
スキルアップに励んでいるのに、なかなか成果が出ない。どうして努力が結果に結びつかないのだろう。そんな風に思っているビジネスパーソンは少なくないのではないか。 『できる人は満員電車に乗らない』の著者・松尾昭仁さんは、書籍の中で報われない努力をやめて、最小の労力で最大の効果を出す方法を伝授する。では、どうして私たちは「報われない努力」をしてしまうのか? そして報われる努力とはどのようなものなのか? 松尾さんにインタビューを行った。
■みんなと同じことをしても成功はできない
―まず、非常にインパクトのある書籍名ですよね。この「できる人は満員電車に乗らない」というタイトルにどのような意味を込められたのでしょうか。
「これは私がサラリーマン時代に先輩から教わった言葉ですね。当時、満員電車に乗ってヘトヘトになって会社に出勤する毎日をおくっていたのですが、やっぱり耐えられないんですよ。それで、仕事がすごくできる先輩に愚痴を言ったわけです。毎日の満員電車、本当にかったるいですよね、と。 そうしたら、『お前、何を言っているんだ。俺は満員電車乗らないよ』と。話を聞いてみたら船橋に住んでいるというので、普通に考えれば満員電車に乗らないと日本橋にある会社までは来ることができないはずなんですよ。何が違うのかと聞いてみると、『ギリギリまで寝ているから満員電車に乗らないといけなくなるんだよ』と言うわけです。そこで初めて気づいたんですね。満員電車に乗らないと会社に行けないと思い込んでいたと。 起業してあとに分かったのですが、仕事ができる人ほど満員電車には乗りません。いろいろと工夫をしているんです。結局思い込みなんですよ。あともう1つが満員電車って聞くとネガティブなイメージを思い起こしますよね」
―そうですね。サラリーマンの悲哀というか…。
「そうでしょう。私から見ると、満員電車に乗って頑張って仕事に行こうという人は、努力というか気合いの入れどころが違う気がしますね。 そもそも仕事を本気でやろうと思えば、会社の近くに住むのが一番良いんですよ。仕事に打ち込むわけですから、家は寝るだけになるけれど、それくらいであれば都心でも5万円程度の家賃の部屋はありますよね。そう考えることを放棄しているんじゃないか、そう思うんです。 だから、仕事ができる人は満員電車に乗らなくてもいい方法を考えるんです。私が独立した理由はまさしくそれで、満員電車に乗りたくないからですよ(笑)」
―なるほど。ただ、満員電車に乗りたくないというだけの理由であれば、会社を辞めるというところまではいかないと思います。松尾さんがそこで独立をしたモチベーションはどのようなものだったのでしょうか。
「そのときにやりたくないことをあぶりだして、それをしないためにはどうすればいいのか考えたところ、独立しかなかったんです。満員電車に乗りたくなかったことと、もうひとつ、私が尊敬できない上司や理不尽なお客さんからいろいろ言われるのがたえられなかったんですよ。そうしたことを避けるためには、自分で商売を興こすしか選択がなかったんです。 サラリーマン時代、何度も嫌な思いをしましたよ。もちろんそれは私自身が甘かった部分もたくさんありますが、会社で泣きながら残業していたら、上司に『お前、何で泣いているの?ここは学校じゃないんだよ』とひと言投げかけられ、お前が理不尽で嫌だと思ったことを排除するためには独立して社長になるか、この会社で出世するしかないんだ、と言われたんです」
―厳しい言葉ですが、そういった言葉を投げかけてくれるのは、すごく良い上司ですね。
「そうですよね。今でもその上司は尊敬しています。ただ、私はその会社で出世できるまで待てるほど我慢強くないので独立をしました」
―本書のテーマの一つは、報われない努力はもうやめようということだと思います。ただ、それぞれ努力はしているわけで、それが報われないのはどうしてなのでしょうか。
「それは努力の方向性、ベクトルが間違えているからでしょう。。資格試験にもブームがあったりしますが、まさしくそれが典型的な例で、みんな同じものを勉強しても結局はその中の戦いになるわけじゃないですか」
―いわゆる、レッドオーシャンですよね。小さな枠の中で競争が激しくなる。
「そうなんです。だからみんな英語を勉強している中で、一人だけ別のマイナーな語学を勉強するというのもありだと思います。みんなと違うことをすることで、もしかしたら仕事で生きるかも知れない」
―ほかに松尾さんの中で、これは報われない努力だなと思うものはなんですか?
「勉強のための勉強、いわゆる、資格取得のための勉強です。定年までサラリーマンでいようと思っているのに、社会保険労務士を取ったり、行政書士の勉強をしたりする。でも結局、一番大切なのはそれを何に使うのかということなんですよ。その資格を生かす気がないとして、誰の役に立たせるのか不明瞭だと意味がありません。まさに自己満足でしかない。確かに、たくさん資格を持っていると周囲からすごいと言われますが、心の中では『ちゃんと仕事しているのかな?』と思われていますよ」
■努力や勉強が報われるものか見極めるためには?
