- 書名:
- M&A新世紀 ターゲットはトヨタか、新日鐵か?
- 著者:
- 岩崎日出俊
- 価格:
- ¥1,575(税込)
- 出版社:
- KKベストセラーズ
- 発売日:
- 2009年10月24日
- ISBN(13桁):
- 978-4584131848
- ISBN(10桁):
- 4584131848
- 1章 ファンド篇
赤いハゲタカはトヨタを買収するのか
時価総額12兆円のトヨタといえども買収の可能性はある
国家ファンド(SWF)とは何か
国家ファンドはどういった先にカネを出しているか
国家ファンドは日本にも触手を伸ばすか
M&Aの世界では国家ファンドより民間のファンドの方が存在感がある
金融危機で、TPGやKKRなど大型投資ファンドはどうなったか
ハゲタカから日本最大の自動車会社に忠告する
【コラム】なぜホンダは黒字でトヨタは赤字なのか
トヨタの「一代一業」と「経営資源の本業への集中」は相容れないか
仮にファンドがトヨタを買収したら…?
GEは金融事業の見直し(スリム化)に着手した
【コラム】なぜGMは破綻したのか - 2章 敵対的買収篇
なぜマイクロソフトは任天堂を買収しないのかキャッシュを抱えている任天堂が買収されない理由
マイクロソフトは任天堂を買収した方が良かったのではないか
なぜブルドックソースは買収の標的になったのか
ブルドックソースの財務のどこが非効率だったのか
ブルドックソースはどのようにして防衛したのか
買収に反対したブルドックソースの株主は、結局は大損した
TOB(公開買い付け)とはどういうことか
三角合併とは何か
日本中が騒いだ三角合併は『大山鳴動して鼠一匹』に終わった
「ファイナンシャル・バイヤー」と「ストラティージック・バイヤー」
買収カレンシーとはどういうことか
アデランスではいったい何が起きたのか
敵対的買収というのは誰に対して敵対的なのか - 3章 買収技術篇
M&Aを成功に導くポイント牛角のMBOで株主たちは何を怒っているのか
なぜNTTドコモはM&Aで最も失敗した日本企業と言われるのか
なぜNTTドコモのマイナー出資は意味をなさないのか
【コラム】ドコモが海外のM&Aに失敗しなければ、あなたの毎月のケータイ料金は少なくとも2500円は安くなった
ガソリンスタンド「JOMO」を展開する新日鉱誕生の舞台裏
【コラム】買収の際の株価評価はどうやって行なうのか
なぜ営業利益が赤字の東芝の株価が、黒字の日立より高いのか
「選択と集中」が出来ていない総合電気
M&Aが分かると株式投資にも強くなる
自分の子供を就職させてもいいと思う会社の株を買え
なぜGEはソニーを買収しないのか
【コラム】「NPV」と「IRR」では、どちらが優れた評価方法か - 4章 投資銀行篇
買収を陰で演じた投資銀行はどうなったか投資銀行は無くなってしまったのか
投資銀行は「投資もしない」し「銀行でもない」
ベアー・スターンズがJPモルガンに買収される時にも投資銀行が動いた
リーマン・ブラザーズが破綻した時にも投資銀行が動いた
批判に晒される投資銀行の報酬決定メカニズム
アメリカ合衆国はM&Aで国家を創り上げていったというのは本当か
なぜ野村證券はリーマンの欧州とアジア部門を買収したのか
なぜ野村はリーマンの欧州と中東をたった2ドルで買収できたのか
日本の銀行や証券会社は本気で投資銀行になりたいと思っているのか
M&Aの際に払う手数料はどのくらいなのか
【コラム】45歳で投資銀行を辞めた人たちの人生は - 5章 価値創造・戦略篇
新世紀のM&Aはどういうものか追い詰められた日本の百貨店
「ビールの王様」の本拠地を激震が襲った
これは国家安全保障上の問題だ…?
