――『儲けることばかり考えるな!お客様が涙で感動する仕組み――売上150%アップは当たり前 住宅販売全国1位の秘密は「皆生感動システム」』についてお話をうかがえればと思います。まず、本書をお書きになった動機からうかがえますか?
五嶋:僕が経営している「リアンコーポレーション」で実践している「皆生感動システム」が、思ったよりもお客さんや関係する方々に喜んでいただけたということが最初にあります。そんなに喜んでもらえるなら、社外にもっと広げて、いずれは「業界のスタンダード」になればいいなということですね。
ただ、「ノウハウの提供」にあたるので、この本を出すにあたってスタッフが嫌がったのは確かです。住宅の営業というのは、1人年間6~7棟売れば合格点という世界なのですが、僕たちのノウハウを使って年間60棟以上売れたという実績もあります。それをなぜシェアしないといけないのか、という声はありました。
―― 住宅を年間60棟以上売るというのは、確かにものすごい成果ですね。
五嶋:確かにすごいことなのですが、そのノウハウを僕らだけで特権的に持っているよりも、世の中に広めて、工務店さんだとか不動産会社だとか、この業界のスタンダードにする方が「やりがい」は得られます。そういうことで、本の形にしてまとめたというのが動機ですね。
―― となると、読者としては「業界」の方々を想定されているのでしょうか。
五嶋:業界の方々もそうですし、やはりこれから家を建てようと思っている方や住まいを選ぼうとしている方々にも、不動産の「目利き」をしていただくために読んでいただけたらいいなと思っています。
―― リアンコーポレーションのノウハウを「業界のスタンダード」にしたいとおっしゃっていましたが、今の「スタンダード」とはどのようなものですか?
五嶋:たとえば、賃貸の物件を探して不動産屋さんに行きますよね。そうすると担当者が出てきて、こちらの要望を聞いたら間取り図を書いた紙を3枚くらい並べます。そして、「どれにしますか?こっちの物件は人気なので、今日にでも決めてもらった方がいいですよ。明日まで残ってないと思います」と。やることといったらこれだけです。
賃貸だけでなく、土地を買う時も基本的には同じです。何千万円の買い物なのに、平気で「明日まで残っているかわからないから今決めろ」ということを言ってくる。こういうのが今の「業界のスタンダード」なんです。これを僕は間違っていると思っています。だって、住んでみないとわからないことってたくさんあるんですよ。近くに騒音を出す家があったりとか。
―― 不動産業者は土地の売買の時点では、そういう情報をお客さんに説明しないのですか?
五嶋:説明しないというよりも、不動産業者も周辺の情報までは知らないんですよ。ただ、土地にしても不動産にしても「早く転がした方が売上になる」という考えがあるのは確かです。手早く決めてもらって契約書を書いてもらって、重要事項説明書の内容を説明するだけで売買価格の「3%+6万円」の媒介手数料が入るわけです。こんなアコギな商売はありません。こんなことがいつまでも続くわけがない。
だから僕らは、不動産の売買をする時、そこに住むにあたって必要な施設、たとえば耳鼻科、小児科、歯科といった各病院だとかコンビニ、銀行、郵便局、学校、バス停の場所と時刻表など、あらゆることを調べ上げて、全部お客さんに教えます。もちろん近所にどんな人が住んでいるかも全部僕らが訪問して調べる。そのうえで金額を出してお客さんに選んでいただきます。調べる分僕らの仕事はすごく増えますが、絶対にお客さんのためにはなる。それなら、そちらを「業界のスタンダード」にした方がいいはずです。
――今おっしゃったような、顧客や従業員の満足度を高めるためのノウハウが、本書で明かされている「皆生感動システム」です。このシステムについて改めて教えていただいてもよろしいですか?
五嶋:「皆生感動システム」というのは、自分たちの仕事に関わる人みんなが感動でつながっていくというシステムです。
売上が伸びている時は忘れられがちですが、従業員が泣いているかもしれませんし、お客さんが全く満足していないかもしれません。あるいは業者さんや職人さんに払うお金を叩きに叩いているかもしれません。たとえ売上が伸びていてもこういう会社は続きません。なぜわかるかというと、僕もかつてはそちら側にいたので。
―― そのあたりの五嶋さんのこれまでの道のりは、本の中で非常に印象的に書かれていました。
五嶋:当時はやりがいを感じるような仕事は全然していませんでしたね。ただただ私利私欲のためというか、お金のため、売上のために働いていましたし、部下に「売上が立たないなら寝ないで働け」というようなことも言っていました。でも、そういうやり方はもって3年か4年です。
それなら、細くても長く続くように、従業員がやりがいや生甲斐を感じるような仕事にすべきだと今は思っていますし、お客さんには喜びと感動を嘘偽りなく提供したい。それに、実際に家を作る職人さんにも、手がけた仕事を誇りに思ってもらいたいんです。たとえば、職人さんは、自分の建てた家を見ないんですよ。
―― 建てる作業をしているのに「見ない」とはどういうことですか?
