―中村さんは今回発売された著書『スマートメディア』の中でTV、ラジオ、雑誌の衰退に触れていらっしゃいましたが、これらのメディアは今後どうなっていくとお考えですか?
急になくなるということはなく、ゆっくりと衰退していくと思います。マスメディアは“みんなが求めているものはこれだろう”ということで情報を発信するわけですよね。しかし、今はみんなが多様化して好みにしてもバラバラです。だからみんなに向けた情報を出しても、それが訴求する人数が少なくなってしまいます。
結局どうするかというと、どうしていいかわからないから、デジタル化してネットと絡んでという話にならざるを得ません、電子書籍もそうです。しかし今人気のない書籍や雑誌を、そのままデジタル化してネットに乗せても人気が出るはずがないですよね。だから全然違うことをしないといけないのですが、まだ誰もやっていない。
それを解決するのが、この本で書いた『スマートメディア』なんですけど、だいぶ先のことだとは思いますが、新聞は面がなく、雑誌は目次がない、テレビは番組表がない。それらは読者が自身が決めるという状態に行き着くと思います。
実際、みんなの不満はそこにあるでしょう?若い女の子がテレビを見ない理由の一つに“だって家にいないんだもん”というのがあります。自分の見たい時に、見たい番組を見たいわけです。ところがテレビはテレビ局の番組編成でもって決められていて、それを見なさいと言っているわけです。
―中村さんは今回発売された著書『スマートメディア』の中でTV、ラジオ、雑誌の衰退に触れていらっしゃいましたが、これらのメディアは今後どうなっていくとお考えですか?
日本がある程度豊かになったことだと思います。欲望はそれが満たされるにつれて低減していくものです。豊かになったことで、欲望がある程度満たされるようになったため、欲望は多様化してしまった。それはすなわち、豊かで成熟した社会だということでもあって、いいことではあります。すばらしいことなのですが、そんな社会に向けてマスな情報を出すなんて不可能です。
―本書ではインターネットの限界についても触れられていますが、中村さんご自身はどういった時にそれを感じますか?
ど忘れしたことや、ちょっと疑問に思ったこと、雑学的なことを調べるには、ネットはもの凄く便利です。だけど、何かを真剣に探そうと思ったら、今や情報量が膨大すぎて無理なんですよ。つまり、知っていることに関してはそれをネットでより詳しく調べることができますが、漠然と“翻訳ミステリー”が好きだからといって“翻訳ミステリー”というワードでネット検索をしても雑多な情報が多すぎて欲しい情報に行き着きません。そこがインターネットの限界だと思っています。
―出版業界では、目下電子書籍が注目されていますが、今のところそれほど普及しているとは言えません。電子書籍の今後の課題はどんな点にあるとお考えですか。
出版社に長くいて感じたことなのですが、出版社は電子書籍に積極的になれません。取次があり、書店があり、印刷屋さんがあり、というシステムで長い間やってきているのでこれを壊すことはできないんです。だから電子書籍を作っても安くできない。経費がかからないから本当は紙の書籍の3分の1くらいになるはずなんですけどね。
また、日本はアメリカと違い、電子書籍化するにあたって著作権の問題をクリアするのが大変です。それから、デバイスがいろいろ出ると、その全てに出版社が対応するのも容易ではありません。
私は携帯で漫画を配信した時に経験しているのですが、新製品が出ると全部チェックしないといけないんです。デバイスが10個出ると、その全てでコンテンツがきちんと見られるかどうか動作確認をしないといけない。これはすごく大変です。マーケットもまだちゃんとしていないということで、出版社から見ると“まあゆっくりやりましょう”というところではないでしょうか。
―読者の側から見るといかがでしょうか。
読者からすると、ガラパゴス、ギャラクシー、iPadなど、たくさん端末が発売されていますよね。だけど、例えばガラパゴスを買うとなると、それはシャープが用意したコンテンツしか買えないわけで、全てのコンテンツが読めるわけではありません。つまり、今は端末を作った家電メーカーが用意したコンテンツしか読めないものを読者に買えと言っている状況です。一つの端末で全てのコンテンツを読むことができて、しかも値段が紙の本の3分の1になるなら意味があるし、読者も買ってもいいと思うと思います。
今、新刊本は年7~8万タイトル出ていますが、電子書籍で買えるものはいわゆる“ベストセラー”であって、売れている書籍です。しかし、電子書籍の本当の良さは、売れている本だけではなく“絶版になった本も昔の本も全てある”ということでしょう。年間10冊しか売れない本でも電子書籍であれば問題ないわけですから。だから、ゆっくりとゆっくりと電子書籍へ移行すると思いますね。
―本書では、膨大な情報と、多様な好みを持った人々を結びつけるものとして『スマートメディア』を紹介されています。まだはっきりと形になっていない『スマートメディア』ですが、中村さんご自身のアイデアがありましたら教えていただけますか。
ヒントを得たのはYoutubeなんですよ。Youtubeにはカテゴリーやタグがあるじゃないですか。システムとしては、タグに検索でひっかかって動画に行き着くという形です。それを一歩進めるとどうなるのか、というのがテーマでした。
僕は編集者側の人間ということもあって、一番最初に考えたのが本でも書いている『スマート新書ストア』です。
本屋さんって全部の本が置いてあるわけじゃないじゃないですか。つまり、本屋さんで本を探せない状況なわけで、町の小さな本屋さんは特にそうです。そういう本屋さんの状況を見て、『スマートメディア』で本屋をやったらどうなるだろうと考えました。
新書はビジネスパーソンの読者が多く、iPhoneやiPadにも親和性があります。また、新書はすぐに読みたいものだし、700円前後で買って一つでもいいフレーズがあれば得したというところがある。だからスマートフォンで買った方がいいんじゃないかと考えました。
―人々が『スマートメディア』を通して自分が求めている情報とスムーズに出会えるようになることで、社会にどのような変化が生まれるとお考えですか。
冷蔵庫や携帯電話が人のライフスタイルを変えたように、『スマートメディア』もライフスタイルを変えると思います。僕自身もiPhoneでライフスタイルが変わったんですよね。今までの暮らしは、あらかじめ用意したり準備しておかなければいけないものがたくさんあります。例えば旅行に行くならチケットを買ったり、ガイドブックで旅先のことを調べたり、天気予報や交通情報を見ます。これまではそのために新聞を読んだり、テレビをつけたりしていましたが、『スマートメディア』によってそれはなくなっていきます。その都度スマートフォンで見ればいいわけです。そうすることで時間ができるんですよ。そのできた時間をどう有効利用するかということになっていくので、明らかにライフスタイルが変わると思います。
(取材・記事/山田洋介)