―今、自分がしている努力や勉強が報われるものであるか、そうではないものであるか。これを見極めるためにはどうすればいいのでしょうか。
「その勉強が自分の仕事の役に立っているかどうかですね。社会人の本分は、働くことです。だから、仕事をしないといけないんです。学んだことをアウトプットしてビジネスに活かさない限りは、成果として表れません。例えばフランス語を学んでも、使う機会がなければ意味はないですよね。フランスとの貿易の仕事をするとか。そういった形で技術をフルで生かせるようにならないと時間の無駄とも言えますよ。アウトプットを生み出さない努力は努力じゃないですよ」
―今、している努力が自分に生きるかどうか、判断するための方法を教えていただけますか?
「一度どこかで自分を冷静に見つめてみるのがいいでしょうね。その努力が今の仕事の為になっているか、お客さんの為になっているかどうか。もし、何の為にもなっていなかったら勇気を出して撤退してください。始めるとズルズルと続けてしまう人も多いと思いますが、誰のためにもなっていないのであればすぐにやめるべきです」
―松尾さんご自身の中で、最も力を注いだ努力はなんですか?
「いろいろ努力はしましたが、やはり文字を書くこと。文章力を上げることですね。特にサラリーマンは報告書や提案書を書く機会が多いですし、このネット時代ですから、外向けに文章を発信することもありますよね」
―文章力をつけるために、具体的にしたことを教えていただけますか?
「とにかく書き続けることです。たくさん書くことが大事です。また、ここで大事なのがその文章を不特定の第三者に見せることです。今ならフェイスブックやツイッター、ブログがありますから、そういったところに掲載する。そうすると変な文章をアップできないですよね」
―そうしたことが、こうした出版にもつながっていくわけですよね。
「そうなんですよ。あと、何より大事なのが批判を恐れないこと。自分の文章や 主張を発信するということは同時に批判が来る可能性もあります。でも、全員に好かれる文章なんてありませんよね。だから、批判されてもかまわないという姿勢を取ることです。よく考えてみれば、批判される人と批判する人、どちらが影響力あるかというと批判される人ですよね。」
―確かにそうですね。本書のタイトルの『できる人は満員電車に乗らない』も賛否両論あがりそうです。私自身はこの『できる人は満員電車に乗らない』というタイトルを見て、自分だけ満員電車に乗らなくても大丈夫かなという怖さがあるんですよ。
「そう思う人も多いでしょうね。でも、成功者は少数派なんですよ。人と違うことをする勇気がある。人と同じことをすれば、その何倍も努力しないといけませんが、実は人と違うことであれば努力は少なくてすんだりするのです」
―本書の中で、これは是非やって欲しいというものはありますか?
「一番は『主語をIからYOUに変えてみる』こと。主語を『I』にして自分の主張ばかりすると、相手は『お前のために俺は生きているわけじゃない』と思うんですよ。だから、相手のことを考えて、相手が喜ぶ行動を取るのです。自分のことを大事にする人を嫌いになる人なんていないですよね。だから自分じゃなくて、あなたを主義においてどうすれば相手が喜んでくれるのか考えると、最終的に自分に返ってくるんですよ」
―本書をどのような方に読んで欲しいと思いますか?
「頑張っているけれど、いまいち報われないなと思っている人ですね。どうして自分が空回りしているのか、この本を読んで自分の努力のどの部分が的外れだったのか考えてみると良いと思います。報われない努力は勇気を出してやめることが大切で、努力が報われるという小さな成功体験を積み重ねていくことが重要だと思います。成功者は成功体験をどんどん積み上げていっているから、常に発展途中なんですよ」
―つまり、成功には完成形がないということですね。
「そうなんです。成功者はどんどん次のことを考えて、広げていきます。上手く努力をしている人は、努力をやめないんですよ」
―では最後に、インタビュー読者の皆さんにメッセージをお願いします。
「『新刊JP』を見ている方々は非常に勤勉で頑張っている人たちだと思います。でも、どうせ頑張るのであれば、報われる努力をしましょう。この本がそのきっかけになったらいいなと思います」
(記事/金井元貴)

ネクストサービス株式会社 代表取締役
起業コンサルタント(セルフブランディングの専門家)
セミナープロデューサー(自主開催セミナーの専門家)
その他大勢から抜け出したい、士業・各種コンサルタント・起業家をトータルで支援する戦略プロデューサー兼コンサルタント。
自身が企画し講師を務めるビジネスセミナーは毎回満員御礼。参加者は延べ5,000名を超え、その中から100名以上のセミナー講師や20名を超えるビジネス書の著者を世に送り出すなど、即効性のあるノウハウと指導法、実績が高く評価されクライアント希望者が後を絶たない。また東京商工会議所を初めとする各種団体やリクルート社、明治安田生命などの民間企業より講演・セミナー・研修依頼を受ける人気講師であり、日本経済新聞や日刊ゲンダイ、週刊SPA!などメディアからの取材も多い起業家である。
著作は『誰にでもできる「 セミナー講師」になって稼ぐ法』(同文館出版)、『「その他大勢」から一瞬で抜け出す技術』(日本実業出版)、『「稼ぐ力」が身につく大人の勉強法』(ダイヤモンド社)、『絶対の自信をつくる3分間トレーニング』(あさ出版)、『セミナー講師で稼ぎたいと思ったら読む本』(中経出版)など10冊を数える。