五嶋:彼らはある現場が終わったらすぐ次の現場に行ってしまいますから、自分の作業の結末を後から見返すことはないんです。もっといえば、自分が今誰の家を作っているのかもわかっていません。これではやりがいもプライドも持てないでしょう。これも一つの「業界のスタンダード」なんです。
いい家を建てるためにも、やはり職人さんたちには、自分の建てた家が誰の家で、どんな風に仕上がったのかを知るべきです。そこで、僕たちが始めたのが、お客さんと初めて出会った場面から家が建つまでの工程の全てを映像で記録して、そのDVDを職人さんも含めた関係者全員に配るということなのですが、これを始めてから職人さんたちの仕事はすごく変わりましたね。やはり、自分の技術が家を建てる人に喜びと感動を与えていることが見えるのは大きいんです。
―― かつては五嶋さんも「売上至上主義」だったとおっしゃっていましたが、そこから「皆生感動システム」に代表される今の考えになるまでにどんな転換点があったのでしょうか。中学生の頃は暴走族に入って、卒業後はとび職、そこから営業マンとして大成功するなど、本を読むと波乱万丈の人生を歩んでこられたことがわかりますが。
五嶋:暴走族は17歳くらいまでですね。当時はとび職をやっていたんですけど、どんなにがんばっても月に100万円くらいしか稼げなかったんですよ。
―― 月収100万円とはすごい額ですが、不満だったんですか。
五嶋:100万円と言っても、休みもなく寝ないで働き続けてそれくらいなんです。当時20歳前後で若いからそういうことができたんですけど、これを40歳までやれるかといったら無理でした。肉体労働ですから疲れるし、やっぱり危ないんですよ。これはずっと続ける仕事じゃないなということで、住宅リフォーム会社の営業マンに転職しました。
――「営業マン」っていうのはパッと思いついたんですか?
五嶋:そうですね。学歴が必要ないし資格もいらないというのが大きかったです。売ればいいわけで。
――その「売る」で多くの営業マンが苦しむわけですが、五嶋さんはすぐに成果が出たそうですね。
五嶋:すぐでしたね。暴走族もそうですが相当悪いことをしてきましたので、そういうところで言われる先輩からの無理難題に比べたら簡単だと思えたんです。全然怖くないじゃないですか、売れなくたって殴られるわけじゃないんだし(笑)
だから、楽勝だなっていう気持ちの方が強かったですね。覚えているのが面接の時のことで、「売れなかったら給料ゼロだよ」というようなことを言われたんですよ。
――完全歩合だったわけですね。
五嶋:完全歩合です。でもこっちは売れなかった場合のことなんて全然考えてなくて「売れたら売れた分だけちゃんとお金がもらえるんですよね?」ということが心配だった。だから、全然話がかみ合わないんですよ。「売れなかったらゼロだよ」「売れたらもらえるんですよね?」っていうやり取りになってしまって。結局「じゃあとりあえずやってみます」となって始めたらやはりすぐ売れましたね。
―― 話によるとあまりに売るものだから給与改定があったとか。
五嶋:3回くらいありました。本当に完全歩合で計算すると月収500万円くらいになってしまうことがあったのですが、そうなると会社も払いたくなくなってくるんですよ。だから途中で支店長になってくれと言われたんですけど、要は固定給にしたかったんですよね。完全歩合だと給料がとんでもない額になるから。
―― 当時の部下の指導法はどんなものだったのでしょうか。
五嶋:支店長になった時点でまだ23歳ですからね。23歳できちんとマネジメントできる人なんていませんよ。まだヤンチャでしたから言うことといったら「寝ないで働け!」くらいのもので。「なんで俺ができるのにお前はできないの?」とか。
―― それは相当怖い上司ですね。
五嶋:なんの理論もありませんでしたからね。だからたくさん部下は辞めていきました。30人くらいいたのに最終的には事務員さんと僕くらいしか残らなかったりして。
―― そこまで辞めてしまうと、会社から何か言われないですか?
