『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズがついに完結 作者に聞く、難産だった最終巻への想い
シリーズ累計640万部突破し、社会現象にもなったビブリオミステリ『ビブリア古書堂の事件手帖』。2014年末に第6巻が出版されて以来約2年間の沈黙を破り、ついに“最終章”となるシリーズ7作目『ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~』「仕事ができるやつ」になる最短の道)(メディアワークス文庫、KADOKAWA刊)が2月25日に出版された。
これまで様々な古書が登場してきたこのシリーズのラストを飾るのは、誰もが知るイギリスの劇作家、ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)だ。ところが、作者の三上延さんにとっては、“世界文学界の巨人”ともいえるシェイクスピアと対峙することには相当の“苦労”が伴ったようだ。
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――この2年間、『ビブリア古書堂の事件手帖』ファンの皆さんは待ちわびていたと思います。
三上:本当は昨年がシェイクスピアの没後400年だったので、夏くらいに出せればと思っていたのですが…。まったく間に合わずにこの時期になってしまいました。
――本作の執筆に着手したのはいつ頃だったのですか?
三上:書き始めたのは、昨年の5月くらいですね。ただ、途中で後半の展開を大きく変えないといけなくなってしまって。
当初のプロットでなんとかいけないかといろいろ当たったのですが、シェイクスピアの本詳しい古書店さんに相談しても、「それはないね」と言われてしまって(苦笑)、色々調べ直してプロットを組み直しました。
――本作ではシェイクスピアの本がこの物語のカギを握りますが、シェイクスピアを題材に選んだのはどのタイミングでしたか?
三上:実はかなり前から最終巻はシェイクスピアで行こうと思っていて、6巻を書く前くらいからアイデアはありました。
というのも、古くて珍しい本であり、なおかつ『ビブリア古書堂の事件手帖』のストーリーに当てはめられるもの、あとは皆さんがよく知っている物語というと、シェイクスピア以外になかったんです。だから、ちょっと恐ろしいけれど、シェイクスピアでやってみるかと(笑)。
ただ、資料はどうしても英語のものが多くなって、日本語の資料を集めるだけ集めて、分からないところについてはあちらの資料を引くという感じでした。
――では、本作は最後にして最大の難所だったのでは?
三上:そうですね。『ビブリア古書堂』シリーズは後半になるにつれて難しさが増していったのですが、書き上げるという意味では、この7巻目が一番苦労しました。
■「古書を取り上げる」という制約に苦しんだ
『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズの特徴は、古書や作家が謎を解き明かすためのカギになっていることだ。
今作においては、シェイクスピアの本がそれに当たる。そこでは、“今から400年以上前に書かれた本”だからこそのエピソードが登場するのだが、そこではストーリーの面白さと同時に、人から人へと受け継がれていく古書の奥深さを感じることになるだろう。
では、三上さんはそんな物語をどのように生み出しているのだろうか?
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――物語のプロットを考えるときは、まずストーリーを先に考えてその上で本を当てはめるのですか? それともまず本を探してそこにストーリーを肉付けしていくのでしょうか。
三上:両方ですね。今回の場合はシェイクスピアをゴールにすることが決まっていたので、そのストーリーにはまる戯曲であること、読者が分かりやすいという点を踏まえて、『ヴェニスの商人』と『ロミオとジュリエット』を選びました。
――ミステリを作る上ではかなり制約が大きい方法を取られていますよね。
三上:そうですね。だから毎回苦しみました。特に今回は専門家の方にお話を聞く中で出てきた問題点を解決しないといけないこともありましたから、とても難しかったです。
ただ、今までも、そういうことは何度かあったので切り抜けられました。
――本作で本編は完結となったわけですが、これからはスピンオフ作品を執筆されるとか。
三上:それは考えています。ストーリーが主人公の大輔の視点に限定されてしまっていたので、その裏でビブリア古書堂では何が起きていたのかが語られてもいいのではないかと思ったんです。
例えば、坂口夫妻についてはスピンオフで書くことを決めていて、子どもが生まれているという設定があるので、絶対に何か起きているだろうと(笑)
実は最終巻でも、これまで登場した人物のうち、志田か坂口夫妻のどちらかを必ず登場させようと思っていました。志田については物語にからむ形で出ていますが、坂口夫妻はそこまで文量を割けなかったのと、子どもが生まれたばかりで動きまわるのは変だなというところで今回は出てきていません。
だから、スピンオフで思いきり彼らのことを書きたいと思っています。