原田芳雄、その生き様
今年7月に死去した俳優の原田芳雄さん。
『反逆のメロディー』『竜馬暗殺』などの映画に始まり、『火の魚』『白洲次郎』『高校生レストラン』などのTVドラマにも出演、独自の存在感を示し続けた彼は文句なしに、一時代を築いた名俳優でした。
『B級パラダイス』復刻版(KKベストセラーズ/刊)は彼が自身の生い立ちから、仕事や演技、生き方までをつづったエッセイ・対談集ですが、その中の下積み時代のエピソードは実にリアリティに溢れていて、ワイルドでアウトローな彼の演技の側面を見る思いでしたので、一部紹介します。
■ 悪知恵を働かせて食糧調達
仲間うちで芝居をやりながらの無職時代。貧乏生活を続けて悪知恵が働くようになった、という原田さんは近所の3、4歳の子供を集めては神宮外苑に連れて行き一日中遊んであげ、子どもたちに「お兄ちゃんに遊んでもらったんだよ、ってお母さんに言いなさい」と言って帰すことを思い立ちます。
そうすると子供の親からお礼ということでおかずなどの食べものをもらえることがわかり、味をしめたのだとか。
今やったら事件になってしまいそうです。おおらかな時代だったことを感じさせるエピソードですね。
■ インチキ履歴書で俳優座養成所へ
2年間の貧乏生活の後、原田さんは友人のすすめもあり俳優座の養成所に入ることを決意しますが、同時に月謝を払える人でないと入れないことを知ります。
もちろん自分で払えるはずもありませんし、家も勘当同然だったため親に払ってもらえる見込みもありません。
普通ならそこで諦めてしまうところでしょうが、原田さんは違いました。とりあえず入ってしまえば何とかなる、ということで、履歴書には裕福な環境であるとウソを書き、試験を受けて無事に養成所に入ることになりました。
ちなみに入学金は友達のステレオを質屋に持って行き、支払ったそうです。
原田さんは当時を振り返って「芝居が面白くて仕方ない時分」だったと語っています。打ち込めるものがあったからこそ、貧乏な時期も乗り越えられたのかもしれませんね。
本書には原田さんのエッセイの他にも、松田優作さん、桃井かおりさん、タモリさんなどとの対談も収録されています。気鋭の俳優・タレントとの対談からはその時代の空気や、各人のオーラ、勢いが伝わってきて、こちらも今となっては貴重な資料だと言えます。
■ 原田芳雄のコピーだらけだった!
先に逝ってしまった松田優作さんは原田さんの大の信奉者で、しぐさから台詞まわしまで徹底的に研究し模倣したという話は有名ですが、それを裏付けるくだりが本文にあるので紹介しましょう。(原田芳雄は俳優座、松田優作は文学座出身です)。優作さんはこう言っています。
「文学座の研究生みんなマネしてて、あのコートなんかなつかしいよ。みんなが原田芳雄ふうに着てて、もう、たくさんいるわけよ、原田芳雄が(笑)。あれで俳優座いたらしいぜって、ふしぎでね。なんちゅうか、今までの芝居と全然違うでしょ。絶対できっこないなって、大変な人気だったんだから。」
これほどの個性と存在感のある俳優がなくなられて、今さらながら残念でなりません。
原田 芳雄(はらだ よしお)
1940年2月29日東京生まれ。俳優座養成所(15期生)を経て68年、映画デビュー。
「反逆のメロディー」以来、圧倒的な存在感と演技力で、生涯120本以上の映画に出演。
受賞歴も多数。03年に紫綬褒章、11年に旭日小綬賞を受賞。
同時にブルースシンガーとしても活躍し、多くのアルバムをリリース。プライベートでは熱心な鉄道ファンとして知られる。
11年7月19日、71歳で死去。阪本順治監督「大鹿村騒動記」が遺作となる。
PART1 俺の昨日を少しだけ
嫌なガキだったね
ひとり遊びにゃ慣れてるよ
歌って奴は不思議なもんさ
人のよけ方ばかり考えていた
“自閉症”少年が山にとりつかれてた
聖なるもの・大原麗子
夢中になった気分を話そうか
就職の条件は「勤務地が銀座」だけ
あこがれの銀座
こんな風に「冬の時代」を生きてきた
愛宕署にもお世話になりました
ホステス・スカウトマンは成果ゼロ
俺の唯一のダンディズム
栄養失調と養成所との不思議な縁
なんだかんだで十年の歳月が流れた
俳優座からできるだけ遠ざかりたくて
おもしろくないね、家庭の話なんか
『買い物ブギ』雑感
PART2 熱い想いを語ろうか
暗がりとうしろめたさが映画の原点熱気がうずまいてた“最期の日活”
こんな出会いを大事にしたい
いつも欲しがってないと、めぐってこないね
映画の現場がいちばん野蛮だ
裏切られる楽しさ、わかるかな
「映画俳優」っていわれても…
『龍馬暗殺』と『祭りの準備』は俺にとっての節目だった
酒だけはチャント差し入れします●黒田征太郎賛
かしこさと、おろかしさ
裏切られたときのざわめきがたまらない
構えてちゃ、何も見えてこないんだ
われら鈴木清順症候群
芳雄語録
「ベルリン国際映画祭」道中雑記
フィルモグラフィ&テレビグラフィ
PART3 気分はB級パラダイス
アマショクの香り●桃井かおり賛プレスリーが歌手への夢をブッ飛ばした
再挑戦にはものすごいエネルギーがいるんだ
決してメゲない“ブルースの女”がいい
酔いにまかせて初コンサート
このブルースが歌えたら…
あからさまにやってかないと間に合わないんだ
ひとり遊びじゃなくなった
“台所感覚”がない不思議なふたり
うしろ姿の黄金バット●宇崎竜童賛
都会にうごめく男と女が見えてくる
乱心ナショナリズム
ブルースにはバーボンがよく似合う
待ち呆けのブルース
ブルース!一生こだわるだろうね
薔薇
堂々とした懐の深さ●戸田昌子賛
ディスコグラフィ
PART4 明日からも不良少年
遊びに夢中で艶っぽい噂なんてないね“弟の立場”になれば安心してハシャげるんだ
目標も目的もない、憧れだけだね
芳雄語録
おろかしく本気になる瞬間がある
肉体なんて信じる方がおかしいんだ
遊びのパワーを衰弱させちゃいけない
あとがき
SACKING INTERVIEW