五嶋:言われませんよ。辞めた人の分も僕が売上を立てていましたから。「人件費が浮いていいじゃないか」くらいに思っていました。ただ、そういうやり方にも結局は疲れてきてしまうんですよね。
お金ならもう十分あるわけで、なんでこんなにがんばって稼ごうとしているんだろうという葛藤が出てきてしまったんです。がんばればがんばるほど家族と過ごす時間がなくなって溝ができてしまうのでは、お金があっても幸せとは言えません。
それに気がついたところで、会社を離れて独立したのですが、その会社で、売上ではなく“おもてなし”を営業目的の最上位に置こうという企業理念を掲げました。でも、最初はただ理想論を掲げただけに近くて、その理念通りの活動はできませんでしたね。
―― スタッフに浸透しなかったということですか?
五嶋:というよりも、現実の経営はそう甘くなかったということです。どんな理念を掲げても、やはり日銭を稼がないといけませんから売上を優先させざるを得ない時もある。理念通りに経営できていない自分がいました。3年前に新築住宅の販売事業を始めてから、ようやく理念に現実が追いついた気がします。ここが、さっきの質問にあった「転換点」だったと思います。
―― その「転換点」のことについて詳しくお聞きしたいです。
五嶋:理念を掲げたのにその理念通りにやっていないのでは嘘をついたり誤魔化したりしているのと一緒です。だったら理念なんて最初から掲げずに「お金儲けのための会社です」と言ってしまったほうがまだ素直でいい。このままの状態が続くなら、会社をやっている意味がないなと思ったんです。
だから、新しく新築住宅事業を始めるタイミングで、理念通りやってみることにしたんです。それで経営が立ち行かなくなるようだったらそれはもう仕方がないという覚悟で。
―― 勇気のいる決断です。
五嶋:その時に歩合給をやめたんですけど、12人くらい辞めていきましたね。やっぱり歩合給の会社だと「売って稼いでやろう」とギラギラした人が集まってくるので、そういう人とは会社の方向性が合わなくなってしまった。でも、それは会社にとってはいいことだと思っていました。そうでないと会社が変わっていかないので。
幸い、この路線変更に共感してくれるスタッフもいましたし、新規住宅の事業が伸びたので、結果的には売上が10億円くらい増えました。これは自信になりましたね。
―― 多くの会社が「顧客第一」的な理念を掲げていながら、やはり「理想」で終わってしまいます。この状態を変えるにはどんなことが必要になりますか?
五嶋:一番はお客さんの「ありがとう」という声だとか手紙だとかが集まるようにシステム化してしまうことだと思います。
お給料が上がると確かにうれしいのですが、それで満たされるかというと必ずしもそうとはいえません。それよりも人の役に立ったとか、誰かに心から笑ってもらった時に仕事のやりがいを実感するものです。こうした実感を得やすいようにお客さんの「ありがとう」が集まる仕組みを作っていけば、理念に近づいていくことができますし、いずれは売上にも必ずフィードバックされます。
―― しかし、理念に忠実に会社を運営していくとしても、現実的な「お金」の問題はつきまといます。売上が振るわない時、経営者は会社にどういう働きかけをすべきでしょうか。
五嶋:僕ならダイレクトに言います。たとえば、出ていくお金が1億円で、売上が8000万円だと2000万円マイナスで、これはまずいからがんばろうね、という話はしますね。それで、がんばってもらったお陰で帳尻があったら、その時はまたちゃんと報告します。
でも、赤字が続くようなら雇い止めをするなり、現実的な対処は必要です。生産性の低い人に対しても可能な限り待たないといけないんでしょうけど、待てないこともあるでしょう。そういったことも常日頃から話していますね。
―― 最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いできればと思います。
五嶋:最初にお話したように、この本に書いたことが今後不動産業界や建築業界のスタンダードになるように、広げていきたいと思っています。Facebookなどで読んでくださった方々と交流していきたいので、ぜひ友達の申請をしていただきたいですね。
「皆生感動システム」について、もっと知りたいと思っていただけたなら、企業研修もやっていますので、参加していただければくわしくお話できると思います。
- 1章
「皆生感動システム」で日本一を達成 -
- 会社の実績は伸びているのに何かが足りない
- 15歳から昼はとぴ職、夜は暴走族
- 売った分だけ報酬になる営業職に就く
- もう限界だ! 会社を辞めよう!
- ”負けたくない”より”感謝”が勝っている
- お客様とスタッフが「感動」でつながる経営を目指す
- 【感動レポート】「笑顔」のみでなく「感動」を生産していきたい
- コラム:現在までの私たちの歩み
- 2章
お金では買えないものを渡す -
- 感動を演出する「引き渡し式」
- サプライズのプレゼント
- 【感動レポート】サプライズと感動に満ちた家づくり
- 家づくりを収録した感動のDVDでプラスの連鎖が起こる
- 【感動レポート】感動が感動を生む仕事に誇り
- 仕事へのやりがいと誇りが喚起される
- 家族にも感動がつながっていく
- 全体のモチベーションが高まる
- 【感動レポート】見えない部分にも徹底したこだわりを
- 「感動」を柱に経営理念を掲げる
- 掲げた理念を実践するには?
