この書評を書くために本書を開いた。
その瞬間から、私は著者の紡ぎだす言葉にどんどん手繰り寄せられていった。
そして一度も本から手を離すことなく、一気に読みきってしまった。
そして、一言。「すごい」。
本書を表現するには、この一言に尽きる。
本書は僧侶である塩沼亮潤氏の自伝であり、そして「千日回峰行」という荒行の体験記である。
僧が行う「荒行」というのは、我々俗世に生きる身からすればなかなかその内容を知る由もない。
しかし本書に書かれていた「千日回峰行」という荒行、想像を遥かに絶するものがある。
著者が行った「大峯千日回峰行」とは、奈良県・大峯山の頂上にある大峯山上本堂までの
往復48キロの山道を1000日間、1日も休まず歩き続けるという行である。
ただ、1000日間連続というわけではなく、山を歩く期間は5月3日から9月22日までであるため
、千日回峰行が終わるまで約9年かかる。とはいえ、高低差1300メートルの山道を1日で上り
下りする日々を約3ヶ月半もの間、それを9年続けるというから凄まじい。
また、いったん行に入ったならば、決して途中で止めることができないという掟があり、行者は常
に短刀と紐を携帯している。
そして、もし途中で止める場合は短刀で腹を掻き切るか、紐で首をくくり、命を絶たなければなら
ない。そのため、紐は「死出紐」という。
この苦行をやり遂げた塩沼氏であるが、本書のなかでこの行の最中、何度も死にかけたことを
告白する。そして、死の淵に立たされながらもそれを乗り越え、心を磨いていく。
本書にはところどころで当時、塩沼氏が書いていた日記が引用されているが、その日記からも
次第に悟りを開いていく様子が窺うことができる。
本書の中で、著者はどんどん成長し、私たち読者を置き去りにしていく。
しかし、塩沼氏は決して私たちの視線を忘れない。そして、心優しく語り掛けてくれる。
「苦行を経験したから悟れるものではない。大事なのは、行で得たものを生活の中で実践する
ことである。それぞれに与えられた立場でそれぞれに与えられた役目を果たしていく中でも、
多くのことを感じ、悟ることができる」、と。
(新刊JP編集部)
-1、『人生生涯 小僧のこころ』を拝読致しまして、
1300年の歴史の中で2人しか満行出来なかったという千日回峰行の凄まじさに圧倒されました。
塩沼さんは、なぜ千日回峰行に挑戦しようと思われたのでしょうか。
私が行に憧れる心が芽生えたのは、幼い頃です。
それ以来、高校卒業する時まで白装束を着て行をやりたいという心は色褪せませんでした。
その根底には、自分の心の中に少しでも人の役に立ちたいという心があります。
私の生まれ育った環境は思い通りになるような生活環境ではなく、周囲の方々に助けられて育てられました。
そのご恩に報いていかねばという想いが強かったのだと思います。
また、私の家では、古き良き昭和の家庭環境が残っており、
小さい頃から毎朝祖父祖母が神棚に手を合わせている姿を見ておりました。
そういう環境の中で、仏様に対して敬意を払う心が培われていったのではないでしょうか。
人様のお役に立てるようなお坊さんになるためには、まず自分の気持ちが穏やかであり、
色々なことを問われたときに、適切な言葉を皆様に申し上げさせて頂くような自分を作らねばならないという思いがありました。
人生という行を通して、自分自身を深く掘り下げることが必要だったのだと思います。
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- 出版社: 致知出版社
- 書籍名:人生生涯小僧のこころ
- 著者名:塩沼亮潤
- ISBN: 4884748036
- 価格:1680円(税込み)
- 発売日: 2008/03
- 長い旅のはじまり
- ひたすらに歩いた日々
- 縁に導かれて
- 第一章 千日回峰行とはどういうものか
- 大峯千日回峰行の歴史
- 回峰行のスケジュール
- 何ゆえに行ずるのか
- 第二章 私を行に向かわせたもの
- 奇蹟と難産の末にこの世に生を
- 貧しい家に生まれて
- 厳しかった母の躾
- 何もない豊かさ
- 旅立ちの朝
- 第三章 千日回峰行までの道のり
- 悩み涙した小僧時代
- 行を終えたら行を捨てよ
- 百日回峰行に入行
- 難所を行く
- 痛みに耐え続けた百日間
- 自分のことはすべて自分で
- 歩き方を学ぶ
- 第四章 心を磨く千日回峰行
- 覚悟の出発
- ●行日誌① 千日回峰行・序盤
- 限界と隣り合わせの日々
- 生きるか死ぬかの正念場
- 大自然と向き合って
- ●行日誌② 千日回峰行・中盤
- 野生動物と遭遇
- 小さき命を救う
- 不思議な出来事
- ●行日誌③ 千日回峰行・後半
- 土砂降りの中の法悦
- 今日より明日、明日より明後日
- 謙虚、素直、謙虚、素直
- 何のための行なのか
- 満行を迎えて
- ●行日誌④ 千日回峰行・終盤
- 第五章 いつも次なる目標に向かって
- 新たな目標、四無行に向けて
- 四無行に入行する
- 断水の苦しみ
- 思わぬ出来事
- あえて苦しみの胸元へ
- 四無行、満行
- お師匠さんの心遣い
- 故郷へ帰る
- 第六章 流れの中で ありのままに
- 最後に残った難関
- 人と人、心と心
- 今が一番幸せ
- 大自然のルールに沿って生きる
- エピローグ 人生生涯小僧のこころ
- 原点に返る
- 生きていく上で一番大切なもの
- 心を込めて日々を生きる
- 自然律に気づく