原発作業員たちの内部告発を公開
福島第一原発の事故から3か月あまりが経ち、メディアが報道する内容も原発の状況から、事故そのものの責任論や補償に関することにシフトしてきたように見えます。
このような状況で徐々に浮かび上がってきているのが、国や東京電力の危機管理の甘さや隠ぺい体質。しかし、原発の現場で働く作業員や技術者たちにとっては今回の事故が起こる前から、これらの体質は織り込み済みだったようです。
佐藤栄佐久・前福島県知事の著書『福島原発の真実』には、過去に福島原発の作業員や技術者たちから寄せられた内部告発の数々が掲載されています。改めて原発の保守・管理のずさんさを感じずにはいられない内容ですが、一部紹介します。
「東京電力の社員が所内の作業を監督していない。このため、東電が知らないところで不正が行われていることがあった」(2003年10月)
「原子炉圧力容器下部周辺などの高い被曝が予想される作業では、線量計を外し、高い数値が出ないようにしていることがあった」(2003年10月)
「九九年六月に福島第一原発3号機で発生した爆発事故についての発表が見られない」(2004年8月)
「福島第一原発6号機、3号機、5号機にて点検中にわかった湿分分離器の欠陥及び抽気管の欠陥を、なぜその後に点検を始めた2号機の定期検査で点検しないのか」(2005年6月)
「定期検査終了後、東電の技術グループが100パーセント出力で行う『総合負荷検査』において、立会検査前の社内検査で、記録及び計器の不正があった。内容は、社内検査において合格範囲内のデータについて、計器のゼロ点をシフトさせ、既定値に合わせる不正を行い、そのまま国の検査を受けたものである。『不正はしていません』との回答が出た場合、証拠があるので提供する。厳しい検査を願う」(2006年5月)
佐藤氏はこれらの告発が県に寄せられるようになったことの原因として、2002年に発覚した福島第一原発の点検データ改ざん、トラブル隠しを挙げています。
この事件は原発作業員が2000年に通商産業省(当時)に寄せた内部告発から発覚しました。驚くことに原子力安全保安院は2年間もその告発を握りつぶしていたのです。
福島県は即座に記者会見を開き、原子力推進政策をPRしながらも、起こった不正は隠す国の姿勢を厳しく批判しました。この時、国と福島県のあまりにも対照的な対応を見た技術者・作業員の間に、信頼すべきは国ではなく福島県、という認識が広まったのではないか、と佐藤氏は述べています。
本当だとしたら信じられないような内容が含まれている告発の数々。
こうしたずさんな管理の結果が福島原発の現状です。
『福島原発の真実』は、福島原発における「プルサーマル計画」導入を巡る、国と佐藤氏率いる福島県の戦いの記録。嘘や欺瞞にまみれた日本の原子力政策の真の姿や、原子力安全神話が実に脆い土台に建てられていたことが明らかにされています。
原発自体の存廃も含めた議論はまだまだ続きそうですが、「原子力発電は本当に必要か?」という問いに自分なりの答えを見出すためにも、ぜひ読んでほしい一冊です。
佐藤 栄佐久 (さとう えいさく)
1939年福島県郡山市生まれ。
東京大学法学部卒業後、日本青年会議所での活動を経て、83年に参議院議員選挙で初当選、87年、大蔵政務次官。88年、福島県知事選挙に出馬し、当選を果たす。
東京一極集中に異議を唱え、原発問題、道州制などに関して政府の方針と対立、「闘う知事」として名を馳せ、県内で圧倒的支持を得た。
第5期18年目の2006年9月、県発注のダム工事をめぐる汚職事件で追及を受け、知事を辞職、その後逮捕される。09年10月、一審につづき、二審でも有罪判決となったが、「収賄額ゼロ」という前代未聞の認定となった。現在最高裁に上告中。
著書に『知事抹殺――つくられた福島県汚職事件』(平凡社)がある。
第1章 事故は隠されていた
炭鉱の廃坑に不法投棄/福島と原子力の火/選挙と原発
自治体は関与できない原発政策/県民に対する二重の裏切り
第2章 まぼろしの核燃料サイクル
目的と手段が逆転した原発誘致/「もんじゅ」ナトリウム漏れ事故/「鉄のトライアングル」
三県知事に絞って政府に申し入れ/プルサーマル実施方針が伝えられる
核燃料サイクル懇話会と民主主義/全国初のプルサーマル事前承認
第3章 安全神話の失墜
JCO臨界事故/高浜原発のMOⅩ燃料データ捏造/プルサーマル延期が決定
電力自由化と東京電力/過疎と「平成の大合併」
第4章 核燃料税の攻防
東電、発電所新規建設をすべて凍結表明/経産省内の電力自由化抗争
「物わかりの悪い田舎の知事」/核燃料税引き上げの構想
「福島県はとんでもない県ですね」/「訴訟もひとつの選択肢」
第5章 国との全面対決
チラシ配りをするエネ庁課長/「エネルギー政策検討会」設置
「プルサーマルは力ずくで進める」/政策決定プロセスにおける情報公開
国民の声は反映されているか/原子力政策最大の問題点
タコツボと化している原子力委員会/原発推進は国民に対して説得力をもつのか
「原発はコストが一番安い」というまやかし/電力自由化のなかで原発は成り立つか
高経年化対策/プルトニウムバランスはとられているか/原発は地域振興になっていない
「なんで勉強会にあんな人間を呼ぶのか」/石原都知事の暴言
失望させられた原子力委員会の回答/自民党県連の申し入れ
第6章 握りつぶされた内部告発
突然のファックス/国こそが本物のムジナ/“警官と泥棒が一緒に”
原発立地自治体が東電に抗議文/東電幹部総退陣/東電という組織の病根
「中間とりまとめ」の発表/国への最後通牒/核燃料税条例改正に総務相が同意
思わず出た原子力委員会の本音/自民党本部に乗り込む
第7章 大停電が来る
福島県の「無力感」/「東京」の本音/第一原発6号機再稼働に「了」/情報公開はどこまで
第8章 「日本病」と原発政策
美浜原発で四人が死亡/スケジュールありきの原発政策/原発政策に民主主義のプロセスを
速度をあげる原子力政策/プルサーマルは福島で実施しないことを再確認
原子力安全委員が抗議の辞任
第9章 止まらない内部告発
県に続々寄せられる内部告発/「福島のトゲを抜け」/知事失脚
エピローグ 「嘘」を超えての再生
知事辞職後、放置された諸問題/原発事故の「元凶」/また発覚した保安院の「嘘」
「嘘」を超えて、リーダーシップを発揮できるか
あとがき
関連年表