棄物というわけではありません。
震災ガレキというのは、もともとは家や学校や公園といった、“町のカケラ”でした。悼むべきものですが、忌むべきものではありません。見方を変えれば木材や金属の宝庫です。ですから、バイオマスや資源として活用することが重要だと考えています。
東日本大震災の激烈な被害は、世界から大きな注目を浴びました。この被害からすばやく立ち直ると主に、災害廃棄物をきちんとリサイクルして魅せることは、世界に日本の技術をPRするまたとないチャンスではないでしょうか」
―瀬戸さんが本書を通して伝えたかったことはどのようなことだったのでしょうか。
瀬戸「ゴミだと思っていたものを、「可能性の種」だと見直すことができれば、もっとワクワクする世界が創れる、ということです」
―最後に、読者の方々にメッセージをお願いします。
瀬戸「この本には、新しいビジネスや、地域活性や、環境教育へのヒントが詰まっています。ぜひ、明日の行動に繋げてください。ご要望を頂ければ、私もできる限りのお手伝いをいたします」
ジャーナリスト・作家。1983年生まれ。神奈川県川崎市出身。神奈川総合高等学校・長崎大学卒業。長崎では「諫早湾干拓」の現場から環境問題を学ぶ。大学時代に、マウンテンバイクで日本を横断、また、ドイツ・フランスを訪れて、ゴミ処理について学ぶ。大学卒業後、都内の物流会社に就職。リユースビジネス「エコランド」の広報を担当し、webマーケティング、イベント、ブランディング、広告プロモーション、PRなどの業務を手がける。同サービスは2009年にグッドデサイン賞を受賞した。実際に不用品回収作業も行い、生活ゴミでベッドが埋まるような「ゴミ屋敷」現場をも体験する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)