- カギは理念に共感してくれる仲間がいること
- 「皆生感動システム」が生み出す好循環
- 【感動レポート】家づくりのすべてのプロセスに感動を
- 住宅業界がサービス業界を超える時代が来る
- 「皆生感動システム」でお客様と生涯向き合う
会社づくり
- 3章
お客様は集めすぎるな![集客編] -
- 「4ステップチラシ」を使った集客術
- 2キロ圏内にチラシを撒く理由
- 大事なのは人を集めすぎないこと
- 「FUN FUNクラブ(会員登録)」に入ってもらう
- 【感動レポート】価格がオープンだったのも
決め手の一つ - ネット活用で来店前の不安を解消
- 【感動レポート】使い勝手を考慮した設計デザイン
も魅力 - お客様の来場時のストレスを取り除く工夫
- 結婚式の招待状と同じクオリティーで招待状を送る
- 4章
勝負は出会う前に決まっている[見学会編] -
- 当日はお客様の基本情報をしっかり記入していただく
- いつでもOKでは見学会の価値が下がる
- とことん家を大切に扱う会社だと伝える
- 徹底した接客を心がける
- 見学は確認作業だけ、残りの時間をたっぷり使える
- コラム:お客様の家を見学会場として借りるメリット
- 子ども連れでも安心して来店しやすい工夫
- 【感動レポート】保育士の資格を生かして笑顔のおもてなし
- 信頼感や安心感を高めるためスタッフ自ら工夫
- 見学会のゴールを設定
- コラム:ファンになってくれるお客様の存在が「財産」
- 住宅を売ること自体が目的ではない!
- ライフプランが決まるまで家の話に進まない
- コラム:社員の成長を感じた黒澤さんの英断
- とことんライフプランの必要性について説明する
- 5章
笑顔で申込書を差し出すだけ[ク口ージング編] -
- 第三者がプランナーとして加わる
- 大事なのはお客様寄りでも会社寄りでもない視点
- お客様の実際の「財布の中身」からプランニング
- 【感動レポート】お客様の不安や心配事に徹底して
寄り添う - 笑顔で申込書を差し出すだけでいい
- コラム:家具屋さんとのコラボレーション
- 買わない理由がない状況をつくる
- 6章
職人さんの顔が見える家づくり[着工式編] -
- 建物の予算を決めてから土地を探す
- コラム:「皆生感動システム」の意味を体感した出来事
- 土地探しは徹底して住む人の視点で
- お客様の色眼鏡を外してもらう
- 着工式が共通認識を生む貴重な場に
- 建築現場のスキルが大幅アップ
- 【感動レポート】着工式でコミュニケーションが深まる
- 【感動レポート】みんなが同じ目線で、同じ方向を向いて家づくりができる
- いちばんやりがいを感じる瞬間
- コラム:仕事が増えて楽になった!?
五嶋伸一
宮城県出身。1978年生まれ。中学校を卒業後、15歳から鉄骨鳶として7年間働く。その後、22歳で結婚し長男が生まれる。
「生まれてくる子と一緒に生まれ変わろう」そう決心し、擁帯電話をすべて変え、友人関係もすべて断ち切って生まれ育った故郷を離れる。23歳の時にはじめて履歴書を書いて、住宅リフォーム会社の営業マンへ転職。営業未経験ながら6カ月で支店長に昇進し、25歳でスタッフ300名を超える会社の営業本部長に最短、最年少で昇進。
その後26歳で独立。リフォーム事業を柱とするリアンコーポレーシヨンを設立し代表取締役に就任。平成24年に新築事業を始め、平成26年にはゼ口パーナーズ(http://zeropartners.net/)住宅販売で全国一位に。平成24年から平成26年まで全国のリフォーム事業者や工務店から構成される一般社団法人JACKグループ(http://www.e-jack.net/about/index_2.html)の関東理事。独自の集客から組織作りについての講演も多く手掛ける。独自の営業システムである「皆生感動システム」を公開する研修会を栃木県宇都宮市で開催。全国から住宅業界はもちろん、他業種からの参加もあり、すでに100社以上が参加し、2014年だけでも50社以上が参加。
- 定価:
- 1,300円(税抜)
- 著者:
- 五嶋伸一
- ISBN-10:
- 4877953086
- ISBN-13:
- 978-4877953089