だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1504回 「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」

ライブは録音OK、音楽は無料で聴き放題! それなのに年間5000万ドルも稼ぐバンド、グレイトフル・デッドのマーケティング手法が分析された本です。彼らが過去40年でやってきたことは、今、注目を集めているソーシャルメディアのマーケティングに通じるノウハウが多くありました。事例・ケースも豊富で、実践的な一冊!!

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ジョーシキ破りのバンドからマーケティングを学ぶ

グレイトフル・デッドというバンドを知っていますか?

1.1960年代にサンフランシスコで生まれたバンド。 2.ビートルズやローリング・ストーンズと同じくらいの歴史がある。 3.ヒット曲もないし、ジョン・レンノンや、ミック・ジャガーのようなスターもいないのに、アメリカでとても人気があった。そして、人気は結成から半世紀たった今も続く。 4.熱狂的なファンが多くいて、「デッドヘッズ」という呼び名があるくらい。 5.40年以上前から、ファンのみんなに自分たちの音楽を無料で開放していた。 6.ライブの音楽は、録音OKで、コピーして配るのも自由! 7.それなのに、ビートルズよりも、ローリング・ストーンズよりも、儲けてしまった!

今日は、こんなジョーシキ破りのバンドから、マーケティングを学ぶ一冊をご紹介します。

著者プロフィール 著者は、ブライアン・ハリガンと、デイヴィット・ミーアマン・スコット。2人とも、グレイトフル・デッドの熱狂的なファン(=デッドヘッズ)で、ビジネスの世界でも大きな成功を収めている人物です。 そして、監修はコピーライターの糸井重里さんです。糸井さんは前書きに、この本はこれまでにない「マーケティングの本」で、「もしドラ」に負けないくらいの「ビジネス実用書」である、と書いています。

マーケティングの本というと、「ここをこうすると、あれがああなって、人はこう動く」といった、「大衆操作的」なものばかりが浮かぶと思いますが、この本で語られているのは、「大衆のほうが、自らマーケットを創っていくようなマーケティング」の手法なんです。

「大衆がマーケットを創っていく」というところで、ピンときた方もいるかもしれませんが、この本で語られているグレイトフル・デッドのマーケティングスタイルは、今、注目を浴びている、ソーシャルメディアのマーケティングに通じる部分が多くあるんです。

著者の2人、ブライアン・ハリガンと、デイヴィット・ミーアマン・スコットも、 「グレイトフル・デッドが、過去40年でやってきたことのなかには、今日に応用できる 教訓がたくさんある」と書いていて、そのマーケティング手法は、「最先端のマーケティング手法」「ウェブ時代のヒットの根本」として紹介されています。

グレイトフル・デッド・マーケティング

では、グレイトフル・デッドがどのようなマーケティングを行っていたのか。 具体的な話をしましょう。

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当時、音楽ビジネスの収益モデルは、「レコードを売る」ことが中心でした。 ですからミュージシャンたちは、新しいアルバムを作ったら、レコードの販売促進のためにライブツアーを行っていたわけです。ツアーの目的は、なるべくたくさんのレコードを売って、新作を“ゴールドディスク”や“プラチナディスク”にすることです。なぜなら、そうすることで、レコード店での「トップアルバムリスト」に入ることができ、 そうなるとレコードがますます売れるからです。 ※ ちなみに、ゴールド・プラチナディスクというのは材質ではなく、出荷枚数に応じて与えられる賞のことです(今でいう「オリコン○位」みたいな感じ)。

これが一般的な音楽ビジネスの収益モデルだったんですが、グレイトフル・デッドは、これを覆して、別のビジネスモデルで収益を上げていました。それがなにかと言うと、他のバンドのようにアルバムを販売するのではなく、ライブから収入を得ることに全力を注ぐという手法をとっていたのです。

CDが売れない現代の感覚では、ライブのチケットやグッズで収益を上げるというのは特に変わったビジネスモデルではないように思えますが、当時は、いわゆる「正解」のビジネスとはまったく別のことをしていた、ということを踏まえて下さい。

グレイト・フルデッドは、ヒットアルバムがない反面、アルバムヒット常連に匹敵する収益を上げていました。それは、アルバムではなく、ライブで稼ぐというアプローチでした。そしてその実現のために、ライブにおいては、他のバンドとまったく異なる「ファン体験」を創り上げていました。

たとえば・・

ブレイトフル・デッドのライブの姿

演奏する曲のセットをライブごとにぜんぜん違ったものしたのもそのひとつです。同じ曲でも、演奏の仕方を変えたり、アレンジしたりして、毎回違った「音楽体験」を、ファンに提供し続けました。 また、アルバムの販売促進ではなく、収益のためにツアーを行うわけですから、例外を除いてほぼ恒久的にツアーをしていましたし、ライブの内容にも、業界トップクラスの照明と音響システムを導入するなど、手をかけていました。

そうすることでファンたちは、他では味わえないような、パワフルでそこでしか体験できない経験に夢中になり、何度も何度もライブに足を運んでいくわけです。それこそ、何週間も何ヶ月も何年もツアーを追っかけて、続けさまにライブに参加するような、コアなファンができていったんです。

その他では、グレイト・フルデッドのツアーは、ライブ中の録音もOK、録音したテープは、コピーして友達に配ろうがどうしようが自由。楽曲も無料で聴き放題の状態にしていたそうです。そうすることで、クチコミでファンが広がり、ライブへの参加者や、きちんとサンプリングされた雑音のないテープの売上に繋がっていったのです。 クリス・アンダーソンが『Free』で書いていた、「フリーミアム」の効果に、彼らは30〜40年以上も前から気づいて実践していたと考えるとすごいですよね。

そんな内容が、この本の58ページくらいから詳しく書かれています。

まとめ

本書の全19章は、それぞれ、LESSON、CASE、ACTIONという3部で構成されています。 LESSONでは、当時、グレイトフル・デッドが実際に行っていたことの紹介と分析。CASEでは、現代のビジネスシーンでの成功事例(ケース)。そしてACTIONで、実際にビジネスにそのノウハウを反映させるならば何から手を付けるべきかという指南が書かれています。

丁寧に書かれているので、マーケティング初心者が読んでも面白いと思いますが、読書の効果が発揮されるのは、最低限のマーケティングの知識がある人だとおもいます。なぜ、当時、グレイト・フルデッドのやり方がうまくいったのか? 自分が持っているマーケティングに関する知識で読み解き、知恵を得てぜひ活用してください。

その一方で、バイオグラフィのように読んでも楽しめます。 ここからマーケティングに興味を持って学んでみるのもいいかもしれません〜。

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ

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