プロローグ: 私は奇跡という言葉が好きではありません
第1章: 窮地に立たされたユニバーサル
第2章: 金がない、さあどうする? アイデアを捻り出せ!
第3章:万策尽きたか! いやまだ情熱という武器がある
第4章:ターゲットを疑え! 取りこぼしていた大きな客層
第5章:アイデアは必ずどこかに埋まっている
第6章: アイデアの神様を呼ぶ方法
第7章: 新たなチャレンジを恐れるな! ハリー・ポッターとUSJの未来
エピローグ: ユニバーサル・スタジオ・ジャパンはなぜ攻め続けるのか?
――森岡さんが2010年にP&GからUSJに転職した理由からお聞かせ願えますか?
森岡:USJの代表取締役CEOであるグレン・ガンペルとの出会いがきっかけとなりました。 私は大学を出てP&Gに入社した時から「自分の能力を高める経験を加圧して積めるかどうか」が、 会社選びの一貫した基準でした。 それと全く同じ理由でUSJに転職したのです。 3年前の38歳だった私にとって、自分の成長カーブを更に高める場所として、 グレン・ガンペルのいるUSJという場所がとても魅力的に思えたからです。 また、P&Gのような大企業ならではの整った人材やシステムに頼るのではなく、 USJのような甚だ未完成の会社で自分の本当の力を試してみたかったというのも本音です。
――もともとエンターテインメント業界に造詣が深かったのでしょうか。
森岡:いわゆるビジネスとしてのエンターテイメント業界の経験も知識も皆無でした。 まったく新しい畑に飛び込んだのです。 ただ、エンターテイメントをこよなく愛する1消費者としての特性はかなり持ち合わせた人生を送ってきました。 私は凝り性で趣味は多彩で、仕事は超効率的にこなして、 プライベートは家族や個人でものすごく充実したエンターテイメントライフを送ってきましたので。 テーマパークもものすごく好きで、USJに入社するまでに世界の主なパークは全て制覇していました。
――映画主体からエンタメ主体へ、 テーマパークの持っている軸を変えるということはUSJの経営において大きな変革であったと思いますが、 いかにして社内の声を調整したのですか?(反対の声などはなかったのですか?)
森岡:調整しようとしていたら実現できなかったと思います。 衝突や嫌われることを恐れずに突破しようとしたからこそ実現できたと思います。 実際、私の全職責をかけて全責任を取る覚悟で、突破するしかありませんでした。 日本人がよくやるゴニョゴニョした根回しは、これほどの大方針転換の場合は無力だと思っていました。 何故なら、結果が出るまで誰にも答えがわからない中で、 結局は誰かがリスクをとって進むべき道を明確に指し示し、断言するしかないのですから。 私の覚悟と能力を買って支えてくれたグレン・ガンペルの存在が大きかったです。
――この3年間でUSJは大きくV字回復しましたが、それまでのUSJに最も欠けていたものはなんだと思いますか?
森岡:消費者の価値に繋がらない「まちがったこだわり」から会社を救うマーケティングのリーダーシップが欠けていたと思います。 どれだけ従業員が誠実に努力しても、こだわるポイントが消費者のニーズからずれていては、ビジネスの結果は実りません。 消費者を徹底的に深く理解し、全ての経営資源を、消費者価値を高める最も戦略的な1点に集中させることこそ、マーケティングの使命だと考えています。 それを断行するのは相当大変だったのですが、新参者で過去とのしがらみが全くない私だからできたのだと思います。
――魅力的なアトラクションを次々と生み出していった森岡さんですが、アイデアを考えるときに使っている物や場所はありますか?
森岡:もっとも大事にしているのは、パークを歩くことです。 人間の脳は、その文脈に置くことでより高いパフォーマンスを発揮すると私は信じています。 テーマパークのアイデアを考えるべき文脈は、テーマパークをゲスト目線(消費者目線)で歩くことです。 その次に、パークを歩きながら他の多くのゲストの表情を観察分析することです。 私はもちろんタダでUSJに入れるのですが、消費者目線を大切にするためにしょっちゅう自腹で家族6人分の入場料を払ってパークを歩いています。 よく「どうしてそんなに頻繁に自腹でチケットを買うのですか?」と驚かれますが、私としては、値段に見合う価値があるのかを理解するのに、自分で払わずに一体何がわかるのだろうと逆に不思議に思っています。 徹底的に消費者目線です。 なので41歳の私には、年齢や性別的に抵抗がある様々なゲームやアニメなども、本気で消費者目線で体験することを欠かしません。 あとは、お風呂ですかね。 風呂の温度をめちゃくちゃ熱くします。 10分も入ると気が遠くなってやばいのですが、気が遠くなる前にアイデアを閃こうといつもよりも必死になれます。 そんなパワータイムを設けたりしていますが、健康に悪いかもしれませんので真似はしないで下さいね。
――テーマパークとしてディズニーランドと比較されることがよくあると思います。そのことについてはどうお考えですか?
