人それぞれの「認識のクセ」を知ることで対人関係がラクになる
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かつては飯塚さんも職場の人間関係で苦労されていたと書かれていましたが、具体的にどんなことに苦労されていたのでしょうか。
飯塚:人間関係で苦労していたのは30代頃のお話です。その時の会社はいわゆる「逆三角形型」で、当時私が一番下っ端で、周りは年齢も立場も上の人ばかりでした。
全体的な雰囲気として、自己保身的な感じで、陰口もよくありました。コンサルタントなのでクライアント向けにあれこれ資料を作るのですが、陰で「あの資料には何の価値もない」と言われていたり。自分の言動がどう巡り巡って誰に何を言われているかわからないような状態でした。
「この会社にいたければいたらいいし、辞めたければ辞めればいい」と上司に言われたときは、本当にショックでしたね。いまでもその時の光景が目に焼き付いています。今思うと人間不信だったと思います。当時は娘がまだ小さかったのですが、ただただ家族のためだけに仕事を続けていました。
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その状態をどう改善していったのでしょうか?
飯塚:あるところで、人間関係にまつわる外部の研修を受けるようになってから変わり始めた気がします。人的なネットワークができましたし、外部に出ることで自分を相対的に見られるようになりました。人それぞれみんな違っていて、違う考え方や価値観で動いているんだと思えた時に突破口が見えた気がします。
さらにいえば、当時参加した研修の一つで、この本のテーマになっている「iWAM(inventory for Work Attitude and Motivation:人間の考え方や物事の受け止め方の個性を測定するツール)」の考え方に出会ったんです。
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それ以降は人間関係での悩みはなかったんですか?
飯塚:嫌な上司とかはいましたけど、「ああ、この人はこういう人なんだな」と考えられるようになりました。ストレスに耐性ができてきたということなんでしょうけど。
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本書では「iWAM」の考え方を、人間関係改善のために応用しています。このiWAMについて、どんなものか教えていただきたいです。
飯塚:2001年にベルギーで生まれたもので、日本に上陸したのは2008年です。まだ12年くらいなのであまりメジャーにはなっていません。知る人ぞ知るという状態なので、これから広めていけたらいいですね。
正式名称を日本語にすると「職場における行動特性と動機づけに影響を与える要素」となるのですが、大きな特徴は「言葉」に注目する点です。私たちが使う言葉には、その人の考え方や感情が強くあらわれるものです。それらを分析して、自分がどんな風に物事を考えて、物事をどう認識する傾向があるのかを知ることができます。
iWAMの認識スタイルは48種類あるのですが、自分がどのスタイルをどれだけ意識していて、どれをあまり意識していないのかが定量的にわかるので、自分の特徴をつかんで、改善するところは改善するというアクションにつなげることができます。
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マネジメント側に向けて書かれた本なんですか?
飯塚:かならずしもそういうことではありませんが、マネジメントにも有効です。私はコンサルタントとして管理職向けの研修をやっているのですが、人材育成についての悩みはすごく多いんですね。育てないといけないのはわかっていて、そのための勉強もしているんだけど、うまくいっていないという。
こういう研修の場でも、この本で書いたようなiWAMの考え方を使っています。たとえばiWAMで分類される認識スタイルに「全体型」という全体を俯瞰したり物事を大局的にとらえるのに長けた認識スタイルがあるのですが、この部分が強すぎる上司は部下個々人の状況を掴むのが苦手だったりするんです。それで部下からすると「あの人は自分のことをわかってくれない」となってしまいやすい。
この「全体型」の対になっているのが「詳細型」という認識スタイルです。こちらは個々の状態であったり、物事の細かなところに気づくのは上手なのですが、やるべきことの優先順位づけが苦手だったりします。
これはどちらが良くてどちらが悪いということではなくて、人それぞれが物事を認識する時の「クセ」のようなものです。それがいい方面に出ることもあれば、悪く出ることもあります。
先ほどお話したようにiWAMでは、こうした「クセ」が定量的にわかるので、もし今自分の認識スタイルが仕事で悪い方向に出ているのなら、改善するための具体的な行動がとりやすいんです。今回の本も、自分の認識のクセを把握して、改善するところは改善していくというふうに使えるはずですし、部下のクセを把握してチーム作りに生かすこともできます。
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部下やチームメンバーのモチベーションを高めることの難しさも、マネジメントに関わる人は苦慮しているところだと思います。
飯塚:そこについてこの本が直接的に使えるのは言葉がけでしょうね。一人一人モチベーションになる言葉は違うはずですが、誰にどんな言葉が効果的かは、認識スタイルを知ることである程度わかります。
たとえば「現在重視型」という、過去現在未来という時間の流れの中で「現在」を特に重視する認識スタイルがあるのですが、この傾向が強い人に未来や過去の話をしてもあまり響きません。「今、何をすべきか」という観点から言葉がけをするのが効果的なんです。逆に未来を重視する認識スタイルの人に「今、何をすべきか」という言葉がけをしても効果的ではありません。
対人関係のストレスを軽減する方法とは
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同じものを見ていても、その人の「認識スタイル」によって受け取り方が違う、というのはよくわかるお話でした。ただ、場面や時間の経過によって認識スタイルは変化することがあるとも書かれています。このように揺れ動く他者の認識スタイルをどのように把握していけばいいのでしょうか。
