さとり世代のトリセツ
- 定価:
- 1400円+税
- 著者:
- 喜多野正之
- 出版社:
- 秀和システム
- ISBN-10:
- 4798043524
- ISBN-13:
- 978-4798043524
著者インタビュー
4月に入り、大学を卒業したての新入社員たちが入社してきた会社も多いだろう。
世代が違えば、価値観も違うもの。自分たちの世代の考えでは考えられないような言動を取られることもあるはず。
そんな彼らをどのように戦力にしていけばいいのだろうか?
小中高校対象の個別指導塾を経営する喜多野正之さんは、子どもや若者たちと普段から接する中で培った「さとり世代」との付き合い方を『さとり世代のトリセツ』(秀和システム/刊)という一冊の本にまとめた。
読めば「みんな同じように苦労しているんだな」と思うという本書。「さとり世代」に見受けられる87の行動を取り上げ、その対処方法が書かれているので、上司・先輩や人事担当者は一読すべきだろう。
今回、新刊JPは喜多野さんにインタビューを行い、本書についてお話をうかがった。
(新刊JP編集部)
■“手ごわい”さとり世代新入社員、どうすればいい?
― 『さとり世代のトリセツ』についてお話を伺いたいと思います。まずは、「さとり世代」に見られる特徴についてお聞かせ下さい。
本著で取り上げている「さとり世代」とは、「ゆとり教育」を受けてきた世代で、概ね今年28歳前後を先頭にする世代のことです。私は学習塾を12年前に開業した時の生徒たちが、この先頭の年代に該当するのですが、まず「気力が無い」「感動が無い」「諦めが早い」という傾向にあります。
また、「ゆとり教育」の元での学習量は、教科書ベースで言えば、受験戦争と呼ばれていた全盛時(昭和46-48年生まれ)の半分くらいにまで減少しました。
このように「勉強しなくてもいい」傾向があったと思います。だから、何かを成し遂げるにあたって、遠回りの努力も必要になるものですが、彼らはそういったことをしないんです。
― 常に最短距離で行こうと考えているのですか?
ラクをしたいという傾向は伺えるのですが、最短距離で行こうとするワケでもなさそうで、結局は何もしてないんですよ。分からない事はインターネットで調べれば良いという考えなのでしょうけども、いつでも調べられるから逆に調べないような現象になっています。
ただ、社会全体がそういう世代を生み出してしまったと解釈したほうが健全なわけで、彼らが悪いわけではないんです、と、考えた方が良さそうなのです。
― 特にパソコンやインターネットが子どもの頃からあって、いつでも情報にアクセスできる世代ですからね。
それは一つ大きな特徴でしょうね。学習塾を開いたその頃は、授業をするのが怖かったですよ。今日はどんな謎めいた行動を目の当たりにするのか、という恐怖です(苦笑)。そして今、当時の彼らが成長して、新卒で採用している新入社員たちの世代に差し掛かってきたワケで、「ついに来たな」という感覚です。覚悟はできていましたが、やはりその当時と同様の恐怖感はありました。新卒採用は2009年から始めましたが、この世代を戦力化しなければいけない、という強い使命感を持って、新卒採用を行っています。
ちなみに(新卒採用開始)当初はほぼ全員3年未満で離職だったのが、今は離職率が1割くらいまで減りましたので、特に中小企業さんにそのノウハウを伝えることができればという想いはあります。彼らもキチンと育成できれば、立派な戦力になりますから。
― 最初にさとり世代の人たちが入社してきた際に、「これはびっくりした」というエピソードがあれば教えていただけますか?
会社の新卒1期生の人たちでまず驚いたのは、入社式に来ない。
― 入社をするのに、入社式に来ない。
4月1日は入社式をしたあとに研修の予定だったのですが、研修に合わせて出社するんです。大学の入学式に出ないくらいのノリですね。きっと(苦笑)
― エイプリルフールですし、冗談かと思いますよね。
最初は冗談だと思いますよ。ナイスジョーク!と思っていたのですが、本気でした。研修が午後5時に終わって、その後懇親会をやる予定だったのですが、そこで終電の時間を調べ始めて。「何時に終わりますか?」と聞いてきたので「2、3時間くらいだよ」と返すと、「終電は気にしなくて大丈夫ですね」と言う。この質問は一体なんの冗談だろうと。
― 本書に書かれている「さとり世代」は、喜多野さんが今まで接してきた子たちをモデルにしているのですか?
