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憲法って、どこにあるの? みんなの疑問から学ぶ日本国憲法

解説

常識なはずなのに勘違いしがちな日本国憲法にまつわる5つの事柄

宮崎謙介前衆院議員の不倫騒動であったり、舛添要一東京都知事の政治資金不正流用疑惑であったり、政治の話題で記憶に残るのは政治家の「醜聞」ばかり。

たとえば日本では今、憲法改正の議論が続いているのに、スキャンダルによって重要なはずの議論が霞んでしまっている印象すら受けます。でも、同時に憲法は「分かりにくいもの」。そういったものに人々が興味を抱くことは難しいのかもしれません。

大阪国際大学准教授の谷口真由美さんによる『憲法って、どこにあるの? みんなの疑問から学ぶ日本国憲法』(集英社刊)は日本国憲法や法律の基礎や面白さを、疑問に答えるという形で、身近な例を用いながら分かりやすく説明します。
ここでは、本書を参考に「日本国憲法について勘違いしやすい」5つのことをご紹介していきます。

1、「憲法を尊重し守るのは国民」ではない。

99条には次のように書かれています。
「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」
実は憲法は「国民」が守るものではなく、国家に従事する人たちが守るもの。国家権力を制限し、国民の権利を保障する存在が憲法です。

2、「憲法は9条で終わり」ではない

著者の谷口さんが講演会で客席に「憲法は何条までありますか?」と聞くと、意外にも「9条まで」という声が返ってくるそうです。
憲法9条改正の議論が尽きないなかで、「憲法=9条」と覚えてしまっても仕方のないことなのかもしれません。ちなみに答えは103条。ただし100条から103条は補則になるので、実質的には99条になります。

3、「民主主義=多数決」ではない

政治家は私たちの投票で決まります。それはいわば、「多数決の原理」に則っているということになります。ただ、そうなると常に多数派の意思ばかりで世の中が進むことになってしまいますよね。
民主主義の大きな役割の一つは、少数派も意見を表明でき、それを社会に届けさせることができること。憲法21条1項の「表現の自由」は、多様性を保障する役割を持ちます。その小さな意見が広がり、後にその決定がひっくり返ることもあるのです。
民主主義だからといって多数決が絶対ではありません。常に声をあげることが大事といえます。

4、「大人になれば誰でも国会議員に立候補できる」とも限らない

今の日本では、18歳以上の国民に選挙権を認めています。しかし、議員に立候補できるのはもう少し経ってから。衆議院議員、都道府県議会議員、市区町村議会議員、市町村長の被選挙権は満25歳以上、参議院議員、都道府県知事の被選挙権は満30歳以上と定められています。
それでも、その年齢を満たせばどんな人でも政治家に立候補できるはず…というわけではなく、立候補には選挙管理委員会等に寄託する「供託金」が必要です。その額、国会議員や都道府県知事の立候補が300万円、衆議院・参議院の比例代表選挙では600万円。政治家になって世の中を変えたい!と思っても、お金がなければ立候補することができないのです。世知辛い…。

5、「日本国民と日本人は同じ意味」ではない

「日本人」と「日本国民」は同じ意味のようにも思えます。しかし、そうではありません。憲法10条では「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」としており、それ以上「日本国民」の定義については触れていません。
「日本国民」を規定しているのは「国籍法」という法律で、日本国民たるための明確な定義があります。一方で「日本人」は明確な定義がなく、使う人によって範囲も様々。著者の谷口さんは「ある意味で民族というものに近い感覚で使ってはいないでしょうか?」とつづっています。

憲法や法律は私たちの生活に強く影響を及ぼしています。私たちが幸福を追求できるのも、嫌な気持ちになったときに自分の意見を主張できるのも、これらがあるからです。

選挙権が18歳以上に引き下げられるなど、何かと政治が話題になっているこの際に憲法について知っておいてみてはいかがでしょうか。

(新刊JP編集部)

インタビュー

大阪大学で「日本国憲法」講義が大人気 「恋愛相談」受ける担当講師の狙い

2016年7月10日の参議院議員選挙において「改憲」は一つの争点となりましたが、その結果、与党が圧勝。今後「改憲」についての議論はさらに活発化していくはずです。

しかし、私たちはどれだけ憲法について知っているでしょうか?
憲法を改正することのメリット、デメリットについてちゃんと説明できるでしょうか?

