2005年夏、中国で起きたある1つのビジネスが、世界中の注目を集めた。阿里巴巴(アリババ)という中国のIT企業と、ヤフーが全面的な戦略提携を行うというものであった。その記者会見において、以下のような発表がされた。「アリババがヤフー中国の全資産を買収した」。
アリババ創業者兼CEOの馬雲は不思議な男である。それは、本書の「はじめに」や「まえがき」を読めばすぐに分かる。その一部を引用する。「…彼の心にあるアリババの未来像を二時間近くも説明し続けた。彼は途中で「私にもわからない」「どうもはっきりしない」という言葉を何度も口にしたり…」(p28)。「わからない」。この言葉には大きな危険性を孕んでいる。思考の停止や将来への失望。しかし、馬雲が使う「わからない」は、その意味とは逆である。つまり、この「わからない」がアリババの成長の源となってきたのだ。「はじめに」において、呉暁波は以下のように解説する。「馬雲はアリババを型にはめようとは思っていないということだ。すなわち、アリババにはあらゆる可能性があり、魚が水中を泳ぎ回るように、中国人の知恵をインターネットの世界で存分に展開できると考えている」(p21)。
本書で描かれているのは、馬雲の一代記である。その生い立ちからインターネットとの出会い、創業のきっかけ、ソフトバンク社長・孫正義との伝説の6分間の会談等、アリババが中国のIT業界に大きな波を起こすまでの経緯が、事細かに書かれている。中国のITの「変革」が、この一冊に凝縮されていると言えよう。
Jack Ma(ジャック・マー)。中国・杭州出身。阿里巴巴集団CEO、ソフトバンク株式会社取締役。
米国でインターネットに出会い、1995年に中国初のインターネットビジネス情報掲載サイト「中国イエローページ」を立ち上げる。1999年、アリババを設立。独創的なビジネスモデルで中国IT業界を牽引。2007年暮れには米「FORTUNE」誌の表紙を飾った。
正式名称は阿里巴巴集団。日本ではアリババグループとして報道される。浙江省杭州市に本社を置く電子商取引企業。CEOは創業者の馬雲。
1999年3月の設立後、零細企業を中心としたB2Bの電子取引サイト「阿里巴巴」を立ち上げ中国内でシェアをのばし、現在は世界でトップシェアのマーケットとなっている。2005年にはYahoo!中国を買収。世界に大きな衝撃を与えた。
ビジネス作家。月刊誌『南風窓』の高級経済記者。著書に『希望水行:中国首富劉永行自述』などがある。
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- 書籍名:馬雲のアリババと中国の知恵
- 著者:鄭作時
- 訳者:漆嶋稔
- 出版社:日経BP社
- 価格:¥2,310(税込)
- ISBN:978-4-8222-4645-7
- 発売日:2008/2/6
- まえがき アリババ 見えた未来と見えない未来
- 第一章 大事件
- 第二章 そのとき、アリババは
- 第三章 創業
- 第四章 孫正義が来た!
- 第五章 勢いに乗る時代
- 第六章 中国サプライヤー
- 第七章 「信用通」の世界
- 第八章 偉大な企業を目指して
- 第九章 西湖論剣
- 第一〇章 淘宝網( タオバオ)
- 第一一章 支付宝( アリペイ)
- 第一二章 ネットビジネス商の時代