- 書名:
- 益川流「のりしろ」思考
- 著者:
- 益川 敏英
- 価格:
- ¥1,365(税込)
- 出版社:
- 扶桑社
- 発売日:
- 2009年9月29日
- ISBN(13桁):
- 978-4594060602
- ISBN(10桁):
- 4594060609
「目高手低」。
ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏が好きな言葉としてあげるこの言葉は、「批評はとても優れているが、実際にやらせてみると下手」という意味で、あまり好意的には使われない。
では、どうして益川氏はこの言葉が好きなのだろうか。
それは大学時代の数学の先生からこんな風に解釈もできるよね、と言われたのがきっかけという。
「目標は高く持て。しかし、仕事は低いところから着実にしろ。」
そして、益川氏はこの解釈に、さらに次の解釈を付け加えたいともいう。
「目標は、苦しくてもけっして下ろしてはいけない。」
この解釈は長く研究職に携わり、物理学史に残る発見をした益川氏そのものを表しているように見える。
益川氏はこれまでほとんど英語での学会発表をしたことがなく(これは研究職の世界では異例中の異例である)、ノーベル賞授賞式の講演を日本語で行ったりと破天荒なイメージがつきがちだが、本書につづられている氏の頭の中を覗いてみると、極めて機知に富んでいて、とても合理的な判断をする人であると驚かされる。
例えばこの本の中で「僕は時間の無駄遣いをいっぱいしています」と語っているが、読者はこの言葉面をそのまま受け取って「無駄遣いをたくさんしなくちゃ!」という風になってはいけない。その「無駄」から何が生まれるか、益川氏は知っているからこそこう語れるのだ。
マイペースに自分の道を進み往く益川氏。
タイトルにある「のりしろ」はゆとりや遊びを示す言葉だ。高い目標に届くために、いかに有用的な「のりしろ」を持つか。最近自分の生活を振り返ることが少ないなと思う人は、是非本書を読んで欲しい。「研究」という、一際競争が激しい業界でトップに君臨する益川氏の言葉から得られるものはたくさんあるはずだ。
(新刊JP編集部/金井元貴)
写真/京都産業大学
著者略歴●益川敏英(ますかわ・としひで)1940年愛知県生まれ。京都大学名誉教授、京都産業大学益川塾塾頭・終身教授、名古屋大学特別招聘教授。1979年第25回仁科記念賞、1985年アメリカ物理学会第1回J.J.S.賞、1985年日本学士院賞、1995年朝日賞、2001年文化功労者、2007年欧州物理学会高エネルギー・素粒子物理学賞受賞。1997年大17期日本学術会議会員。九条科学者の会呼びかけ人。2008年ノーベル物理学賞、文化勲章受賞。
・扶桑社