憲法って、どこにあるの? みんなの疑問から学ぶ日本国憲法』(集英社刊)の著者であり、大阪国際大学准教授の谷口真由美さんは憲法を知らないままでいる日本国民に対して警鐘を鳴らします。

恋愛相談からの憲法講義! 「DJマユミ」による憲法への誘い

―― 「改憲」は今、日本が抱える重大なトピックです。最近ではマンガ週刊誌『ビッグコミックスピリッツ』が憲法を付録にしたり、自治体でも憲法を冊子にして無料で配布しているところがあったりと、憲法を読むきっかけや機会は増えていますが、その一方で、おそらく「憲法」そのものを自らすすんで読む人は少ないでしょう。なので、こういったビジネス書の体裁で憲法を面白く解説する本が出ることは重要なことだと思いました。

谷口真由美さん写真

谷口:ありがとうございます。ビジネス書の体裁で憲法に関する本を出せたのは、集英社の編集者さんのお力があってのものなんですけど、普段はアカデミックな世界という、ビジネスからかけ離れたところにいるものだから、驚きですよね。
しかも私は文系のそれも法学の中の、憲法や国際法を専門としているので、企業から助成金をもらって研究することがほとんどありません。だから、「ビジネス書から何を出せばいいんですか!?」っていうのが最初の印象でした。ただ、「ビジネス書は、世の中の分かりにくいことを少しでも分かりやすくして説明するという基本的な機能がある」というお話を聞いて、なるほど、と。

―― そういった経緯で、ビジネスパーソンに向けて憲法の解説書を書いてみようと。

谷口:最初はそういう風に思っていましたけど、ビジネスパーソンといってもいろんな人がいますよね。だから、読む人が家庭のある会社員だとして、その人が家に帰って子どもと一緒に読めたらええなと思って。義務教育の終盤くらいになれば、憲法の中身も理解できるようになるので。

―― これだけ憲法を身近な例に引っかけて分かりやすく説明されていると、興味が沸きます。非常勤で講義を持っている大阪大学では、「日本国憲法」の授業が大人気だと聞きました。

谷口:自分で言ったら自慢になるから、やらしい感じなんですけどね(笑)。でも、おかげさまで200人くらいの前で憲法を教えています。一回一回、舞台をしているような感じで、すごくありがたいですよ。

―― しかも、その授業はまず恋愛相談から始まると。

谷口:そうなんですよ。「DJマユミ」と名乗って恋愛相談を勝手に受けています。
今日の授業では理想の恋人像・パートナー像を出席カードに書いてもらって集めたのですが、文系学部の女子の「尻に敷ける人がいい」のあとに、理系学部の男子の「尻に敷かれたい」というのが出てきて、「これはカップル成立やん!」と(笑)。
「相談に乗ってもらって彼女ができました」「恋愛がうまくいきました」みたいなメッセージをもらうこともありますし、それだけ聞いて帰る学生もいるんですよ。

―― 大人気ですね(笑)。でも、その恋愛相談からの流れで憲法の講義に入っていくわけですよね。

谷口:そうですね。理想の恋人像として「束縛しない男性」をあげていた学生がいたんですが、そもそも人を束縛して支配しようとすることは暴力の始まりであって、それがDVにつながっていく。これは基本的人権につながりますよね。
また、「働くことを許してくれる旦那さんがいい」という意見には、「そもそもなんで許しがないと働けないの?」と疑問を提示する。それを突きつめていくと、これも憲法につながります。

―― 恋愛は感情的なものですが、結果的に憲法という「理屈」につながっていくのは面白いですね。そういった形で、憲法に対して身近さを感じてもらうことが入り口になると思いますし、この本も感情と理屈をつなぎあわせながら、憲法や法律を説明されています。

谷口:そうなんですけど、今、盛んに議論されている「改憲」については感情が先行しているように思うんですね。「改憲すべきだ!」「改憲は嫌だ!」みたいな二項対立で。
でも、実際に議論を聞いてみると「ホンマに憲法を読んだことあるんですか?」と感じることが多くて、中身がちゃんと知られていないのに議論が進んでいる感覚があるんです。そこには警鐘を鳴らしたいですね。そもそも内容を知らないと正しく議論はできません。
今って、声の大きい人の意見が目立つ時代ですし、それに乗っかって分かった気になっている人も多いように感じています。

―― 選挙権が18歳に引き下げられましたが、谷口さんの目から見て今の学生は政治に対して興味を持っているのでしょうか?

