■不眠症やうつの原因にも…3人に1人が問題を持つ「脳内視力」とは?
―まず、本書のタイトルでも使われている「脳内視力」の説明からお聞かせください。
松本:視力というと、皆さんは眼科やメガネ店で計測をするほうを思い浮かべると思います。片目を隠して、上下左右の空いている方向が分かるかどうかの検査ですね。その数値が悪ければ、メガネやコンタクトレンズで矯正をして、「よく見えるようになりましたね」といって終わりです。
私がこの本で使っている「脳内視力」とは、右眼がとらえた映像と、左眼がとらえた映像が、それぞれ視神経を伝わって、脳でちゃんと一つの映像として処理ができているかどうかを示すものです。普通、遠くの木を見たら左眼と右眼両方同じ対象物を見ますよね。ところが、右眼がその木をとらえられていても、左眼にずれが生じて、対象物をとらえられないことがあるんです。しかも、そうしたズレを日常的に持っている人が日本人の3人に1人もいるんです。
―それは、右眼と左眼の視力が極端に違う「不同視」とも違うということですか?
松本:そうですね。「脳内視力」と「眼球視力」は基本的に関係ないと思っていいでしょう。でも、今おっしゃったような不同視の人は、「脳内視力」にズレを生じている人も多いです。不同視の方はどうしても見えやすい方の眼に力を入れて対象物を見てしまうので、自然と片目使いになってしまいます。そこから右眼が変に緊張したり、左眼もそうなってしまったりしてズレが生じることもあるのではないと思います。
―この「脳内視力」にズレが起こるのはどうしてなんでしょうか?
松本:これは生まれつきであることが多いです。腕の長さが左右で違う人もいますけれど、そういうものだと思うしかないです。厳密に言うと約半数の人にズレがあるといわれているのですが、多くの人は軽症で眼の筋肉などを使って抑えています。
また、生まれつきでなく、生活習慣や環境によってズレが起きることもあります。特に現代は、どんどん見つめる対象物、それも光を発する対象物との距離が縮まってきていますよね。テレビ、パソコンのモニター、スマートフォンの画面と。この20年くらいで一気に縮まりましたから、眼がすごく疲れていると思いますね。
―「脳内視力」が出ていないことによって私たちの体にどんな影響が出てくるのでしょうか。
松本:この本にも書いていますが、代表的な症状としては「疲れ」「頭痛」「肩こり」ですね。右眼と左眼で視点が違うと不便なので、脳が無理やり視点を合わせたり、どちらかの視点を消してしまうんです。そうすれば対象物は1つに見えるでしょ? でも、その副作用として、遠近感や立体感、距離感がなくなってしまいます。視野が半分欠けてしまうんですね。だから必然的に球技が苦手になってしまうんです。
また、実は、自律神経にかなり悪影響を与えています。つまり、視点を無理やり合わせようとしてしまうので、常に過緊張になってしまうんです。そこから不眠症だったり、ひどいときはうつ状態になってしまうこともあります。
―この「脳内視力」は矯正できるものなんですか?
松本:できます。これは特殊なレンズを使ったメガネを使うことで、改善することができます。ただ、この検査自体をしている人が日本には少ないんです。だから、私の存在が目立つんですね。
実はこの「脳内視力」は、医学の世界はちゃんとした名前がついていますし、100年以上前から確認されています。ただ、私はより分かりやすく説明するために「脳内視力」という言葉を使っているんです。特殊なレンズというのも、私が開発したのではなく、100年前から技術があります。日本では例が少ないだけで、欧米では比較的知られていますね。
―特殊なレンズとはどのようなレンズ何ですか?
松本:右眼と左眼が同じ対象物をとらえて当然なのに、それができない。これが、脳内視力が出ていないという状態だということはさっきご説明しました。それを矯正するためのレンズですね。一般的な視力を良くするレンズとは異なるもので、コンタクトレンズの上にメガネをかけても大丈夫です。
―脳内視力を矯正するためのコンタクトレンズはないのですか?
松本:よく聞かれるのですが、コンタクトレンズでは無理なんですよ。人によってズレ方が異なるのですが、コンタクトレンズって眼の中でくるくるとまわるので、ズレを矯正することができないんです。
■「脳内視力」を自分で診断!
―インタビューの前半では「脳内視力」とは一体どういうものについてお話を聞いてきましたが、この「脳内視力」を自分自身で診断する方法というのはあるのですか?