ベースは私の会社の新入社員ですね。また、他の会社の社長であったり、人事の方々にも聞きました。「こういうケースありますか?」「ああ、あります!」みたいな感じで。でもこういった状況は中小も大手も変わらないようです。以前は私が採用活動の一環で大学の合同説明会に参加したりしていたのですが、他の会社のお話も聞いても同じだということが分かりました。
大手だから特別意識の高い新入社員が来るというわけではありませんし、逆に大手の方が離職する率が高いようにも感じ取れましたね。これは肌感覚ですが。
― 「さとり世代」にどのようなアプローチをすればいいのでしょうか。
他社さんから相談されたときに、「『週刊少年ジャンプ』を読んでください」とアドバイスさせていただいています。「友情・努力・勝利」というキーワードがありますが、組織でもこれらの要素は大事ですよね。ちなみに私の会社では、入社までに『週刊少年ジャンプ』のコミックスを読んでくるというのが習わしです。
最近であれば『ONE PIECE』や、スポーツもので『スラムダンク』や『キャプテン翼』とか。そして、必ずチームワークの大事さや目標に向かうことの重要性にフォーカスすることを意識させて読ませます。そうすると、ふんわりと手を握ったような感じになるんですよ。共通認識というか、認識の基準みたいな「軸」が定まります。
― 彼らに一番響く言葉は何でしょうか。
一番というのは難しいですね。ただ、どうしても世代で括られて「ゆとり世代やさとり世代は…」と言われてきているので、「君が悪いのではない、時代が悪かっただけだ」ということを伝えることが大事だと思います。彼らに責任を押し付けてはいけないんです。
■さとり世代を戦力化するために必要なものとは?
― ここからは上司や先輩たちの「さとり世代」との付き合い方についてお聞きしたいと思います。まずは彼らが言っていることに対して、どの程度耳を傾けるべきなのでしょうか。
もう全力で耳を傾けるべきです。受け入れるかどうかは別にして、「なるほど」と話を聞いてあげてください。彼らの主張をちゃんと聞いて、ちゃんと言ってくる姿勢を褒めるんです。
― 彼らの話を受け入れるかどうかは別、というのはどうしてですか?
ほとんどの場合、その意見や主張が「誰のためになるのか」というところまでいってないんです。もちろん、100%自分のための主張であればいいのですが、自分のためにもならないんじゃないかということもあるので。私はその場合、「誰が得するの?」ということを聞きます。
― そうすると、「あれっ?」となる。
「うーん」っていう感じになりますよね(苦笑)。良い話をしたはずなのに、全く響いてないという意味で、こっちが「あれっ」となります。
― 「さとり世代」の社員の心をつかむために、会社全体で取り組むべきことはありますか?
