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逆境のリーダー ビジネスで勝つ36の実践と心得

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逆境のリーダー ビジネスで勝つ36の実践と心得

本書の解説

経済だけでなく社会全体が変わりやすく、業界トップ企業であっても何かをきっかけにあっという間に没落してしまうような流動性が高まっている今、ビジネスの世界でリーダーの役割はいっそう重く、困難になっている。多くの現場でリーダーが直面するのは、逆境や達成が困難に思われる目標であり、「淡々と役割をこなしていれば合格」という立場はどんどん少なくなっているからである。

本書は「今の時代に求められるリーダーは、一国の存亡を一身に背負う戦国時代の武将のようなリーダー」だとして、逆境を跳ね返して成果を出すリーダー像を説く。

時に厳しい指摘あり、覚悟を試すような記述もあるが、マネジャーとして成長していきたいのなら、耳を貸すべき意見でもある。

決断する前に人の意見は聞くな

「ワンマン」や「独裁」といった言葉には、しばしばわがままさや、身勝手さのイメージがつきまとい、組織の中では忌避されがちだ。しかし、市場の変化が早い今、求められるのは決断と実行のスピードであり、そのスピードに立ち遅れないために、ある種の「独裁」はリーダーにはむしろ不可欠となる。

周囲に意見を求めること自体が悪いわけではないが、失敗した時に「自分だけが悪いのでではない」という逃げ道にもなる。まして、周囲からの反対意見が多いからやめる、ではリーダーの存在意義はない。

「話し合ってから決めるのではなく、決めてから周囲の意見を聞く。そして聞き入れる点があれば取り入れて責任は自分が負う」

現代のリーダーにはこうした「民主的独裁」とも呼べる素養が求められているのだ。自らリスクをとる覚悟があれば、独裁の誹りを受けたところで怖くはないだろう。

リーダーは「有言実行」だけでは足りない

自分でやると宣言したことを、宣言通りに実行するリーダーの姿は、部下やチームのメンバーに大きな勇気を与える。その意味で、リーダーは「有言実行」であるべきだ。

ただ、本書によるとリーダーは「これを成し遂げる」だけでなく、「これを、こうやって成し遂げる」と、プロセスまで公言すべきだとしている。そうすることで成功までのシナリオ全体を考えることになり、うまくいかない時のリカバリーにまで頭が及ぶ。プロセス全体がチームで共有されていれば、成功の再現性も高まるのだ。

大勢のゆるい味方ではなく、少数だが熱烈なファンを作れ

「どん底の時にも離れなかった人が本物の理解者」という言葉にあるように、逆境になると、これまで親し気な顔をしていた人が、手の平を返したように離れていく。

これは同じ組織で働く同僚であっても同じである。ならば、リーダーに必要なのは、いざという時に頼りにならない「ゆるい味方」ではなく、どんな時でも自分の味方になってくれる「熱烈なファン」だ。こうした人が周囲にいるからこそ、リーダーは軋轢を恐れることなく、チームを率いていけるのだ。

ここでは、今リーダーが持つべきメンタリティを紹介したが、本書はこれにとどまることなく、人材育成や戦略立案、組織力を最大化する秘訣など、マネジメントに必要とされるあらゆる要素が明かされる。

高度成長期やバブル期と比較して、リーダーの仕事はより複雑で、困難になっているのは間違いない。本書はそんな中でも成果を出すための、どんな職場でも通用する汎用性のある武器を与えてくれるはずだ。
(新刊JP編集部)

インタビュー

著者近影

――逆境のリーダー ビジネスを勝ち抜く36の実践と心得』についてお話をうかがえればと思います。大塚さんと言えばこれまで投資や資産運用についての著作が知られています。今回「リーダー」についての本を書いた理由を教えていただきたいです。

大塚: 直接のきっかけは、2011年から4年間、勤めている三井住友信託銀行で自分の出身大学の学生に向けた就職セミナーのスピーカーをやったことです。その時に「本当の意味で独自性のある仕事、付加価値の高い仕事にはえてして失敗がつきもの。となると失敗を許す風土のある会社でないと独自性のある仕事はできない。うちにはそれがあるから、ぜひ入って自らを鍛える道を選んだらどうか」という話をしたら、多くの反応をいただきました。

それならば、独自性のある仕事をどうやって形にするかというところも伝えたいと思ったんです。一人でできる仕事は限られていますから、おもしろい仕事をしようと思ったらリーダーを目指さなければいけませんし、リーダーになったら部下を率いないといけません。

だからこの本では、これまで自分がやってきたことを振り返りながら、自分なりのリーダー像を書いたんです。

―― 大塚さんご自身も、リーダーとして責任のある立場で長く仕事をされてきました。振り返ってみて一番の苦境や逆境はいつだったと思いますか?