松本:実はそれをやってもらいたくて、この本を出版したんです。この本には「〈脳内視力〉測定キット」という付録がついていて、赤緑メガネをかけて4つの模様を見てもらいます。それで、「脳内視力」が出ているかどうかを確かめるのです。
―このインタビューの前に、新刊JP編集部でもテストをみんなでやってみたのですが、2番目の「二つの円の絵」の検査で引っ掛かっていました。これは脳内視力に問題がなければ、赤緑メガネで見たときに、二つの円が一つに見え、その円の中に「□×○」が一列に並んで見えるというものですね。
松本:2番目で引っかかる人は多いですね。1番目の「パンダの絵」の検査は、パンダの絵が大きいですし、とても大雑把なんです。だから合致しやすい。でも2番目はそうはいきません。対象物が小さく、二重丸なので精密に重ならないといけないんですね。また、円の中の「□×○」がすごく小さいから視点を合わせにくいんですよ。
―私がテストをしてみてダメだったのが3番目の「十字の絵」です。どうしても棒線が横に移動してしまいます。
松本:なるほど。この検査ではズレの方向が分かります。上下にズレているのか、左右にズレているのかを診断するんですね。横にズレてしまうときは、例えば本を読んだ際に、右が1行目を見たとき、左が3行目を見ているといったようなズレが起きています。だから集中力が続きにくいなどの症状が出てくるんです。私の検査では、何行程度飛んでいるかというところまで検査をします。
―私の場合、左眼で見ると横の棒が右へ右へと移動してしまうのですが、これはどういう症状なのでしょうか。
松本:それはあまり見られない症状です。普通、左眼で捉えた横の棒は左へと移動します。90%の人がそうですね。右へ行ってしまうということは、かなり左眼が緊張していて、ストレス過多になっている可能性があります。だから、気をつけたほうがいいでしょうね。ストレスを発散するなりして、疲れてきたら休むようにしてください。
―ありがとうございます。確かに自覚があります。でも、2回目を見たときには合うんですね。
松本:それは脳が学習するからです。ただ、このテストは慣れてくれば全て問題なしになるかというとそうではなく、それまで出きていた別の検査でズレてしまったりするんですね。だから、誤魔化しがきかない検査なんですよ。
―松本さんはメガネ作りに携わってもう25年以上になるそうですね。
松本:そうですね。20歳のときにこの業界に入り、26年になりました。
―メガネ業界に飛び込んだきっかけは?
松本:もともと自分がメガネをずっとかけていて、メガネ作りという仕事が性分にあったということです。メガネが好きなんです。30歳まではディスカウントのメガネショップをやっていたのですが、大手が一気に入ってきまして、食べられなくなってしまったんですね(苦笑)。ただ、メガネ作りはしたかったし、この本で言う「脳内視力」の存在や、特殊レンズの技術があることも知っていたので、やってみようと転身しました。
―特殊レンズを使ったメガネをつけた方々からはどんな反応があるのですか?
松本:みんな驚きますね。生まれて初めてズレが調整されるいうことを経験するわけですからね。ただ、逆にズレを完全になくすると、酔ってしまって「気持ち悪い」という人もいます。そこまで見え方が違うんですよね。
―「脳内視力」が悪化することはあるのでしょうか?
松本:加齢による衰えというのもあるにはありますが、どちらかというと注意してほしいのは環境ですね。特にプレッシャーやストレスは毒です。
―では、この『疲れ・頭痛・肩こりが「脳内視力」で治った!』をどのような方に読んでほしいとお考えですか?
松本:私は小学校のとき、特別支援学級に行っていたんです。それはなぜかというと、本を読んでも集中力が続かないし、理解もできなくて、テストで0点ばかり取っていたから。でも、知能テストは問題がありませんでした。小学校3年生になって、大学病院に行ったときに、「眼に異常はない。大丈夫だ」と言われました。でも、本当は違っていて、「脳内視力」にすごいズレがあったんです。右眼が1行目を読んでいるのに、左眼は20行目を読んでいたんです。メガネ作りをはじめてからそういった視力があることを知り、たくさん勉強を重ねて克服できたのですが、いまだに僕のような子はたくさんいるんです。こうしたことに気づいて欲しい、知られていないだけで、苦しんでいる人がたくさんいるということを分かってほしいんです。また、私のように苦しんでいる人たちにこのことを知ってほしいという願いも込めました。この本にも書きましたが、私の夢は「脳内視力」検査を、学校に入れることなんです。
―では最後に、インタビューの読者の皆さまにメッセージをお願いできますか?
松本:私は「眼からウロコ」というNPO法人も立ち上げていて、発達障がいの子どもたちや引きこもり、ニートの若者の支援活動をしています。ニートや引きこもりの人たちの「脳内視力」を検査すると、ほとんどの人にズレがあることが分かっています。だから、「自分は何をやってもダメ」と思っている人は検査をしてみてもらって、もしかしたら「脳内視力」に原因があるのかもしれないということを知ってほしいですね。
これまで延べ一万人超のメガネをつくり、研究を重ねてきた。
「立体視」ができない人が3分の1もいる事実から、「脳内視力」というコンセプトにたどり着く。試行錯誤の後「脳内視力を改善するメガネ」が完成する。
チェーン店の安価なメガネとは一線を画し、1時間以上かけてオーダーメイドでつくる医療機器としてのメガネを提案。
現在では、各界の著名人はじめ、全国、海外からも顧客が押し寄せている。
また、NPO法人「眼からウロコ」代表として、学校や公的機関での「脳内視力」に関する無料の講演を開催。発達障害の子どもたちやその親に対してのカウンセリングをライフワークとして情熱的に取り組んでいる。
■人生が変わるメガネ