彼らの趣味に付き合うことも大事かなと思います。例えば、コスプレの話をしてくる社員がいたので、自分も勉強しました。普段は仕事上の付き合いになりますけど、彼らはあまりそこを求めていないんです。だから、彼らの得意分野で共有できるものを少しずつ増やしていこうと。
あとは、いちいち評価をしてほしいというタイプもいますが、そういう子にはちゃんと毎日「いい仕事をしたね、特にこういう点が良かった」と声をかけたりしています。ただ「いい仕事をした」だけの口先だけの対応では見透かされるのでダメです。
― ちゃんと見てあげているということを伝えるわけですね。
そうですね。これは我々が学習塾という仕事を営んでいるからかもしれませんが、ちゃんと見て、ホメるのが得意なのです。技の一つに「未来承認型のホメ」があります。今は何もできていないけれど、近い将来「こういうことが出来るようになるよ」、「それってすごいよ」、というホメ技です。
― 褒めてあげて次のステップに進めてあげる。
その人の未来像を褒めてあげるんです。もともとは生徒に教えるためのスキルで、「今は単語を一個覚えるのに何分かかるけれども、全て単語を試験までに覚えたら20点くらいは取れるよ。いままでは単語だけだと5点しか取れなかったけど、これで15点プラスじゃん。すごいなあ」みたいな(笑)。まだ点数は取っていないんですが、取った未来の姿を褒めるという技ですね。
― これをやればほぼ乗ってくる。
そうですね。乗らない子はいません。反応が薄くても嬉しさは感じているようです。まあ、これは塾の生徒の話で、若手社員に全く同じようにしませんけども(苦笑)
― 本書の中の「親に休みの連絡を入れてもらう」という項目は驚きました。
これは実話ですからね。他の企業さんにも聞いてみたのですが、やっぱり同様の事例が沢山でてきました。若手社員の「あるあるネタ」になっているようです。
― また、「会議の準備・段取りが悪い」というのは、新人であるならば誰もがぶつかる壁だと思います。
これは2、3回やっても同じことを繰り返すという意味ですね。この会議はプロジェクターを使うことを分かっているはずなのに用意していないとか、資料を印刷していないとか。
ただ、そういうことがあっても無下に怒ってはいけません。毎回指示を出しているとなかなか成長しないので、会議の前になったら相手に「今回の会議に必要なものは?」と質問をして、準備に対する認識を上げるんです。それを元にマニュアルを作ってもらうというやり方もいいでしょう。
― それに本書を読んでいると、「さとり世代」は非常に自分の欲望に対して合理的に動いているという印象を受けました。とても効率的ですし、最短距離で進もうとする。上の世代が「さとり世代」から学べることはあるのではないですか?
うーん、彼らそのものから学ぶよりは、彼らと接することで学びを得ることはたくさんありますね。はっきり物事を言ってはいけないとか、時間の感覚が違うとか。それに相手の話を聞くことも大事です。自分自身を鍛えているつもりでその世代に接すると、実りがあるように思います。
― インタビューの冒頭でもお話が出てきましたが、喜多野さんの会社では当初ほぼ100%だった離職率が、今では10%にまで減少した、と。この決定的な要因はなんだと思いますか?
コミュニケーションの頻度だと思いますね。まだ仕事に慣れていない新入社員はへこみがちなところがあるので、「どうしたんだ」と聞いてあげる。「何でもないです」と返ってきても「そんなことはないだろう」と言ってはいけません。彼らの言うことをまずは受け止める。「何でもないのか」とオウム返しのように言うんです。そこから、周囲を引き合いに出して「あいつも辛いと言っていた」と言いながら少しずつ話していくと、だんだんと心を開いてくれるんです。君だけじゃないよ、と。
本心としては「早く言えよ」なんですが、相手を受け止めるリアクションをしないと心を開いてくれません。コントをやっているようなつもりで接するといいと思います。
ただ、とにかくコミュニケーション頻度ですのでその部分は覚えておいてほしいですね。
― 本書をどのような方に読んでほしいとお考えですか?
若い世代の扱いに困っているビジネスパーソンの皆さんに読んでほしいです。他人は変えられないですが、自分を変えることはできるので、後輩や部下の指導はもうコントだと思ってやりましょう(笑)。
「さとり世代」の接し方は視点を変えればかなり楽になると思います。「ああ、こういうケースよくあるな。分かる」と思いながら読んでもらえれば、だいぶ胸がスッとするのではないかと思います。
それと、読みきったら、ぜひ部下や後輩にもこの本を渡して読んでもらうといいかもしれません。上司や先輩が何に悩んでいるのか少しは分かってくれるはずです。
― では最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします。
私自身も社員の育成には大変苦労してきましたし、これからも苦労していくと思います。でもこれは私だけの戦いではなく、皆さんと共に戦うものだと思っているので、もっと楽に勝てるように協力して戦っていきましょう。
また、今後、セミナーなどもどんどん開いていく予定です。企業の人事担当者向けに、事例を踏まえて新入社員との接し方について語りながら、「さとり世代のトリセツ会」みたいなものも作っていきたいと考えています。ぜひよろしくお願いします。