谷口:二極化という言い方は正しいのか分からないですけど、すごく考えている学生と、一方で無関心な学生が目立ちますね。
私の講義の受講生は一回生や二回生が多いのですが、真面目に考えている子の中には、「(選挙権の年齢が引き下げられて)怖い」と言う子もいます。誰に投票していいのか分からないし、その投票が反映されることに対して責任を負わないといけないから。
6月のイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票の後に、「若者は(離脱に)反対していたのに!」と怒っている学生もいましたが、いくら反対をしても投票行動に結びつかなければ意味はありません。実際に、投票所に行っていない若者も多かった。そういうところに危機感を覚えている学生も少なくないんです。
その一方で、イギリスで国民投票があったことも知らなければ、「今、何が社会で問題なのですか?」と聞いてくる子もいます。そういう意味では、極端に分かれているように思いますね。

なぜ憲法を知ることが大事なのか?

―― イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票の結果は、衝撃的でした。

谷口真由美さん写真

谷口:大半の人は残留だろうと思っていたでしょうし、直前に残留派の議員が射殺されるなどして、世論としては残留派が優勢だったはずです。ところがふたを開けると、結局投票所に行かなかった人たちが大勢いた。「自分が行かなくても」という考えがあったのは事実だと思います。

―― それは、「改憲」議論を重ねている日本も同じような状況ではないですか?

谷口:おそらくそうではないかと。私自身は憲法を改正してはいけないとは思っていませんが、どこをどう変えようとしているのか、そもそも今の憲法がどんな内容なのか知らないと、それが良いのか悪いのかも判断できませんよね。
EU離脱が決まったあとに、イギリス人が「EUとは」というワードで検索をかけていたという話がありますが、もし日本で国民投票によって憲法改正が決まったら、「憲法とは」とか「憲法 改正 影響」とかで検索かける人が増えるやろなあと思います。

―― 実際に決まった後に焦り始めますよね。

谷口:今、私たちがなんぼ「憲法についてちゃんと知りなさい!」と言っても、なかなか聞いてもらえないんです。憲法が自分のすぐ側にあることも、わかっていない。
すべての法律を根本となるものが憲法です。だから、私たちの生活の営みのすべてに憲法が流れているはずなのに、なぜか違うところに浮いている。特別なものだと思われています。

―― その中にある「改憲」にまつわる議論が何か浮ついているように見えるのも、人々の憲法についての知識がそもそも追いついていないからでしょうか。

谷口:さっきも言いましたが、感情的になっていることが多いですよね。おそらくメディアの情報の出し方や、その情報の受け取り方にも原因があって、ややこしい情報を鵜呑みにするのがどんなに怖いことか…。
イギリスのEU離脱の国民投票では、報道されていたのとは逆で移民が少ない地域の方がEU離脱に賛成し、移民と共存している地域の方が反対だったといいます。前者の地域の人たちが持っていたのは、「移民はなんとなく嫌だ」「なんとなく邪魔だ」というイメージだったのかもしれません。

―― 明確な実感がないからこそ、感情やイメージだけで動いてしまう。

谷口:知識があったり、前提を知っていたりすれば、それだけで考えて選択ができるようになるはずなんです。憲法を丸暗記する必要もないし、完璧に理解する必要はないけれど、すべてのルールの根本をだいたいでも知っておくことは大事なんですよ。
一口に「改憲」といっても、憲法を変えることでどんな影響があるのか。法律は最高規範である憲法に適合するように作られています。だから根本法たる憲法が改正されたら、当然法律も変わらないといけません。そして、その中でも特に、私たちの生活に強く影響する刑法や秘密保護法などが変わることになると…という風に想像力を働かせられるようになります。
基本的に政治家は何かを変えるときに、自ら進んでデメリットを語ることはありません。また、変えてはいけないという主張をするときも同じです。メリットしか語りません。だから自分で勉強するしかないんです。

―― 確かにそういうケースはありますよね。

谷口:第11条では「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」と書かれています。
では、「侵すことのできない永久の権利」とあるけれど、「永久」をどう解釈するか。もしこの条文を改正するとなったら、「永久」と言ってたのに「永久ではなくなるの?」と疑問を投げることができます。というかそもそも「永久」といっているものを改正できるのか、という話ですよね。
憲法改正には限界がないという説があって、例えば第96条の「この憲法の改正は、各議員の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」という条文を改正して、国民投票をなくしてしまえば、その時の政権が容易に改正できるようになります。
それでも、憲法の基本原理である「基本的人権の尊重」「国民主権」「平和主義」を改正することはできるのか? このうちの1つを改正でなくすなんて出来るの? もしそれがなくなったらどうなるの? と様々な疑問を張り巡らすことができるはずなんです。

―― では、本書をどのような方に読んでほしいか教えていただけますか?