1位から5位まで全てが外資となってしまった現実
キリンとサントリーの統合は必然の選択であった
世界の巨大企業は日本人が気がつかない間に先を行っている
日本たばこ産業(JT)によるM&Aはなぜ戦略的であると評価されるのか
【コラム】日本航空(JAL)と新銀行東京との奇妙な共通点
ミタルのスクラップ工場はM&Aによって世界一の鉄鋼メーカーになった
世界を驚愕させたミタルのアルセロール買収劇
ステーク・ホルダー型民主主義とグローバル資本主義の争い
ミタルは新日鐵を買収するのか
攻撃は最大の防御である
【コラム】グローバル資本主義は悪か
リーマン・ショック後のグローバルM&戦略
新興国から世界企業が出現してくる
■「M&A」の認識を履き違える日本の経営者
「リーマン・ショック」から1年、世界的に続く不況の出口は未だにその姿を現さずにいる。では、どうしてこのような状況が続いているのだろうか。冒頭で著者・岩崎日出俊氏は次のように指摘する。
「(日本の株価が低迷しているのは)企業が価値を創造できなくなっているからだ。そしてそのことには、日本の経営者がM&Aについて間違った認識を持っていて、グローバル資本主義への対応を履き違えてしまっていることも大きく影響している。」
つまり、現在の日本では、市場主義経済が本来持っている「不適切な経営者を市場が交代させる」という企業の自己修正機能が働かなくなってしまっているというのだ。
「M&A」と聞くと、ダーティーな言葉として捉えられがちだ。確かに最初にメディアに出てきたとき、「何処の馬の骨か分からないような経営者」が繰り返し使い、本当の意味が伝わらないまま、「未知の新しい言葉」として人々に受け入れられた経緯がある。
しかし、「M&A」の本質を知ると、そうしたイメージはまったく異なるものであり、世界のビジネスを上向かせるための1つの大きな手段であることが、必ず分かるはずだ。
また、この「M&A」を理解することによって、企業がどのように動いているのか、そしてどのように経済を動かそうとしているのかが分かってしまうのである。
本書は身近な企業の例を用いながらM&Aの正しい姿を読者に見せることで、M&Aの誤認を解き、失われた市場の自律を呼び戻すことを目的として執筆されている。まさに、M&Aの「新しい教科書」の名にふさわしい本であると言えよう。
■映画「ハゲタカ」の世界は現実にありえるのか?
今年公開され、話題になった映画「ハゲタカ」。中国の国家ファンドが日本最大の自動車会社に買収をしかけるというストーリーだったが、果たして現実の世界でもそういったことは起こりえるのか?
答えは「イエス」である。
トヨタ自動車が他国の国家ファンドに買収される可能性も0ではないのだ。
トヨタの時価総額は12兆円と、日本で最も時価総額が高い企業である。しかし、世界には、この12兆円を超える資産を持つ国家ファンドが9つもあり、トヨタを買収するだけの資金力を持っている。
このことだけでも「ハゲタカ」は荒唐無稽な世界ではないと言える。
また、トヨタは証券など他業種に手を伸ばすなど、端から見ると「迷走」とも思えるような動きを見せ、企業そのものが借金依存体質から抜け出せずにいつつある。
著者はGM(ゼネラル・モーターズ)を例にあげた上で、トヨタのGM化を危惧する。もちろん、トヨタとGMは違うが、経営者たちが判断を誤れば、GMと同じ道を辿る可能性になることは否めないのだ。
■任天堂はどうして買収されない?
トヨタとともに日本を代表する企業・任天堂。
任天堂の特徴はキャッシュ(現預金)を抱えているにも関わらず、買収されないという点にある。
M&Aの世界では現預金を抱えている会社は買収されやすいのだがどうして任天堂は買収をされないのか? その理由は2つある。
1、任天堂が現預金を抱えているのは合理的理由があるから
2、経営陣がベストな布陣であるため、敵対的買収者が任天堂を買収しても企業価値を毀損させてしまい、買収者はより損をしてしまう可能性が高いから
つまり、現預金を抱え込む合理的な理由があること、経営陣が優秀であること、この2つが、任天堂がM&Aと今のところ無縁である理由なのだ。
同じように現預金を抱えていたブルドックソースは、買収の標的となっていたことがあった。こちらは、アメリカのヘッジファンドであるスティール・パートナーズが触手を伸ばしたが、その理由は株価が安かったこと、任天堂と違って現預金を抱え込む合理的理由がなかったことにある。
ブルドックは美味しくて品質が確かなソースを消費者に提供し続けることがビジネス・モデルであり、一度ブルドックソースの味に慣れると、よほどのことがない限りは離反しない。だから、新たな事業に投資することは本来あまり必要ではない。
一方、任天堂はゲームの新規の開発において多額のお金を必要とすることがあり、現預金が必ず必要であった。これが任天堂の合理的な理由だ。
ブルドックは結局、自ら企業買収を行ったこと、新規事業を打ち出すこと、この2つで現預金が必要だったと示し買収されずに済むわけだが、新規事業はあまり振るわず、防衛に成功しても株主にとっては大損となった。
■本書の読み方
以上のように、具体例を見せながら本書はM&Aの本質的な部分を暴き出していく。繰り返すが、M&Aというとダーティーなイメージがまだ払拭できていない。しかし、それが、冒頭のような「不適切な経営者を市場が交代させる」という機能を失わせている要因の1つであるには変わりないだろう。
他にも「TOB」「三角合併」など、関連用語についてもしっかり解説とされており、世界と日本の企業のM&Aの動きから、経済が今後どのような動きを見せていくかが分かるようになっている。
現代の経済の本質をついた好著だけに、多くの人に読んでもらいたい一冊である。
(新刊JP編集部/金井元貴)
著者略歴●岩崎日出俊(いわさきひでとし)1953年、東京生まれ。早稲田大学政経学部政治学科卒業後、日本興業銀行に入行。スタンフォード大学経営大学院で経営学修士(MBA)取得。22年間の興銀勤務を経て1998年より2003年までJPモルガン、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズの投資銀行各社においてマネージング・ダイレクターとして企業合併・買収の最前線に関与してきた。現在は経営コンサルタント会社インフィニティ代表取締役。