大塚:普通に答えるのであれば、2000年以降は世界同時株安あり、ITバブル崩壊あり、厚生年金基金の代行部分の返上あり、リーマンショックありと、私のいる金融業界や資産運用の世界は常に逆風でした。

ただ、私のことをよく知る部下には「大塚さんには逆境はなかった」とも言われるんです。なぜかというと、逆境が本当の苦境に陥る前に先手を打ってチャレンジしたからだと。

それは私が三井住友信託銀行の企業年金事業のビジネスモデルを改革したことを言っているんだと思います。業界的に逆風続きだったとはいえ、ほとんどの人はまだ大丈夫だと思っていたやり方を一度壊して、再構築することの方が反対する人も多くよほど難しい。でも、それができたから新たな成長に入ることができた。そうした経験を通して得たものを、この本で伝えられたらと思っています。

―― 本書で書かれている「猫を集めて犬にする」とは独特な言い回しですが、猫的に勝手気ままな方向に向いた部下を、協調性を持った犬的に束ねるというところで、マネジメントの本質的な課題だとも感じました。これを実現するためにリーダーはどのような取り組みをすべきでしょうか。

大塚:はじめに「猫タイプ」の人間がどういう人間かをお話しますと、「何になりたいか」よりも「何をやりたいか」が先に立つ人です。我が道を行くタイプですね。

「何になりたいか」というのは、たとえば会社で昇進して「部長になりたい」というようなことですが、こういう人は昇進に響くという考えがどこかにありますからえてして失敗を恐れるんです。「何をやりたいか」が先に来るタイプだとその点は大丈夫なのですが。

新しい市場を生み出したり、新しいビジネスを作るといった独創的な仕事をする時に必要なのは後者のタイプです。じゃあどうやって両者を見分けるかというと、自由にやらせてみればいい。つまり仕事の障壁を全部取り除いて、本人の好きにできる環境を作ってあげるのですが、その代わりに失敗した時の責任は取ってもらいます。

そうすると、おもしろいことに「何になりたいか」の人間は、そもそも自分の好きに仕事ができる環境を喜ばないんですよ。失敗したら自分の責任になってしまうから。一方で、「何をやりたいか」の人は、自由にやらせると嬉々として取り組みます。

こうした特徴を持つ「猫タイプ」の人間をマネジメントしていくために、上司には「失敗を許す風土づくり」が必要です。「独創的な仕事」というのは言い換えれば「難しい仕事」ですから、失敗はある程度仕方がない。いかに思い切りよくチャレンジできる環境を作れるかが上司には求められるんです。

―― 部下がついてこなかったり、成果を出せない上司についてもうかがいたいです。

大塚:部下に手本を見せられない上司、責任を取らない上司でしょうね。

昔の日本の軍人に大山巌という人がいて、日露戦争で元帥陸軍大将を務めた人なのですが、部下には「お前に任せる、俺は口を出さないからしっかりやれ。責任は俺がとる」というタイプだったそうです。

こういうところに憧れて、自分のことを「大山巌タイプ」だという上司がいますが、ほとんどは「ニセ大山巌」で、部下が実際に失敗すると「俺はそんなつもりで言ったんじゃない」と、部下に任せるようなことを言ったのは自分なのに、責任を取ろうとしないものです。そして自分が先頭に立って手本を見せるわけでもない。こういう上司に部下はついていきませんよね。

―― かつてのような「俺について来い」的なリーダーシップではもう部下がついて来ないと言われます。今必要とされているリーダーシップについて、お考えを伺いたいです。

大塚:今に限らず、論拠もなく単に俺について来いというようなリーダーには人はついていかなかったはずですよ。表面的には従っているように見えても、面従腹背だったでしょう。ただ、日本が右肩上がりだった時期は、そんな上司がいても会社は潰れなかったというだけです。

しかし、今は多くの企業は常在戦場ですから、付加価値を出せない企業はやはり潰れてしまう。そんな時期だからこそ、上司は戦略とプロセスを見せて、この人についていけば大丈夫だと部下に納得させること、自ら手本を示すことが必要です。

あとは、これだけ変化の早い時代ですから、自分のチームや会社のビジネス自体がダメにならないとも限りません。そうなった時に、自分で生き残れるためのスキルだとか、人材としての市場価値をいかに部下につけてやれるかという点も、上司の重要な資質ではないかと思います。

―― 部下への接し方についてはいかがですか?近年は「ほめて伸ばす」が主流になりつつありますが。

大塚:ほめるなら結果ではなく、意図やプロセスをほめることです。なぜ成功したのかを正確に把握して言い当てないと、ほめられた方はうれしくない。特に成長意欲が強い人ほどそうです。

―― なるほど。では叱る時はいかがですか?

