目次情報
パート1 日常のなかの非合理
- 1 頭はこう計算する
一〇〇〇円がいつも一〇〇〇円とはかぎらない
選択肢が多いほど混乱する
プラス面に注意を向けるか、マイナス面に注意を向けるか - 2 矛盾した結論を出す
客の気持を惑わす
三つあると真ん中を選ぶ
何が迷いを生じさせるか - 3 錯覚、罠、呪い
優先順位がひっくり返る
非合理は高くつく
自分のものになると値が上が
現状は維持したい
払ったからには参加しなきゃ損
競りに勝っても喜べない--「勝者の呪い
数値の暗示に引っかかる--「アンカリング効果」 - 4 「先入観」という魔物
私たちの頭は当てにならない
だれもが持つ錯覚
非合理だからこそ人間なのだ - 5 見方によっては得
問題の提示の仕方が判断を決め
イメージに左右される
死亡率より生存率で - 6 どうして損ばかりしているの
雨の日のタクシーはどうして早々と引きあげるの
得している株は売り、損している株は手放さない
してしまったことを後悔するか、しなかったことを後悔するか - 7 お金についての錯覚
実収入か額面か
自分の給料より同僚の給料のほうが気になる
一〇〇万円得した喜びより、一〇〇万円損したショックのほうがはるかに大きい パート2 自分自身を知れ
- 8 リスクの感じ方はこんなに違う
つじつまの合わない答えを出す
数字を情緒で判断する
「一%」と「一〇〇人に一人」の違い
中身を多く見せたいとき、カップは小さいほうがいい? - 9 リスクとの駆け引き
相対的リスクと絶対的リスク
統計に表れた数字が読めない - 10 知ってるつもり
プロになるほど過信する
自信過剰がはめる罠
成功すると自分のため、失敗すると他人のせ
自分に都合のいい面だけを見たがる - 11 経験がじゃまをする
「そうなるはず」という思いこみ
結果よりプロセスに目を向ける - 12 投資の心理学
リスクを加味してリスクを減ら
近過去から近未来を占う
なじみの企業に投資したがる悪い癖
事情に明るいほどうまい投資ができるという錯覚
売買がはげしいと損をする - 13 将来を読む
読みを誤る
前と後で判断が異なる - パート3 判断するのは感情か理性か
- 14 人が相手の損得ゲーム
対立作戦ゲーム
協同作戦ゲーム
理論と実際の違い - 15 怒れるニューロン
脳が苦汁を飲むとき
相手の頭のなかを読む
復讐は何よりも快楽のため - 16 心を読むミラーゲーム
神経生物学から見たお金のゲーム
共感の生み親はミラー・ニューロン
倫理的判断とニューロンの役割 - 17 理性より感情がものを言
理性には限界がある
感情は不可欠なサポーター
セミとアリとハトの教訓 - 18 人間的な、あまりにも人間的なわれわれの脳
のさばるのは感情
神経経済学から見た日ごろの常識
ニューロンが生むプラシーボ効果とフレーミング効果 - おしまい
怠け者の経済学
感情のシステムと理性のシステム
エラーを解剖してみれば
自分の限界を知る
本書では「行動経済学」という経済学の中でも比較的新しい一分野を、具体例を用いながら、分かりやすく解説している。そこは『はじめての行動経済学』という副題の通りである。
「行動経済学がどういう学問か」については別記の解説を参照して頂きたいので詳しいことは割愛するが、無理やり簡潔に説明してしまうと、経済学と心理学、生理学が融合した学問であると言うことができるだろう。
さて、本書を読み進めていくと、ここであげられている様々な具体的な意思決定のシーンが、自分の生活と重なることが多いことに気付く。以下の設問について考えて欲しい。
【1】1万円の有名交響楽団のコンサート前売りチケットを買ったが、会場の入り口でそれを紛失していることに気付いた。あなたはチケットを買い直すか?
さて、どうだろうか。私だったら、またチケットを買う気にはなれなくなっているだろう。 では、こちらならどうだろう。
【2】有名交響楽団のコンサートを見ようと、会場の入り口の窓口で1万円の当日券を求めた。ところが、ポケットに入れておいた1万円がなくなっていることに気付いた。あなたはチケットを買うか?
この2つの設問は本書の20ページで説明されているものを引用させてもらっている。尚、本書であげられている設問は「コンサート」ではなく「オペラ」だが、「オペラ」は日本人にとってはあまり馴染みがないと思うので、「コンサート」に置き換えさせて頂いた。
実は、この2つ、どちらも「1万円の価値があるものを紛失している」という意味では、損失額は同じである。しかし、【1】で買いなおすと答える人は少なく、逆に【2】で買うと答える人が多くなるという。
それは何故か。このケースの場合、前者は1万円が娯楽代金への上乗せとして価値が認識されるため、買い直す人も少なくなる。詳しく言うと、先に紛失した1万円は既に娯楽代としてペイされている認識がある。そして、2枚目のチケットはそれに上乗せするように感じられるため、「娯楽代に2万円も払うなら・・・」という意識になり、買い直すことをためらってしまうというのだ。ポケットの中からなくした1万円は娯楽代という認識ではないため、チケットを買うと答えた人が多くなる。
これは本書の入り口であるが、こうした設問が続いており、それに答えながら行動経済学とはどういうものかをつかんでいくことが出来る。
カジュアルな表紙に騙されてはいけない。本書は立派な学術書だ。時折、難しい用語も出てくるが、難しさに怖れてはいけない。読み終えた頃には、きっと行動経済学の虜になっているに違いない。
イギリスの哲学者であるアダム・スミスが経済学を定義して以来、経済学を考える上の人間のモデルとなってきたのが「経済人」である。この人間モデルは「ホモ・エコノミクス」とも呼ばれ、自己利益を極大化することを唯一の行動基準であり、常に完璧な合理的決定を下すと設定されている。
近代経済学はこの「経済人」の行動モデルを前提として発展を遂げてきた。しかし、実際のところ、人間は完全な合理的に意思決定を下しているとは限らず、「経済人」だけでは説明できない現象も多々あった。そうした「経済人」という行動モデルへの批判の中で誕生したのが、この「行動経済学」という学問分野である。
行動経済学において最も著名な研究者はダニエル・カーネマンというアメリカの心理学者だ。カーネマンは、現実の人間は必ずしも合理的な意思決定をしないことを心理実験によって実証し、「プロスペクト理論」を提唱。2002年には「心理学的研究を経済学に導入した」という功績が認められ、ノーベル経済学賞を受賞している。