谷口:色々な方に読んでいただきたいというのは前提で、特に国会議員かな(笑)。言葉を軽く使い過ぎているというか、勉強しなおしてほしいです。この本から試験を出したいです。だいたい大学では60点が落第点なので、そもそも60点取れなければ選挙に立候補もできないというようになればいいんですけどね。
政治家が庶民の感覚を持つことは大事ですが、「庶民がアホだから同じ感覚を持ちましょう」というのは違いますよね。逆に「庶民の感覚を」と言われている国民は、自分たちがもっと知識をつけて政治家に突っ込みを入れないといけない。そうしないとこの国は良くなりません。
国会議員を国会に送り出しているのは私たち大人です。政治が悪いと思うのならば、彼らを糾弾するのではなく、まず責任を感じましょう。そして、自分なりに考えて選択をするために、憲法を読むこと。個人的には「大人になって憲法の中身も知らないのは恥だよね」というくらいの感覚になってほしいですね。そうなってはじめて改憲の議論がちゃんとできるようになるので。

目次

  1. はじめに
    憲法ってどこにあるの?
  2. 第1章

    憲法って何?

    1. 【憲法の成り立ち】
      いまの憲法って、いつ、誰が作ったの?
    2. 【憲法・法律条文の難解さ】
      憲法とか法律で使われている言葉はどうしてあんなに難しいの?
    3. 【憲法改正】
      憲法って、変えてもいいんですか?
    4. 【権力分立】
      権力はなぜ分けないといけないの?
    5. 【参政権】
      政治家になるのに、政治家検定みたいな資格がいりますか?
    6. 【法の存在意義】
      憲法や法律なんて、私たち庶民には直接関係ないですよね?
  3. 第2章

    暮らしの中の憲法

    1. 【選挙】
      私のたった1票にどんな価値があるの?
    2. 【民主主義と多数決】
      政治も多数決で決まるの?
    3. 【成人の定義】
      18歳から有権者になったら酒もタバコもOKですか?
    4. 【表現の自由】
      目に余るようなヘイトスピーチでも、表現の自由で守ってやらないといけないのか?
    5. 【生存権】
      生活保護をもらっているとズルいと言われます。高校に行くのは贅沢ですか?
    6. 【親の権利・義務】
      親がお金を払っている子どものスマホを見るのは違法なのか?
    7. 【プライバシーと環境権】
      息子の部屋を片付けたら、プライバシーの侵害と言われましたが……
    8. 【幸福追求権】
      憲法が「幸せになる権利」を守ってくれるって本当?
    9. 【マイナンバー】
      はじまったマイナンバー制度、危険はないのですか?
  4. 第3章

    男と女と憲法

    1. 【婚姻の定義】
      お嫁にいったら、その家の人になるの?
    2. 【性的マイノリティの人権】
      どうして同性だと結婚できないの?
    3. 【見たくない権利】
      電車の中でアダルトサイトを見てもいいんですか?
    4. 【日本の性犯罪】
      チカンが怖くて、毎日ビクビクしながら電車に乗っています。狙われやすい私がいけないのでしょうか?
    5. 【モラハラ・DV】
      パートに出たいのですが、主人に「お前なんか無理」と言われてしまいました。
    6. 【再婚禁止期間と無戸籍問題】
      戸籍のない人がいるのはどうしてですか?
  5. 第4章

    世界と日本と憲法

    1. 【土地と領土】
      外国資本に買われた島は、日本の領土でなくなるの?
    2. 【日本人と日本国民】
      憲法で言う「日本国民」って、「日本に住んでいる人」という意味ですか?
    3. 【平和安全法制1】
      集団的自衛権と個別的自衛権はどう違うの?
    4. 【平和安全法制2】
      集団安全保障ってどういうことですか?
    5. 【平和安全法制3】
      大きな議論になった安保関連法案。どこが問題なの?
  6. おわりに

プロフィール

谷口 真由美

大阪国際大学准教授 全日本おばちゃん党代表代行
1975年生まれ。大阪府大阪市出身。国際人権法、ジェンダー法などが専門分野。
大阪大学での「日本国憲法」講義が人気で、学生の投票で選ばれる 「ベストティーチャー賞」を4度受賞。
新聞、TV,ラジオのコメンテーターとしても活躍。
2012年にFacebook上のグループ「全日本おばちゃん党」を立ち上げ、代表代行を務める。