飯塚:この本で言いたかったのは、個々人の認識スタイルを固定的に捉えないでいただきたいということです。自分を例にするなら、クライアントを相手にコンサルティングをしている時の認識スタイルと、部下と接している時の認識スタイルを意図的に変えています。
これはどんな人もそうで、家族と一緒にいる時の認識スタイルは、仕事の時の認識スタイルとは違うかもしれません。そして年月を経ることでも変化します。
「この人はこういう認識スタイルの人」と思うことで、人間関係に対するストレスを減らすことができます。しかし、それを固定的なものとしてとらえてしまうと、「この人はこうだから、言っても仕方がない、変わるはずがない」というレッテルになり、かえって、部下や自分の成長を阻害してしまう危険性もあります。人は変わっていくものという前提の上で、認識スタイルについて知っていただきたかったんです。
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人間には相性があると言われますが、本書の内容を踏まえてコミュニケーションをとれば、これまで「相性が悪い」と思っていた相手ともストレスなく付き合うことができるのでしょうか。
飯塚:誰かと相性が悪いという場合、二つのパターンが考えられます。「生理的にダメ」という場合と、コミュニケーションをあまりとっていない状態で相性が悪いと思い込んでいる場合です。
前者の場合はともかく、後者の場合は話してみたらそうでもなかったということが経験則的によくあります。もし、直接コミュニケーションをとっていないうちに相性が悪いと思い込んでいるなら、この本で書いた認識スタイルの考え方で対応できると思います。相手がどんな認識スタイルで物事を受け取って、どんな考え方をするかを把握することで、その人に合ったコミュニケーションの方法がわかるようになっているので、試してみていただきたいですね。
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今のお話にもありましたが、第二部では職場にいる様々なタイプの人の分類と、その対処法が示されています。個人的には、指示出しが雑な上司、丸投げする上司が苦手なのですが、こういう人への対処法を教えていただきたいです。
飯塚:感情面の対処の仕方と行動面の対処の仕方がありますよね。
指示出しが大雑把な人というのは、iWAMの考え方では「全体型」の認識スタイルの傾向が強いといえます。対人関係の感情面のストレスは、相手の行動が理解できないからこそ生まれるものです。つまり「どうしてこういう雑な指示出しをするんだろう」と、相手を理解できていないうちはどんどん怒りの感情がたまってしまう。
でも、認識スタイルの傾向を理解して「全体型の人は物事の細部について意識がいきにくい」と知ることで、少なくとも相手の行動のメカニズムについて納得できるわけで、そうすると自分の中で「あの人はこういう人なんだ」ということで気持ちの折り合いはつけられるはずです。
さらに、行動面も相手の認識スタイルを把握したうえで対処していけばいいと思います。細かいところがどうしても疎かになってしまうのが「全体型」の傾向としてあるので、そこは自分がフォローしてあげたり、大雑把な指示には細部について質問したり、相手を補完するように立ち回れればなおいいと思います。
私が人間関係でそこまで悩んだりすることがなくなったのは「あの人はこう考えるんだな」と客観視できるようになったことが大きかったんです。客観視することで相対化できるので。
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また、職場での人間関係についてよく耳にするのが「世代差」の問題です。若い世代が理解できないという管理職の声がよくメディアなどを通して聞かれますが、こうした問題も「認識スタイル」で解決することはできるのでしょうか。
飯塚:世代間ギャップにも色々な要因がありそうですよね。バブルを経験した世代とそうでない世代では考え方も物事の捉え方も違うでしょうし。正直わかりあおうとすると難しいと思います。
ただ、かならずしもわかりあう必要はなくて、「あの世代はこう考えるんだな」と分類して理解することはできます。自分だけの価値観で考えてしまうと理解できなくてストレスがたまるところですが、世代によっても人によっても考え方に特徴があるんだと理解することは、この本の考え方と矛盾しないはずです。
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本書をどんな人に読んでほしいとお考えですか?
飯塚:まず、タイトルそのままに「人間関係に悩む人」に読んでいただきたいです。あとはマネジメントと親和性が高いので管理職の方々ですね。最近パワハラが問題になることが増えていますが、これはまさに自分の中の価値基準でしか物事を考えていない人が増えているということですから、世の中にはいろんな人がいて、物事の捉え方も様々だとわかっていただくことは役立つのではないでしょうか。
また、人事担当の方々にとっても役立つ内容になったのではないかと思っています。この本で書いているのは、それぞれの違いを認めて一人ひとりの個性をどう生かすかということなので、ダイバーシティや人材マネジメントの話でもあるんです。
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最後に、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
飯塚:iWAMを前面に出してはいますが、心理学や脳科学、西洋哲学や東洋思想の話を盛り込んだり、マイケル・ジョーダンからドラッガー、宮本武蔵など古今東西問わず様々な人の話も差し挟みつつ人間関係についてできるだけわかりやすく解説したつもりです。
この本を通じて、お互いに個性を認め合える職場が増えていけば、多くの人がもっと仕事を楽しく感じられるようになったり、社会が明るくなっていくんじゃないかという青臭い気持ちを込めて書きました。読んでいただけたらうれしいです。
(新刊JP編集部)