大塚:叱るからには、部下が何か失敗をしたわけですよね。私は、叱る時は「こうすればよかったんじゃないか」という正解を与えるべきだと思っています。そうじゃないと、叱られた方は「じゃあ自分がやってみろよ」と思うでしょう。少なくとも、正解を与えられない上司に対して「この人についていけば自分は成長できる」とは思いませんよね。

もちろん、上司だからといって100%正しいことが言えるわけではありませんが、叱る時には、改善策や正解を見せてあげることが大切だと思いますね。

―― 「人材は育てるものではなく、見いだし磨くもの」という人材についてのお考えも興味深かったです。この真意を教えていただけませんか?

大塚:努力や本人の取り組みでカバーできる部分はありますし、もちろん努力はしないといけないものですが、本人の気質はなかなか変わるものではないですし、発想力などは教えてもそう伸びるわけではありません。

スキルは教えて身につくものですが、「スキル」と主体的にビジネスに取り組む「ウィル(意志)」を兼ね備えたプロフェッショナルは育てられないというのが私の考えで、リーダーはそういう素質を持った人をまずは見出さないといけないと思っています。

―― 「真のPDCA」についても書かれていました。PDCAサイクル自体は一般的に採り入れられているものですが、大塚さんから見てうまくいかないチームやリーダーはどの部分に問題があるとお考えですか?

大塚:成果の出ないリーダーの多くはPDCAの「C」がまちがっているんです。ご存知の通り「C」は「Check(評価)」ですが、これをどうやっているかが問題です。

「P(Plan:計画)」「D(Do:実行)」の後で出た結果を、次のサイクルに繋げるために確認するだけでは不十分で、事前に立てた予測との違いに目を向けるのが本当のチェックです。

計画の段階であらゆることを考え抜いていたら、基本的に事前の予測と結果は、多少の誤差はあれ重なるはずで、そうならなかったとしたらなぜなのかを考えなければいけません。そもそも綿密な計画ができているなら、うまくいかなかった時のためのリスクシナリオも用意できているはずで、予測通りにならなかったらそれを発動するわけですから、結果としてそこまで大きな違いは出るはずがないんです。

もし自分のチームで成果が出ていないなら、「C」がうまくできないことで、PDCAではなくPDPDの繰り返しになってしまっていないかを確認していただきたいですね。

―― 仕事で思ったような成果が出ていないリーダーにさらにアドバイスできることがありましたらお願いします。

大塚:一つは「適材適所」がきちんとできているかです。プレーヤーとして優秀だった人も、リーダーになるとこれができない人が多い。特に組織が大きければ大きいほど人材の配置は難しくなるので、自分のチームがうまくいっていないなら、まずここを見直してみるべきだと思います。

二つ目は「アンテナ」ではなくて「レーダー」を持つこと。つまり、顧客のニーズを先回りして掴む努力です。すでに顕在化しているニーズをアンテナでキャッチするだけなら、体力がある企業が勝つに決まっています。でも、多くのリーダーは小規模な組織で、大きな相手と戦わないといけない状況ですから、アンテナではダメなんです。

三つめは、たとえ少数であっても熱烈な支持者を作ること。普段は仲間のような顔をしている人も、大抵は劣勢になると逃げていくものです。どんなに苦境に陥っても味方になってくれる支持者を何人作れるかが、リーダーとして成功できるかを分けるのだと思います。
(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

  1. はじめに
  2. 1章 強い組織はリーダーで決まる

    ~リーダーマインドがいかに強い組織に必要か~
  3. 2章 勝てる事業戦略の作り方

    ~小が大を制するには~
  4. 3章 人を見極め、磨き、配置する

    ~組織力を最大化する~
  5. 4章 勝てるマネジメントの極意

    ~日々の戦いで大切なこと~
  6. 5章 真のリーダーになるために

    ~リーダーとして成長し続ける心構え~
  7. おわりに

プロフィール

大塚 明生

三井住友信託銀行 顧問 1953年山口県生まれ。 1976年京都大学法学部卒業、住友信託銀行に入社。 1996年に年金信託部へ異動して以来、日本の企業年金マーケットのトレンドを牽引してきた。
2011年取締役副社長に就任、2015年より三井住友信託銀行年金業務管掌顧問。
2001年『戦略的年金経営のすべて』(金融財政事情研究会)を上梓し、2007年までに投資・金融に関する専門書を計5冊発表。
2007年にはグリニッチ・アソシエイツ(米国)のアニュアルカンファレンスでスピーチを行い、2012年にフィナンシャル・タイムズでも大きく紹介されるなど、国内外で注目を集める。