森岡:とても光栄です。 USJにとっても見習うべきことが多い素晴らしいパークで、大変レスペクトしています。 本書の中でも白状していますが、私も家内も実は大変なディズニーのファンです。 おそらく世界の消費者の中で最も東京ディズニーリゾートを深く理解している一人だと思います。 加えてマーケターとしての私は、彼らが彼らであるがゆえにできることも、できないこともよくわかるのです。 いずれにしても、3万円の川(交通費・宿泊費)のおかげで直接の激しい集客競合はない両パークですので、共存共栄が可能です。 それぞれがそれぞれの持ち味を活かして、日本国のためにもっともっと日本人を元気にできれば素晴らしいと思っています。
――森岡さんが人を評価するときに、どのような点を重視しますか?
森岡:「リーダーシップ」と「戦略的思考力」の2つです。 私はP&Gではヘアケアのビジネスを伸ばしなら、同時にP&Gマーケティング大学の校長を長くやっておりました。 なのでマーケティングの知識などは後からいくらでも身につけることができることを知っていますし、どう教えて身につけさせるかも知っています。 優秀なマーケターになるためにも、優秀な経営者を目指すにも、基本となる素養はその2つの能力だと考えています。
――本書を読んで、森岡さんに対して武闘派のイメージがついてしまったのですが、実際の森岡さんの性格を自己分析するとどのようになりますか?
森岡:戦略好きで、たぶん武闘派なんだと思います(笑)。 子供のときのあだなは「ブラック・ジャイアン」、大人になってからのあだなは「インテリ・マフィア」とか「ダース・ベーダー」だったりします。 本人としては、政治やお世辞は上手くないですが、ビジネスの結果だけにはこだわって生きてきました。 そもそも人に好かれようと思って働いていませんので、自分が正しいと思えることであれば喜んで「嫌われる」ことを厭いません。 ただ、「個」を越えて「公」の利害を優先して動くのがリーダーだと考えているので、部下や周囲に対しては「フェア」に接することを心がけています。 馬力をかけて働くスタイルではありますが、今のところはおかげ様で一度も直の部下を病気にしたことはありません。
――2014年後半にオープン予定の「The Wizarding World of Harry Potter」、これはどんなアトラクションなのですか?
森岡:世界最高のテーマパーク・エンターテイメントの結晶です。 私は2010年6月に米国オーランドに建ったこのプロトタイプ(試作モデル)を初めて見て、何としてもこの素晴らしいテーマパークを日本の皆様に見せたい!!と決意したのです。 待ちきれない方々のために本書の中にかなり突っ込んだ記述で様々な見所やお宝情報を紹介しています。
――今後、USJで仕掛けていきたいことがあれば教えて下さい。
森岡:ハリー・ポッターの後にも、世界最高のエンターテイメントを続々と計画しています。 また大阪のUSJだけでなく、エンターテイメント会社として成長するための大きなバットを振っていきたいです。
――本書をどのような人に読んで欲しいとお考えですか?
森岡:こんな方々でしょうか。
・革新的なアイデアを生み出せるようになりたいと思う人。
・価格を下げることでしか売上を維持できないことに悩んでいる人。
・仕事への向き合い方にマンネリ感を感じている人
・ハリー・ポッターが好きな人
・テーマパークに興味がある人(USJのファンはもちろんです)。
――このインタビューの読者の皆さまにメッセージをお願いします
森岡:この本は、昨年10月半ばから11月の6週間の間に、私の全てのプライベートの時間を費やして、一言一句の全てを1人で書き上げました。 書くプロではない私ですので、オシャレで軽妙には書けていないかもしれません。 しかし私が自分の思考を他人の脳を介さずに書いていますので、その内容、私が書きたかった情熱やメッセージは、よりダイレクトに読者の皆様に届くはずだと信じております。 読み終わったときに、アイデアの神様を呼ぶ方法が、読者の皆さまのその後のプロ人生にポジティブな変化を起こすことを願っています。 読み終わったときに、USJやテーマパークが読者の皆様にとってより身近で楽しい存在になることを願っています。
1972年生まれ。神戸大学経営学部卒。 96年、P&G入社。日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、 ヘアケアカテゴリー・アソシエイトマーケティングディレクター、ウエラジャパン副代表などを経て、 2010年にユー・エス・ジェイ入社。革新的なアイデアを次々投入し、 窮地にあったユニバーサル・スタジオ・ジャパンをV 字回復させる。 12年より同社チーフ・マーケティング・オフィサー、執行役員、本部長。